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#4‐12 構想と野望④

 ワチオピア地方、ガリュベン州の都オリッソのメーンストリートを行進するルークドゥル勇者王国軍。

20万の兵は一糸乱れず、メーンストリートに鈴なりのエルフたちが見守る中を堂々と行進している。

先頭を行くのはガバロス騎士団の5千騎だ。筋骨隆々としたガバロス戦士たちが、3メートルを超える恐ろしいバケモノ― ヴァナグリーにまたがってあたりを睥睨(へいげい)しながら行進する。 


 ワチオピア地方やボットランドなど、テルース東北部の住民はほとんどが褐色エルフだ。

彼らはヴァナグリーなど見たことがなく、その巨大さと獰猛そうな顔つきにオシッコを漏らしそうに怖がりながらも、怖いもの見たさでワイワイと騒ぎながらガバロス騎士団の行進を見ている。


 その後に続くのは6千人のクロスイギュウ部隊だ。

クロスイギュウ部隊は、『春の大攻勢』でルークドゥル国北西部から侵攻した元東ディアローム軍の先遣部隊だった。クロスイギュウ族は体重1千キロあり、1メートルもある長いツノと時速60キロという高速で、誰もが恐れる猛牛族だ。


 クロスイギュウ部隊だけでなく、『春の大攻勢』でルークドゥル軍の計略で戦いに負け、捕虜となった後にルークに説得され“信頼”を植え付けられ、ルークドゥル軍に加わることになった元東ディアローム軍や元ダエユーネフ軍、元テアスジム軍の将兵はかなりの人数に上る。


 ルークドゥル軍の中核は、これまでのいくつかの戦い― ブンドリ半島の戦い、ブレストピア・マビンハミアン戦役、それに今回の春の大攻勢での戦いなどで、ルークが説得し、味方に引き入れた軍や降伏後にルークが説得し傘下にはいった軍からなっている。

これがルークドゥル軍の強味で、戦いの経験の豊富な指揮官や兵たちで構成された軍なのだ。


 クロスイギュウ部隊のあとには牛族部隊、馬族部隊、犬族、ネコ族などの部隊が行進した。

メーンストリートに特別に設けられた閲覧席で大きな日傘の下にルークドゥル勇者王国のプリシル王妃、外務大臣のスティルヴィッシュ伯爵と並んで座って閲覧していたガリュベン太守が甚だ興味を示したのが、二頭立ての馬車に牽かせた黒く長い筒状のモノだった。

 太い筒は先の方がいくぶん細くなっているが、根本はかなり太く、車輪のついた頑丈な台に据え付けられている。


「スティルヴィッシュ伯爵殿、あれは何ですか?」

この地方の褐色エルフの伝統的帽子であるドゥルバンドを頭にかぶったガリュベン太守が聞く。

「あれはわがルークドゥル勇者王国軍の最新兵器、『大砲』です」

前後を騎馬隊に守られる形でガラガラと車輪の音を立てて通る砲兵隊。

「大砲!?」

ざっと見ただけでも200台の馬車だ。


「早く言えば、強力なカタパルトのようなものですな! しかし、その射程はカタパルトの10倍!破壊力は100倍ですぞ! ワ―――ッハッハッハ!」

大笑いをする外務大臣。

太守は追従笑いをしながら、後ろの席に座っている部下の将軍たちをチラッと見たが、彼らも青い顔をして追従笑いをしていた。


テルースの世界の攻城兵器であるカタパルトの射程は、最大でもせいぜい400メートルほどだ。

『大砲』はその10倍ということは4千メートルにもなるのだ。

テルースの世界のどの兵器でもそれほど大きな射程をもつ兵器はない。

しかも『大砲』の脅威はその驚くべき射程だけではない。破壊力は100倍だと言うのだ!?


カタパルトは重さ50キロ~80キロほどの石を梃子の原理を利用して飛ばすもので、城塞などの破壊に恐ろしい破壊力を発揮する武器だ。

大砲はそのカタパルトの100倍の破壊力をもつとルークドゥル国の外務大臣は言っている。



 4ヵ月前の東ディアローム帝国と同盟国によるルークドゥル国への侵攻作戦は失敗し、東ディアローム帝国とその同盟国は甚大な損害を受けたということをワチオピア地方の太守たちはすでに知っている。

そしてルークドゥル軍はほとんど損害がなかったということも。

 それに加えてルークドゥル国にはアルドラルビダカの魔術師たちを倒すほどの魔術師たち― 『ルークドゥルの魔術師』としてテルースの世界中に有名になった強力な魔術師部隊もいると情報も得ていた。

