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#4‐14 ボットランド海海戦①

 ワチオピア地方の主要都市を20万人の精鋭で軍事パレードをしたルークドゥル国第3軍は、ワチオピア地方からダエユーネフ共和国の首都ナスガアルの北50キロの地点に侵攻(ドコデモボード移動)した。

ナスガアルは目と鼻の先だ。ナスガアルまでは、通常の進軍速度でも二日で到着できる。


 ダルドフェル公爵は元東ディアローム帝国の伯爵だった。

フルネームは、ヴァルゴーン・カーマドゥフ・ズムアンスロゥプ。

東ディアローム帝国のズムアンスロゥプ皇帝家の支流という名門中の名門だ。


 ダルドフェル公爵はルークが初めて大規模な戦に参加した『ビアストラボの戦い』の折にルークの説得で麾下に加わった、ルークドゥル軍の中でも最も貢献の長い貴族だ。

 ルークドゥル軍の将軍となってからの戦歴は輝かしく、ルークの信頼を勝ち得ていた。また、名門出身であることからほかの元東ディアローム帝国の貴族たちからも尊敬されていることもあって、ルークは彼を公爵に昇格し、今回の遠征軍の司令官に任命した。


「ルーク王殿の信頼に応えるためにも、今回の戦いでは是非とも大勝利をせねばならん...」

兵たちが忙しく野営地を造るために動き回り、声を出しているのを見ながら、ダルドフェル公爵はつぶやいた。

 ルークドゥル勇者王国第3軍が最後に軍事パレードをしたナーカダル州は、ワチオピア地方の中ではダエユーネフ共和国にもっとも近い。ルークドゥル勇者王国第3軍は、軍事パレードをしたその日の夕方に、村や集落からかなり離れた街道のポイントからドコデモボードでナスガアル近郊に移動した。

 すぐさま、周囲の偵察と脅威()をとりのぞくために、部隊を四方八方に放ち、残りの兵は野営地造りと防衛用の防御柵を作りはじめた。



  …… ◇ …… ◇ ……◇ ……

 


 ルークドゥル軍がワチオピア地方の三州で順次に軍事パレードをし、スティルヴィッシュ外相が太守たちとの会見でダエユーネフ共和国へ侵攻すると公言していることから、ダエユーネフ共和国はすでにナーカダル州とダエユーネフ共和国の国境に軍を送り込んでいた。


 しかし、先の『春の大攻勢』でダエユーネフ共和国はルークドゥル国の北から12万、北東からテアスジム軍との連合軍で6万もの軍を送り込み、北方戦線ではクルトネー司令官が早期に無条件降伏したため兵の損失はわずか3万で済んだが、北東戦線ではわずか2万人しか兵は残らないという大損失を被った。

 さらに悪いことに、北方戦線と北東戦線でルークドゥル軍に投降した将兵たちは― 全員、ルークドゥル軍の傘下にはいってしまったのだ!


