#4‐11 構想と野望③
翌朝。
会議室に朝から集まったルークドゥル勇者王国の猛者の面々。
ブンドリ半島での戦いからブレストピア・マビンハミアン戦役、そして3ヵ月前の東ディアローム帝国と傀儡国による侵略を食い止める戦いなどを戦い抜いて来た猛将たちだ。
「昨日、遅くまでパーティーがあったにもかかわらず、朝早くから集まってもらったのは他でもない。昨夜のパーティーの最中に、私が抜け出した者がいたことに気づいていた者もいたであろうが... ルークドゥル勇者王国は新たな戦いを開始することになった!」
作戦などについて話をする時は、ふつうは参謀長であるアマンダが話をするのだが、今日はめずらしくルーク王が口火を切った。
昨夜の酒の酔いがまだ醒めやらぬ顔で集まった面々も、ルーク王が自ら話しはじめたので酔いが醒めたようにシャキッとして聞いている。
「今回の戦いの目標は、テルースの東部平定だ!」
リリスがハウェンといっしょにテルースの世界地図に昨夜、アマンダが東部エリアを赤チョークで囲ったものを地図掛けに吊るして見せる。
オオオオオオ――――――!
猛将たちが唸る。
「腕が鳴るのう!」
「まったくだ!」
「われわれは戦う事しか能がないからな!」
「そうともよ!」
猛将たちは戦う気満々だ。
それからはアマンダとプリシルがあとを続けた。
ラーシャアグロス王国は東ディアローム帝国の南部地域制圧を目指して作戦を進める計画であること、ドワーフ国はレウエンシア大公国とワーリー大公国の制圧を最大目標に掲げたこと。
「ただし、西ディアローム帝国は東部地域にも南部地域にも出兵しません。その理由は、アングルスト帝国とベルミンジャン王国の動きが最近不確かなことが理由です」
アングルスト帝国とベルミンジャン王国は、テルースの世界西部に位置するトロール国で、西ディアローム帝国と東ディアローム帝国の戦いには中立だったが、数年間にわたるキャルニボル大統領の粘り強い交渉の末に西ディアローム帝国は両国と軍事協定を2年前に締結した。
その協定にしたがってアングルスト帝国とベルミンジャン王国は40万にものぼるトロール軍を東ディアローム帝国との戦線に送り込み、それまで劣勢だった西ディアローム帝国の戦況を大きく変えたのだった。
キャルニボル大統領は、昨夜、秘密会議でルークが『ルーボードタン連邦構想』を公表し、モモコ大王がラーシャアグロス王国が東ディアローム帝国の南部制圧計画を発表し、さらにドワラン王がドワーフ国はウエンシア大公国とワーリー大公国を制圧する計画を実施する予定であることを発表したあとで、西ディアローム帝国は新たな軍事作戦を実施する予定がないと発表し、その理由はトロール族にあると言ったのだ。
「うーむ... トロールどもの動きがおかしいとは聞いてはおったが...」
とモモコ大王が腕を組んでつぶやいた。
「おそらく、切羽詰まった東ディアローム帝国がトロールどもを金で買ったのかも知れん!」
マスティフ将軍が唸りながら言うとマーゴイ将軍もシャーと威嚇の声を出しながら吐き捨てるように言った。
「ガナパティ厩役伯爵によると、アングルスト軍とベルミンジャン軍は前線にいる将兵は長い戦いで疲労しているので本国から送る軍と交代させると知らせて来たそうです」
「アマンダ王妃殿、ではアングルスト軍とベルミンジャン軍はメジアグロス海を使って引き上げているということですな?」
「その通りです、ナエリンダン侯爵さま。しかし、この先、アングルスト帝国とベルミンジャン王国がどう出るか予測はつきません」
「もしかすると、西ディアローム帝国に攻め入るかも知れないと言うことですね?」
エルゼレン伯爵が長いあごに手を添えながら言う。
「その可能性なきしにもありませんが、現時点では確かなことは何も言えません。キャルニボル大統領も情報収集に力を入れているそうですから、何かあったらすぐに連絡してくると思います」
「東ディアローム帝国はわが国への侵攻作戦で大損害を被ったので、今度は西側で動き出すとすればつじつまが会いますな...」
ギャストン伯爵の言葉にみんな大きく頷いた。
「モモコ大王は南部制圧作戦などについてボロツク公国のグレディアン・シュテン大公とラーシャアグロス王国で会議を開くといって急遽、今朝帰国しました。なので、こちらにはモモコ大王の番の日しか来られ... あ、今のは失言です。会議が済み次第もどって来られるそうです」
プリシルは訂正したが、猛将たちは全員理解した?