 ワチオピア地方の弱小国は、世界の情勢変化に敏感に反応しなければ生き残ることは出来ない。それゆえ、彼らは大国でさえ驚くほどの情報網をもっていた。


「ガリュベン太守閣下、カタパルトの100倍と言っても、俄かには信じがたいでしょうから、わが軍がダエユーネフ国を攻略する時に、閣下と貴国の将軍たちをオブザーバーとしてご招待しますよ!ガ―――ッハッハッハ!」

スティルヴィッシュ伯爵は大砲の威力を誇張して言っていた。

射程は確かにカタパルトの10倍近いが、威力はいくら火薬を使っていると言っても100倍にはならない。

しかし、宣伝は大げさである方が効果があるのだ。


「おぶざーば?...」

「戦いに参加しない中立の観察者のことですわ」

プリシル王妃がにっこりと笑って答える。

「観察者...」

太守が言いかけた時、メーンストリートで行われているルークドゥル軍の軍事パレードの上空に何かが飛んで来た。


「あれはっ?」

「大きい鳥?」

「いや、鳥ではない!」

「エルフだ!」

「エルフが飛んでいる!」

太守や将軍たちが騒ぎはじめた。


「さよう。あれこそが、“ルークドゥルの魔術師”たちですよ!」

「テルースの世界最強の魔術師ですわ」

スティルヴィッシュ伯爵とプリシル王妃が誇らしく言う。

「あれが“ルークドゥルの魔術師”!」

「“ルークドゥルの魔術師”ですって!」

「10人くらい飛んでいる!」


ルークドゥルの魔術師たちの先頭を飛んでいた一人の魔術師の周りに突然炎が発生し渦巻きはじめた。


「!?」

「飛んでいるエルフが燃えた!?」

「炎に包まれたぞ?」

「キャ―――っ、エルフが燃えているわ!」

「焼身自殺か?!」


将軍たちや太守の正室や愛妾たちが騒ぎ、軍事パレードを見ていた市民たちも大騒ぎをしている。

魔術師を飲み込んでしまった炎は急速に大きくなり、50メートルほどの大きさになった― 

そして次の瞬間、何と炎の手足と頭が現れ、ドラゴンの姿になった!


「ドラゴン!」

「ドラゴンだ!」

「炎のドラゴンだっ!」

「火のドラゴンよ!」


そう、それはミカエラが得意とするヨガヴィッドの究極魔法“火神竜”だった。


ゴオオオオオオ―――――――……!


火神竜は前方に向かってファイアーブラスト(火炎流)を吐き出した。


「火を吐いたっ!」

「キャアアア――!」

「スゴイっ!」

「これがルークドゥルの魔術師かっ?」

「凄まじい魔法だ!」


ファイアーブラスト(火炎流)を3回ほど披露したあとで、ミカエラは魔法を解き、ふつうの姿になって飛び続けた。


今度はジョスリーヌのデモンストレーションの番だ。

彼女は氷神竜と化し、アイスストリーム(凍てついた奔流)をまき散らした。


ミカエラはファイアーブラスト(火炎流)を発動させるにあたって、火の粉などが地上に落ちてエルフたちに火傷をさせないように気をつけたが、ジョスリーヌは細かい氷片が落下しても誰も怪我をしないと知っているので、建物や市民たちの上に落ちるようにアイスストリーム(凍てついた奔流)をまき散らした。


 それがまた大騒ぎになった。

季節外れの雪― 実際は細かい氷片なのだが― が、青空が見えなくなるほど降ったので、エルフの大人たちは驚き、子どもたちは雪合戦まではじめる始末だった?


 ミカエラとジョスリーヌによる凄まじい魔法デモンストレーションが終わったあとで、ルークドゥルの魔術師たちは閲覧席の前をゆっくりと飛行しながら、太守、正室、愛妾と将軍たちににこやかに頭を下げてあいさつをして飛び去った。


 メーンストリートでは、ルークドゥル軍の傘下にはいった元ダエユーネフ軍の部隊が、美しい栗毛の馬に乗り、黄金で装飾された立派な剣を吊るしたヒムリドール将軍を先頭に整然と行進をしていた。

ヒムリドール将軍の部隊2万人からなり、その半分が獣人族、残り半分がワチオピア地方の住人と同じ褐色エルフだ。1万人の褐色エルフ兵がザッザッザッと行進するのを見て、オリッソの市民は歓声を上げた。



「ガリュベン太守閣下。わが国との友好協定の締結、結論は出ましたかな?」

ルークドゥルの魔術師たちが空のかなたに消えて行くのを見送ったあとで、スティルヴィッシュ伯爵は太守の目を見据えて訊いた。

ガリュベン太守は、地獄で鬼でも見るような顔で、スティルヴィッシュ伯爵を見た。

ちなみにスティルヴィッシュ伯爵は鬼人族ではなく、エルフなのだが。




次回は12月18日の予定です。

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