#4‐20 ロレアンスロゥプ皇帝の決断①
クルフォルム侯爵の軍は、ほぼ壊滅した。
ルークドゥル軍の砲撃と騎兵隊の追撃を逃れてナスガアル城に逃げ込むことができたのは、わずか2千人あまりだった。
4万近くあったのクルフォルム侯爵軍の兵は、その半分近くが戦死、または負傷し、残りはすべてルークドゥル軍の捕虜となった。
そして、ルークドゥル軍はナスガアル城の東側2千メートルのところに砲兵隊を前進させ、そこから大砲でナスガアル城の城門と城壁を破壊してしまった。
ナスガアルの救援のために駆けつけたファルモン伯爵とアングレム侯爵の軍も、ゾロワリン司令官が用意周到に配置したルークドゥル軍部隊の攻撃を受けて敗退してしまった。
万事休す―
ディアマトマム大統領も貴族たちも、すでに成す術を知らなかった。
「このままでは、落城を待つだけだ...」
ギルレウム伯爵が頭を抱える。
「いっそ、オルハル子爵のように降伏しますか?」
「馬鹿を言うな!ダエユーネフ共和国はルークドゥル国の属国にはならん!」
片腕を失くしたクルフォルム侯爵が血相を変えてカルヤム子爵を怒鳴りつける。
「では、ほかに解決策はあるのですか?」
ディアマトマム大統領の問いに、会議室にいる貴族たちは誰も答えない。
誰もがカルヤム子爵の提案がもっとも妥当だとわかっている。
だが、誇りあるダエユーネフ共和国の軍人として、降伏などは恥ずべきことだと主張するクルフォルム侯爵の剣幕の前には誰も何も言えないのだ。
だが、心の中では、オルハル子爵が以前通りの権益を保証してもらって降伏したのなら、自分も同じ条件で降伏したい、と考えているが、侯爵が怖くて言い出せないのだ。
その時、ドアが叩かれた。
近くにいた貴族がドアを開けると、一人の士官がいた。
「ただいま、クール・ゴールデンロード大公という貴族が5人の女性を連れて、大統領とお話がしたいと言って城門の前に来ております!」
ディアマトマム大統領たちは急いで壊れた城門まで行った。
城門の前にあった幅10メートルの空堀には、簡易橋がかけられていた!
「こ、この橋は... なぜ、敵に橋をかけさせたのだっ?」
クルフォルム侯爵が城門の防衛担当の貴族を叱責する。
「は、はぁ... しかし、こちらが弓などで射ろうとすると、敵はあの大砲をぶっ放して来るのです」
「!......」
侯爵は何も言えなかった。
そして簡易橋の向こう側には、仮面をかぶった貴族が5人の女性に囲まれて立っていた。
ほかにはルークドゥル軍の兵は一人もいなかった。
たしかに無防備のように見える。
それともダエユーネフ軍に、交渉のための捕虜としてとらえられたりする可能性を考えていないのだろうか?
そうでないのならば無謀すぎる。まさか、そこまで考えてから、たった5人の女を連れて来たわけではあるまい。
ディアマトマム大統領は、そこまで考えてから、まず使者の言上を聞いてみることにした。
「私がディアマトマム大統領です。それで、何を私と話したいのですか?」
「私はクール・ゴールデンロード大公だ。ルークドゥル勇者王国のルーク王の代理として来ている!」
その貴族は大きな声で言った。
「ルーク王の代理?!」
その時、壊された側塔の陰から10人の弓兵が弓に矢をつがえ、弦を引き絞った。
「やれっ!」
指揮官の命令で一斉に大公たち目がけて矢を放った。
「あぶないっ!」
即座にハウェンが絶対防御のバリアーを張る。
パシパシッ
パシパシパシパシッ
すべての矢が弾かれた。
「この―――っ!」
「卑怯な――っ!」
アイフィが 雷撃を放つ。
眩いばかりの電光が走り、1億ボルト、50万アンペアのカミナリが、矢が放たれた弓兵たちがいた側塔に当たった。
ドガ――――ン!
側塔にいた弓兵たちは指揮官を含め、全員黒焦げになった。
ミカエラは詠唱をはじめていた。
彼女の周りに炎が渦巻きはじめ、次第に大きくなり、ミカエラの姿は炎の中に消えてしまった。
炎はさらに高さを増しトルネードのように上に伸びて行くと―
何と、炎の手足と頭が現れ、ドラゴンの姿になった!
「ゲっ!炎のドラゴンだ!」
「ドラゴンだ!」
「ひぃっ!」
ディアマトマム大統領たちが慌てふためく。
“火神竜”は城壁目がけて口からファイアーブラストを吐き出し、東側の城壁と塔を焼き尽くした。
ギャ――アアアア!
グワ――アアアア!
助けてくれ――!
矢を射った弓兵たちはすでに感電ししていたが、ほかのただ見ていた兵たちも、巻き添えを食って焼き焦がされてしまった。
「やめてくれ―――っ!やめてくれ―――っ!」
ディアマトマム大統領が真っ青になって叫んだ。
弓で攻撃することを秘かに命じたギルレウム伯爵は、尻もちをついていた。
そのズボンには失禁のシミが広がっていった。
ヴァニエル・メルダ宮殿。
ナスガアル城の中にある、ダエユーネフ共和国の象徴的存在、アガドリム・ダエーボ・ロレアンスロゥプ皇帝の宮殿だ。
名前からもわかるように、テルースの世界最大の帝国を築いた初代ゼリアンスロゥプ大王の子孫だ。
ダエユーネフ共和国、テアスジム王国、ワチオピア地方の三国は、元はカジューマガル帝国だった。
しかし、テアスジム王国、ワチオピア地方がカジューマガル帝国から独立した時、帝国にも改革の波が押し寄せた。
ロレアンスロゥプ皇帝は戦いを好まない皇帝だった。
なので、テアスジム地方とワチオピア地方で独立を望む動きが高まった時、帝国軍を送って鎮圧させなかった。
その後、帝国内で国民が主体となる体制を望む声が高まると、さっさと権力も国政決定権も放棄してしまい、象徴的存在となってしまった。
しかし、そうは言っても、まだまだ政界や将軍たちの中には皇帝を崇める者も多い。
そのことから、国にとって重大な事態が発生すると、大統領や有力な貴族たちは謁見を求め、アドバイスを聞くのが常だった。
宮殿の中にある広間でロレアンスロゥプ皇帝は、テーブルの正面に座ってロレアンスロゥプ皇帝を平然と見ている仮面の貴族を見ていた。
その貴族は隆々とした体格をしており、金髪で短い耳をもっていた。
後ろにいる女たちも三人は同じように耳が短かったが、あとの二人は長い耳をもっており、エルフだとわかる。
この者たちは、エルフではない... あとの二人の女はエルフだが...
大公という男の身なりは、たしかに高級貴族のいでたちだ。
男が醸し出す気配は常人のものではない。幾多の大きな試練を乗り越えて来た者だけがもつ、経験と誇りに満ちた気概を感じる...
ディアマトマム大統領たちは、冷たい汗が背中に流れるのを感じながら、
クール・ゴールデンロード大公たちと向かい合っていた。