 それにダエユーネフ共和国はワチオピア地方からの侵攻だけに軍を割くわけにはいかない。

『春の大攻勢』で大敗を喫したルークドゥル国の北部と北東部からのルークドゥル軍の侵攻にも備えなければならないのだ。

 しかも、ルークドゥル軍は大軍を海路大船団でダエユーネフ共和国へ向けて出航させたとの情報も入っており、首都ナスガアルにある大統領官邸の会議室は大混乱に陥っていた。


「ワチオピアとの国境に10万の兵を送っただけではルークドゥル軍の侵攻を防ぎようがない!」

クルフォルム侯爵がテーブルを叩いて叫ぶ。

「ワチオピア地方からの侵攻だけではない!ルークドゥル軍は5ヵ月前にわが軍が敗北した北部と北東部からも大軍を侵攻させるべく準備していると言うではないか!」

ギルレウム辺境伯も口から泡を飛ばして叫ぶ。

「それだけではありませんぞ?ルークドゥル軍は大船団をグラズ湾から出発させたという情報もはいっておりますぞ!」

アルセルモス男爵が冷静な声で言う。


「これでは勝ち目がありませんぞ、ディアマトマム大統領? いっそ停戦協定を提示してはどうですか?」

ドゥゾーザ厩役伯爵がディアマトマム大統領の顔を見据えて言う。

「し、しかし、ドゥゾーザ伯爵、圧倒的に優勢なルークドゥル国が停戦協定など受け入れると思われるのか?」

「そ、それは交渉して見なければわからんだろう!」

「その通りだ。ルーク王は元ブレストピア国のゲネンドル王の家族を処刑にせずに容赦したと言うではないか?話せばわかってくれると思う!」


「しかし、ルーク王が停戦協定を受け入れるための条件を提示したらどうするのだ?」

「条件?どのような条件を大統領は考えているのか?」

ギルレウム辺境伯が気色ばんで言う。

「たとえば、ダエユーネフ国の半分の領土を譲割しろとかだ」

「半分を割譲?!」

「そんなことは断じて認められん!」

「そうだ!南の領土が割譲されたら、我輩は領土を失ってしまう!」

「儂の領土もなくなるやも知れん!」

貴族たちがワイワイ騒ぎはじめた。

「ブレストピア王国もマビンハミアン帝国もルーク軍に占領されたあとで、なくなってしまったということを忘れてはいけない...」

「ダエユーネフ共和国がなくなってしまう...」


「.........」

「.........」

「.........」

「.........」


ディアマトマム大統領の言葉にみんな黙ってしまった。

 



  …… ◇ …… ◇ ……◇ ……




挿絵(By みてみん)



「敵艦隊左前方―っ! 約30隻っ!」

マストの上の見張りが叫ぶ。


「ゾロワリン司令官、左前方に敵艦隊を発見しました。約30隻がこちらに向かって来ています!」

将校が見張りの報告を後部甲板(クォーターバック)にいるゾロワリンに伝える。


 フリゲート艦『ガエアール』はルークドゥル国第の大船団の前方5千メートルを10ノットを超える速力で航行していた。フリゲートの主任務は索敵だ。なので普通の帆船に比べて軽量であり、足が速い。

『ガエアール』は全長40メートル、全幅38メートル、排水量は1030トンと艦隊の主力である戦列艦に比べて三分の一と軽く、船体もかなり小さい。

だが、ソントンプ研究所が開発した後装式口径100ミリ砲26門と150ミリ滑空砲を10門搭載しているのでポケット戦艦ならぬポケット戦列艦と称してもいいほどの攻撃力がある。

それに順風であれば14ノットの高速で走ることができるので、軽快で攻撃力の強い恐るべきフリゲートと言える。


 ルークドゥル勇者王国第2軍の大船団は『ガエアール』と同級のフリゲート5隻を含む34隻の軍艦によって護衛されていた。戦列艦は3千トン級の1等艦8隻、2千トン級の2等艦12隻、1千5百トン級以下の14隻で、すべて3本マストか2本マストの木造帆船で、元マビンハミアン国や元ブレストピア国の海軍が所有していた軍艦だ。



 ルークは鉄鋼生産の目処がついたことと蒸気機関の利用が可能になったことから、海軍もスクリュー推進蒸気機関の鋼鉄船を製造することにした。そして、エルオン湾にあった港を軍港に改造し、軍艦製造用の造船所を建設することにした。

 その計画をトゥンシー大先生たち、ソントンプ研究所の変人天才科学者たちに話すと、みんなズッコケるほど驚いた。


「こ、鋼鉄船?! 船体全部をですか?」

みんな、木造船しか知らないのだ。科学者であるだけ、「鉄は木より重いから沈んでしまう!」などとアホなことを言うやつは一人もいなかったが― しかし、鉄は沈むのでは?と考えた者もいたことを記しておこう― 鉄製の船というルークの提案は彼らの想像を絶した。


「いや、甲板は木材の上に10ミリほどの薄い鋼板でいいし、内装も必ずしも鋼板でなくてもいい。ただ、舷側は出来れば100ミリ鋼板にして欲しい」

「そ、それだと船が重くなり過ぎないですか?」

“やっぱり沈むのでは?”と考えた科学者もかなりいた?


「新式のライフル砲の重量は、旧式砲よりも軽いし、鋼板の重量比強度は木材とは比べものになりません」

「なるほど... たしかに、木造の戦列艦の舷側は40センチから60センチもありますから、結構重量がありますからな!鋼板を使うことで重量は減らしても強度は保てるというわけですな?」

「動力は帆を使わずに、その、すくりゅーとかいう羽根のような推進機関だけで船を動かすのですか?」

「そうだ。スクリューはネジと同じ原理で、ネジが回転しながら木に食い込んでいくように、船の後尾で海水の中で回転して推進力を得るのだ」


「なるほど!」

「ネジの原理ですか!それならよく分かりますな!」

「常人には考えつかない発想ですね!」

「そんな推進方法があったとは!」

変人天才科学者たちは大きく頷いたり、目を輝かせたりしている。

 

 それから、ソントンプ研究所では、鋼鉄船― まず最初は軍艦だ― の開発・建造チームが作られ、建造計画がスタートした。

 しかし、これも誰もが経験のない鉄鋼製の船体と蒸気機関の搭載、加えてスクリューを推進力とするという画期的な新造船なので、完成までには最低でも2年はかかるだろうと言うのがルークの予想だった。



