#4‐22 ナスガアル城でデュエル
アマンダとドゥモレ男爵の試合は、ヴァニエル・メルダ宮殿の中庭で行われることになった。
ロレアンスロゥプ皇帝は、大きな日傘の下で皇后や寵妃たちといっしょに椅子に座って観戦だ。
クール・ゴールデンロード大公は、プリシルやリリスたち、それにディアマトマム大統領やギルレウム伯爵たちといっしょに別の日傘の下に座っている。
ほかの貴族たちは、午後の暑い陽射しを浴びながら立って観戦だ。
中庭は試合が行われる直系30メートルほどのエリア以外は、ダエユーネフ軍の貴族たちや兵たちでいっぱいだ。中庭にはとてもはいり切れないので、宮殿の窓やベランダにも鈴なりとなっている。
スラリとした長身のドゥモレ男爵が中庭に現れた時―
「キャア―――っ!見て、見て!ドゥモレ男爵さまよ!」
「なんと凛々しいお姿っ!」
「ドゥモレ男爵さま―――っ、勝ってくださ――い!」
「応援しています―――ぅ!」
獣人や褐色エルフの貴族の婦女子や女使用人たちからの黄色い声援が響き渡った。
ドゥモレ男爵の人気ハンパない。
ドゥモレ男爵は身長180センチほど。
いかにもしなやかそうなスラリとした体つきだ。
ジャケットもベストも脱いで派手な金色のキュイラスを長袖シャツの上につけている。
腕にはアマンダと同じように、アッパーカノンとコーターをつけており、足にもキュイッスとパウレインとグリーブをつけている
男爵の武器は、刃渡り80センチのショートソードだ。そして、左腕にはランタン・シールドを構えていた。
ランタン・シールドは攻防一体の武具だ。40センチほどの大きさの金属盾と篭手が一体となったもので、篭手からは鋸歯状の長いスパイクが伸びている。 さらに盾には着用する者の腕と平行に長さ50センチの剣が取りつけられている。守りも攻撃も出来るという恐ろしい盾だ。
ドゥモレ男爵がアマンダとの試合で通常の盾でなくランタン・シールドを選んだ理由は、アマンダが二刀使いであることを見たからだ。
一方、アマンダはマントもジャケットを脱ぎ、防具だけの身軽な姿になっている。
彼女の武器は、刃渡り70センチのソードと40センチのソードだ。
アマンダはいつもと同じように落ち着いて立っていた。気負いなどまったく見られない。
「それでは、ただいまより、ルークドゥル国のアマンダ王妃とドゥモレ男爵の試合を行う!」
審判を買って出たクルフォルム侯爵が声を張り上げる。
アマンダとドゥモレ男爵は10メートルほどの距離に立つ。
「アマンダ王妃もドゥモレ男爵も、おたがいに相手の急所を刺したり、切ったりしてはいけない。よろしいか!」
「わかったわ」
「承知した!」
「それは... 始めっ!」
クルフォルム侯爵がデュエル・エリアから下がる。
ドゥモレ男爵はアマンダを見て、にこやかに笑い、優雅に一礼した。
アマンダも少し遅れて頭を下げて礼をした。
次の瞬間―
ドゥモレ男爵が跳躍した!
「アマンダさまっ!」
プリシルの叫び声に、アマンダがハッと顔を上げた時、
跳躍したドゥモレ男爵のショートソードが、彼女の頭めがけてふり下ろされる寸前だった!
ドゥモレ男爵はテアスジム王国の北にあるウッタラーコンド地方出身のユキヒョウ族だ。
そしてユキヒョウ族の特技は、そのずば抜けたジャンプ力にあった。
水平ジャンプであれば、15メートルは跳ぶことが出来る。
なので、10メートルの距離を跳ぶなどで楽に跳べる。
ガキィン!
ソードとソードがぶつかり火花が散った。
間一髪で抜きやすい短いソードでドゥモレ男爵の一撃必殺の剣を防ぐ。
しかし、間髪を置かず、男爵は左腕のランタン・シールドを突き出した!
