#4‐16 ボットランド海海戦③
ダエユーネフ艦隊は先頭の旗艦が左に回頭しはじめ、それに続く二番艦、三番艦が回頭をはじめていた。
その時、ルークドゥル艦隊の側舷からパッパッパッパッっと一斉に白煙が上がった。
「砲撃?!」
「なにっ、砲撃だと?」
「砲撃だ!」
「バカなっ!距離は2マイル以上あるぞ!」
ゾロメーヌ提督たちが驚く。
「威嚇射撃か?」
「いや... 威嚇では、あんなに一斉に射撃をしないだろう!」
「し、しかし... 2マイル半ほども距離が...」
艦長が言い終わらないうちに、初弾が後部甲板を突き破り、ゾロメーヌ提督と艦長と数人の将校を挽肉にし、次の瞬間炸裂し、船尾を吹き飛ばした。
ゾロメーヌ提督の乗っていた旗艦は、T字戦法をとったルークドゥル艦隊旗艦による200発以上の一斉射撃を受け、そのうち20発が命中し、船体が数か所で破壊され、火災に包まれてまたたく間に沈没してしまった。
ダエユーネフ艦隊は、すでに三分の一が沈没、あるいは大破していた。
ダエユーネフ艦隊は恐慌に陥った。めいめいに反転して逃走を図ろうとするが、変針中にルークドゥル艦隊に追いつかれてしまった。
彼我の距離が千メートルを切った。
「滑空砲、砲撃はじめ!」
「滑空砲、砲撃はじめ――っ!」
艦長の命令を伝令将校が伝声管に叫ぶ。
「滑空砲、砲撃はじめ―--―っ!」
砲撃指揮官がどなる。
「滑空砲、撃て――っ!」
滑空砲の出番を今か今かと待っていた滑空砲の砲長が砲声に負けないようにどなった。
ズドドドドドド―――――――ン!……
ライフル砲よりひと際重い音を立てて150ミリ滑空砲が火を吹く。
大破、中破しながらもまだ沈没していなかったのダエユーネフ艦が、威力の強い150ミリ炸裂弾を受けて、次から次へと沈没して行く。
ライフル砲の砲撃でマストを破壊され、速度も出ないダエユーネフ艦隊の運命は、もはや風前の灯火だ。
辛うじて、縦隊の後尾にいた3隻が必死になって回頭を終え、遁走を図る。
ルークドゥル艦隊の縦隊には加わらず、砲戦にも参加せずに前方を索敵のため航行していたフリーゲート『ガエアール』は、快足を生かし生き残りの追跡に移った。
ダエユーネフ艦隊が海戦のために針路を変えたことにより、『ガエアール』はダエユーネフ艦隊よりはるか北側― つまり敵艦隊の後方― にいた。
遁走していたダエユーネフ艦は正面から『ガエアール』が接近するのを見て、大慌てで3隻がバラバラな方向に逃げはじめた。
「距離、約1マイルです!」
副長が艦長の顔ながら言う。
そろそろ砲撃を始めてもいいのではないですか?という目つきだ。
ダエユーネフ艦は2隻は陸地の方を目指し、1隻はさらに沖合を目指して逃げている。
『ガエアール』はどんどん敵艦に接近する。
敵艦は三本マスト、全長60メートルもある3等戦列艦だ。排水量1460トン、砲数は80門。
『ガエアール』よりも400トン以上重く、砲門数は2倍以上だ。
距離千メートル
敵艦の砲撃が始まった。
だが、14ノットの高速で走る『ガエアール』には当たらない。
.........
距離800メートル
敵艦はやみもくに撃って来る。
至近距離に水柱が上がるようになったが、艦長はまだ砲撃開始を命じない。
後部甲板のみんなも、甲板上の砲手と砲員たちも、砲撃開始の命令を今か今かと手に汗を握ってまっている。
.........
距離500メートル
ヒュルルル……
ザッパ――ン!
敵の砲弾が『ガエアール』の前方、わずか百メートルのところに着水した。
このままでは敵艦にぶち当てるのか?...と誰もが思った時、艦長が口を開いた。
「面舵一杯!」
「面舵いっぱ――い!」
総舵手が反復し舵輪を忙しく回す。
船体が傾きギギギギ―――っと軋む。
「左舷、砲撃開始」
「左舷、砲撃開始―――っ!」
伝令将校が伝声管に向かってどなる。
待ちに待った砲撃開始だ。
左舷の100ミリライフル砲12門と150ミリ滑空砲が次々と火を吐く。
ダエユーネフ艦の艦上にいる水兵たちのおどろいた顔が見える。
次の瞬間、敵艦の数か所でパッパと木片が散乱するのが見え、爆発が起こる。
バガガガガ――――ン!
黒煙が上がり、さらに大きな爆発が起こった。
ドドド―――――ン…
おそらく、敵の火薬庫が爆発したのだろう。
敵艦は真っ二つに割れると、見る見るうちに沈没してしまった。
「砲撃止め。針路、南西!」
『ガエアール』の艦長は、陸地方向に向けて遁走する敵艦の追跡を命じた。
今度の獲物は2千トン級の2等艦だが、相手にとって不足はない。
「提督、『ガエアール』から、遁走した敵艦のうち1隻を撃沈、もう1隻を追跡中との連絡がありました」
通信担当将校が、メネルヴァルゴ提督に伝える。
「『ガエアール』か... グワナド艦長だったな」
「はい。身体がバカでかい艦長です」
提督はシロクマ族のグワナド艦長の顔を思い出した。
2メートル半の巨躯だが、沈着なグワナドは優秀な艦長だ。
「砲戦には参加してないのだ、追跡を続けさせろ!」
「かしこまりました」
後ほど『ボットランド海海戦』と呼ばれることになったボットランド湾の海戦は、ルークドゥル艦隊の圧倒的勝利で終わった。
唯一、沈没をまぬかれたのは外洋を目指して遁走した1隻だけだった。
そしてゾロワリン司令官のルークドゥル勇者王国第2軍は、ダエユーネフ国の東岸に上陸した。
ルークドゥル艦隊
次回は12月31日の予定です。