  フリゲート艦 ガエアール号

  挿絵(By みてみん)



 『ガエアール』からの《敵艦隊発見》の情報をマデンキ(魔法式遠隔伝達器)で受信したゾロワリン司令官は、即座にメネルヴァルゴ提督に「敵艦隊を補足殲滅せよ!」と命令を下した。


 ルークドゥル勇者王国第2軍の大船団の護衛をする艦隊の司令官はメネルヴァルゴ提督だ。

彼も元マビンハミアン帝国の海軍軍人だったが、ルーク王の()()により新王を()()し、麾下にはいったのだ。


 ゾロワリン司令官の命令を受けたメネルヴァルゴ提督は、1年間以上にわたって訓練を重ねて来た戦法を迷わずにとった。

「全艦、単縦陣でわれ(旗艦)に続け。わが艦隊は敵艦隊の前方を塞ぐT字戦法をとる!」

命令はすぐさまマデンキ(魔法式遠隔伝達器)で各艦に伝えられる。


 第2軍の大船団の護衛艦隊は、およそ8~9ノットで船団の前方を囲む形で進んでいた。

メネルヴァルゴ提督の命令により、船団から離れ、満帆にすると速度を増して先頭を進む旗艦の後に次々と単縦陣を作る。



メネルヴァルゴ提督の指揮下にある戦列艦の武装は― 


1等艦(3千トン級)8隻  後装式口径100ミリ ライフル砲 24~30門 150ミリ滑空砲 20門 

2等艦(2千トン級)12隻  後装式口径100ミリ ライフル砲 18~24門 150ミリ滑空砲 12門

3等艦以下(1千5百トン級以下)14隻  後装式口径100ミリ ライフル砲  14~20門 

                                 150ミリ滑空砲 6~10門

 

 滑空砲は命中精度と射程においてライフル砲より劣るのだが、砲身内に施条(ライフリング)がない分、抜弾抵抗が小さいため、砲身への負荷も抑えらるのでライフル砲よりも薄い砲身で製造できるというメリットがある。

 ルークは滑空砲の砲弾を細長くし、尾部に安定翼をつけることで命中精度を上げさせた。それによって、通常の滑空砲の射程がせいぜい200メートルほどで、命中精度もほとんど期待できなかったのに対し、ルークのアドバイスを受け、ソントンプ研究所が開発した滑空砲の射程は千メートルと5倍も伸び、命中精度もライフル砲と比較して遜色のない兵器となった。


 対して、東ディアローム帝国とその傀儡国がようやく開発した大砲の砲弾はただの鉄玉だ。

テルースの世界の船舶は木造帆船なので、鉄玉の砲弾であっても200メートルから400メートルの有効射程距離に接近して砲弾を打ちこめば、敵艦の帆装や大砲などを破壊し攻撃力を奪ったり、操船不能にすることができるが、鉄玉砲弾は爆発もせず火災も起こさないため、うまく舷側の喫水線下に砲弾が命中しない限り沈没させることは出来ない。


 ルークドゥル海軍の艦載砲の砲弾は、これもソントンプ研究所が開発した焼夷弾と炸裂弾が積みこまれていた。なので命中すれば、その破壊力は鉄玉砲弾の比ではない。

 焼夷弾はたちまち水では消すことのできない火災を起こすし、炸裂弾は着弾時直後に弾殻が破裂し、弾殻の断片や散弾が四散し大きな損害をもたらす。さらに遅延信管を使えば、甲板や舷側を突き破って船底を破壊し沈没に至らしめる。それまでのただの鉄球を飛ばす旧式砲とは比較にならない破壊力・殺傷力&射程を持つことになったので砲数も半分ほどに減らせることになった。



  戦列艦船体断面図

 挿絵(By みてみん)



 砲数が減り、通常の戦列艦であれば、2層、3層の頑丈な造りの砲列甲板に最大であれば100門の重い大砲を積むのだが、ルークのアイデアを取り入れた改造戦列艦は、新式後装式ライフル砲を第1砲列甲板にだけ装備しているので、大砲を積まない第2砲列甲板と第3砲列甲板は、頑丈で重い甲板木材を減らして船の重量を減らすことも出来るというメリットと、大砲1門あたり最低6人から10人(36ポンド砲で20人という文献もある)の大砲要員が必要なので、片舷だけでも400人の要員が必要だったのを半数以下に減らせることが出来た。


 メネルヴァルゴ提督の艦隊は、ダエユーネフ艦隊とは比較にならない破壊力をもつ武器で装備されていたのだ。

 

 ダエユーネフ艦隊はこちらの船団を攻撃すべく、白波を蹴立てて単縦陣で迫って来る。




次回は12月25日投稿の予定です。

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