ランタンシールド
「くっ!」
アマンダは素早くバク転しながら、左足で男爵の左腕を蹴り上げる。
ドゥモレ男爵はアマンダのいた位置に着地し、次の瞬間、また跳躍した。
男爵は、アマンダを倒すつもりだった。
“ダエユーネフ国には恩がある。突然、侵略して来て多くの仲間を殺したルーク王の妃など、
俺が殺してやる!あとで、つい力がはいりすぎてしまった、と言い訳すればいい”
バク転からすばやく立ち上がったアマンダは、男爵がふたたび跳躍したのを見ると、
迅速で長い方のソードを抜いくと男爵目がけて跳躍した。
「なにっ?!」
アマンダが同じように跳躍するとは考えてなかったドゥモレ男爵が目を見開く。
しかし、すばやくショートソードで切りつけて来る。
同時に左のランタン・シールドを突き出した。
逃れようのない死のダブルアタックだ。
アマンダは長い方のソードで男爵のソードを受けた。
しかし、突き出されたランタン・シールドの剣は短いソードで受けずに、ブレストプレートで受けた!
ガッキ――ン!
次の瞬間、アマンダの短いソードが男爵のブレストプレートの弱点である右腕の付け根に深く突き刺さった。
「グハッ!」
着地したドゥモレ男爵は、ショートソードをもった右腕の付け根をランタン・シールドを付けた左腕で押さえている。
右腕はブラリと下がっており、血がしたたっている。
「それまでっ!」
クルフォルム侯爵が、叫んで手を上げる。
オオオオオ―――――!
観衆がどよめき
「キャアアアアアア―――!」
「男爵さまが... お怪我を!」
「腕がぶら下がっていますわ!」
「なんとおいたわしい!」
獣人や褐色エルフの貴族の婦女子や女使用人たちからの悲鳴や心配する声が聞こえる。
中には卒倒した娘や婦人もいた。
中庭で観ていた観衆も宮殿の窓やベランダから見ていた観衆も大騒ぎだ。
「だいじょうぶか?」
クルフォルム侯爵がドゥモレ男爵に訊く。
「だいじょうぶです。まだ左腕が残っております。これからは片腕の騎士となって戦います!」
侯爵が兵たちを呼んで、男爵の傷の手当をするために連れて行くように指示する。
しかし、骨を断ち切られているので切断するしかないだろう。
「クルフォルム侯爵、男爵の傷の手当は、リリスにさせましょう!」
ゴールデンロード大公が椅子から立ち上がって言った。
「おお!そうか。では、リリス王妃さま、またお手を煩わせますが、男爵の治療をよろしくお願いします」
「かしこまりました」
切断するしかないと見えたドゥモレ男爵の右腕は、リリスの治癒スキルで元どおりになった。
ドゥモレ男爵は片膝をつき、恥ずかしがるリリスの手をとり、キスをしてから宣言した。
「では、わたくしめも、 クルフォルム侯爵殿に次いで、一番にルーク王、二番にリリス王妃さまに生涯お仕えする騎士となることをここに約束します!」
ゴールデンロード大公は、その様子を“やれやれ”といった表情で見ていたが、男爵の治療が終わった後で、城内にいる負傷者全員の治療をするようにリリスに命じた。
数時間後―
ナスガアルの城内にダルドフェル公爵のルークドゥル勇者王国第3軍の部隊がはいって来た。
武装解除をするためだ。
それと入れ替わるように、ゴールデンロード大公の一行はナスガアル城を出た。
途中でナスガアル城に向かうダルドフェル公爵と会った。
「大公さま、今回もたいへんお見事でございました!」
「いや、貴公こそ見事な戦いをされた。礼を言うぞ」
「礼など恐れ多い!」
ダルドフェル公爵は深く頭を下げる。
「では、我らはルークタラス城に帰る」
「はっ。アンジェリーヌ王妃さまとジョスリーヌ王妃さまが、陣地内で大公さまのお帰りを今か今かとお待ちしております」
「あとをたのんだぞ」
「おまかせください!」
公爵はふたたび頭を下げ、城内にはいって行った。




