#4‐21 ロレアンスロゥプ皇帝の決断②
ロレアンスロゥプ皇帝は、ゴールデンロード大公の後ろにいる女たちを見ていた。
群青色の長い髪をもつ耳の短い美女は、その美しい空色の目で油断なくあたりを見ている。
その女は膝下まである真っ赤なマントを羽織っており、その下には美しい装飾がほどこされたキュイラスをつけていた。 腕にはアッパーカノンとコーターをつけており、足にもキュイッスとパウレインとグリーブをつけており、その下はぴったりとした黒皮のパンツで、ロングブーツも黒皮だ。
そして、腰のベルトには右に長いソード、左にも短いソードを吊るしている。
隣りの同じく耳の短い女は、美しい金髪で青い目をしている。
服装は群青色の髪の女剣士のように、黄緑の短いジャケットと白いパンツにロングブーツといういでたちだが... 背中に1メートルほどの装飾が施された盾を背負っており、腰にはソードを下げている。
彼女は装飾のはいったキュイラス《胴鎧》を着こんでいる。
その後ろは、紫の髪の髪と金色の瞳の美女だ。
やはりブレストプレートをつけているが、その上に空色のジャケットを着て下には白いパンツを履いている。シューズも同じく空色。そして見事な装飾がされた半弓と矢がはいった矢筒を肩にかけており、腰にはソードを下げている。
その横に並ぶ二人のエルフ魔術師。
白い髪の美女は、あの恐ろしいカミナリで数十人の兵を黒焦げにした魔術師だ。
神職でもしているのか、白いトゥニカを着て青い目で皇帝を見ている。
そして、その隣りの黒髪と黒い瞳の美女―
この魔術師こそが、あの恐ろしい炎のドラゴンとなって、何百人もの兵を炭にしてしまった恐るべき魔術師だ。彼女は濃紺のローブを着て、あたりを睥睨するように見ていた。
ルーク王の代理と言うクール・ゴールデンロード大公との話し合いの場に参加した、ナスガアル城の貴族たちは、二人の美女魔術師をまるでルシファーを見るかのような目で見ている。
「それで... クール・ゴールデンロード大公殿。貴公はルーク王の代理と申したが、わが国に対して無条件降伏を勧めに来られたのか?」
「いえ。無条件降伏ではありません、ロレアンスロゥプ皇帝。ルーボードタン連邦への加入をお勧めに来たのです!」
「ルーボードタン連邦?」
「左様。 ルーボードタン連邦とは、それに加盟する国や地方・州には、独自の自治を認めますが、根本的な主権は連邦政府に属するというものです」
「... つまり、ルーク王が連邦を一手に握るということだな?」
さすが皇帝。象徴的存在とは言え、馬鹿ではない。
「その通りです。しかし、主権以外の既存権利はそれぞれの国や地方・州がこれまで通り維持できます」
「ワチオピアの三州も同じ条件で加入したのか?」
「もちろんです。連邦に加盟すると、加盟国はルークドゥル国で大成功を収めている商業や工業を導入でき、経済的に大いに発展することが可能となります」
ロレアンスロゥプ皇帝は、すでにミタン王国とボードニアン王国がルークドゥル国の技術支援、金融支援を受けて工業や商業を急成長させ、経済がかなり活発になっていることをディアマトマム大統領からの報告で聞いて知っていた。
「どうですか、ロレアンスロゥプ皇帝、それにディアマトマム大統領。ルーク王を信じて、ルーボードタン連邦に加盟しませんか?」
.........
.........
.........
5分ほど考えたあとで、皇帝は口を開いた。
「わかった。我輩はディアマトマム大統領に、ルーボードタン連邦に加盟することを勧めよう!」
「わかりました。これ以上戦ってもムダですし、勝算もない。皇帝陛下がそうおっしゃるのなら、ダエユーネフ共和国はルーク王の提案を受け入れ、ルーボードタン連邦に加盟いたしましょう」
ディアマトマム大統領は即座に答えた。
ムムムム――――…
広間にいる貴族たちが唸った。
パパパ パパパパ~ パパパ パパパパ~♪
《ロレアンスロゥプ皇帝 が 仲間に加わりました!》
《ディアマトマム大統領皇帝 が 仲間に加わりました!》
という声がどこからか聞こえた気がした。
「クッ...」
その時、クルフォルム侯爵が、包帯で巻かれた腕を押さえた。
三角巾で支えられた腕の包帯には血がにじんでいる。ルークドゥル軍の砲撃で片腕を失ったのだ。
「痛みますか?」
紫の長い髪をもつ空色の短いドレスの美女がクルフォルム侯爵に訊く。
「こ、これくらい大したことはない。戦いで命を失くした者たちに比べれば何でもない!」
「... よろしいですか?」
紫の髪の美女が仮面の大公に聞く。
大公が頷いたのを見て、紫の髪の美女はクルフォルム侯爵に近づいた。
「なにをする気だ?」
「お静かに」
「むっ...」
紫の髪の美女は、侯爵の腕を片手でとるとじっと見つめた。
すると、侯爵の腕が淡い光のようなもので包まれはじめた。
「!」
「な、なんだ、あれは?」
「侯爵殿の腕を治療しているのか?」
貴族たちが騒めきはじめる。
すると―
何と肘から先がなく、包帯で巻かれていた腕先が包帯を押しのけて、皮膚に包まれたミート・スティックのようなモノが出て来てグングンと伸びはじめたではないか?