ボロツク公国のグレディアン・シュテン大公もシュテン一族だ。
同族であることもあって、ラーシャアグロス王国とは常に共同戦線を張って東ディアローム帝国と戦って来た。
だが、昨夜、秘密会議でキャルニボル大統領からアングルスト帝国とベルミンジャン王国の動きが不穏なことを聞くと、ベルミンジャン王国とはおたがいラブール海に面した隣国という地理的位置にあるため、万一の場合に備えてボロツク公国の防衛体制などについて話し合うのだろう。
「それでは、今からダエユーネフ国の攻略作戦を説明します...」
アマンダが色チョークで侵攻ルートを地図に書き入れながら話しはじめた。
①ルークドゥル勇者王国第1軍⇒ ナエリンダン侯爵のガルンロム要塞、そしてエンギン辺境伯のオドグタール要塞から2ルートでダエユーネフ国南部へ侵攻。
②ルークドゥル勇者王国第2軍⇒ ルークドゥル国東北部のグラズ湾から出航し、ダエユーネフ国東部海岸に上陸侵攻。
③ルークドゥル勇者王国第3軍⇒ ワチオピア地方南部から ダエユーネフ国北部へ侵攻。
オオオオオオ――――!
将軍たちが声を上げる。
「①の侵攻ルートは陸路、②の侵攻ルートは海路というのはわかるが、③のワチオピアからの侵攻というのは... 例のドコデモボードとやらを使うのだろうが、ワチオピアの太守たちとはすでに軍事協定でも結んでおるんですかな?」
「いえ、ワチオピアの太守たちとは何の協定も締結していません、ゾロワリン伯爵さま。ルークさまは太守たちに通行料として金貨30万枚を支払って軍を通す考えで、スティルヴィッシュ伯爵が近日中に交渉を開始する予定です」
「金貨30万枚!」
「すごい金額だ!」
「それだけ払えば絨毯を敷いて通らせてくれるであろう!」
「いや、しかしわからんぞ? ワチオピアもボットランドもずっと中立だったからな」
将軍たちがワイワイと話しはじめる。
「金貨30万枚は交渉のテーブルにつけるための餌です」
外務大臣のスティルヴィッシュ伯爵の言葉に、将軍たちは一瞬で静かになった。
「騙す、と言うのか?」
マスティフ将軍が唸る。
「貴公たちはご存じかどうか知らないが、ルークドゥル勇者王国はかなり経済的によくなったと言っても、金貨30万枚もの捨て金を払う余裕はありません。そこで軍事パレードを行って、太守たちに通行を許可させるのみならず、ルーボードタン連邦に組み入れるのです!」
「軍事ぱれーど?」
「軍事ぱれえど?」
「るーぼーどたん連邦?」
「ルーボードタン連邦?」
「軍事ぱれえどとは?」
「なんですか、そのるーどぼ何とかというのは?」
「ルーボードタン連邦とは、ルークドゥル勇者王国、ボードニアン王国、それにミタン王国の名前からとりいれた連邦名で、ルークさまはわが国とボードニアン王国、ミタン王国、それにワチオピア地方とボットランドを併合した一大経済圏を作ることを目標とした構想を打ち立てられました」
オオオオオオオオオ――――!
アマンダの説明に将軍たちがどよめく。
一大経済圏とか併合とか、よく意味がわからない者が大半だが、何だかとてつもないことをルーク王が考えていることがわかったのだ。
「そして、軍事パレードとは、ルークドゥル勇者王国軍20万を最新鋭の武器とともにワチオピアの太守たちの都を行進し、その威力を見せつけることです」
オオオオオオオオオ――――!
将軍たちがふたたびどよめいた。
ダエユーネフ国侵攻作戦図
次の投稿は12月15日の予定です。