「げっ!失くした腕が...!」
「再生しているだと?」
「まさか!」
「信じられん!」
ロレアンスロゥプ皇帝もディアマトマム大統領も、貴族たちも目を見張って奇跡のような光景を見ている。
皮膚をかぶったミート・スティックみたいなモノはどんどん伸びて腕の長さになると、次第に太さを増し、先端は見る見るうちに手のひらになり、5本の指が生えて来て爪まで再生して完全な腕になった。
「腕が元にもどった!?」
「おお!創造主さまのご慈悲だ!」
「違いない!」
「なんという治癒力だ!」
皇帝も大統領も貴族たちも、まるで奇跡を見ているかのようだった。
「もどった!...」
もっとも驚いたのは、クルフォルム侯爵だった。
用をなさなくなった三角巾と包帯をむしり取ると、リリスの前にひざまずき、頭を深く垂れた。
「あなたさまは、きっと創造主様のお使いに違いありません!」
「いえ。わたしはルーク王さまの妻のリリスです。創造主さまのお使いでも何でもありません」
「この エハド・ルスドゥワ・プレスタンネン、生涯あなたさまの下僕となって報恩のためお仕えをしたく存じます」
「いえ。そんなことをされては困ります。お仕えをするのは、ルーク王さまだけにお願いします」
「それでは、第一にルーク王、次にあなたさまにお仕えすることをここに誓います!」
「どうしましょう...」
リリスはチラッとクール・ゴールデンロード大公の顔を見た。
「いいでしょう。第一にルーク王に仕えると言うのであれば」
仮面の大公は頷くと、それから皇帝とその横にいる大統領を見て言った。
「ご紹介が遅れましたが、あらためてご紹介します...」
そして、アマンダ、プリシル、リリス、ミカエラ、そしてアイフィを紹介した。
「なんと! ルーク王の王妃が三人も来られていたとは?!」
ディアマトマム大統領がおどろく。
ロレアンスロゥプ皇帝もかなり驚いたらしく、アマンダたちを見ている。
「して... ルーク王の第一王妃、第二王妃、第三王妃を大公殿が、ここにお連れになった理由は?」
「ルーク王の代理である、私の護衛のためです」
「貴公の護衛?... むむっ... たしかに、アマンダ王妃は、かなり腕が立つようであるし、
先ほど、わが軍の兵が弓で攻撃した時も、矢をすべて弾いたと聞いておるが...」
皇帝は、アマンダたちの能力に関心があるようだ。
「アマンダ王妃は... そうですね、たぶん、一対一ならテルースの世界最強の剣士と言えるでしょう。プリシルは弓をとれば、百発百中という弓使いです。リリス王妃は、彼女の背中の盾を見てもわかるように、私の“盾”の役をしてくれています」
クール・ゴールデンロード大公は馬鹿ではない。
アマンダやプリシル、リリスなどのスキルをすべて教えたりしない。
アマンダは、ずば抜けた戦闘能力をもつほかに、誰よりも早く疾走でき、高く跳躍することができるし、プリシルはインヴィジブルと遠視スキルを持っている。
そして、リリスは絶対防御スキルをもっており、物理攻撃、魔術攻撃を撥ね返すことができる。
「ほう.........」
大公の話を聞いて、感心した声を発したまま、アマンダたちをじーっと見ている皇帝。
「お望みなら、この城内にいる腕利きの騎士と試合をさせてもいいですよ?」
「おおっ!わが軍の騎士と試合をさせてもらえるのか!?」
「おたがい、相手を殺さないという条件付きでよろしければ」
「も、もちろんだ!」
興奮のあまり、椅子から立ち上がった皇帝。
「クルフォルム侯爵、ナスガアルにいる、もっとも強い騎士は...」
「ドゥモレ男爵でしょう!」
「わたくしです、皇帝陛下!」
末席にいた三十代半ばと見える豹族の貴族が手をあげた。
「シュヴァリオ・デオン・ドゥモレ男爵と申します」
女性と見まがうような美しい金髪の豹族貴族は、大公とアマンダたちに優雅に礼をした。




