#4‐09 構想と野望①
ルークは夫としての義務を果たしたあとで寝室を出ると、衛兵にあることを命じた。
しばらくしてから、『平安の間』と呼ばれる暖炉のある部屋に次々と人が集まりはじめた。
その部屋は、ルークが王妃たちや親しい者とお茶を飲んだり、話をしたりするところだった。
最初に入って来たのはドリアンスロゥプ皇帝とキャルニボル大統領で、アマンダとギャストン伯爵に付き添われて入って来た。少し遅れてガナパティ厩役伯爵がプリシルといっしょに入って来た。
次いでモモコ大王がエンマ大公と連れ立って入って来た。そのあとでボロツク公国のグレディアン・シュテン大公とバンカルラ公爵、バルンバム伯爵。
次いでボードニアン王国のオルガス王が ズルドゥベリー大公とともに現れた。 ズルドゥベリー大公の名前はモードム・ディザルド・ボードニアン。オルガス王と名字が同じなのを見てもわかるように、オルガス王の伯父であり、同国の軍事面を担当している。
それからドワーフ国のドンゴ・ロス王、軍事大臣のボンタレーパ公爵、続いてミタン王国のバーボン王、宰相のクレール侯爵、エルブルック厩役伯爵。
そのあとでルークドゥル国の主な閣僚― スティルヴィッシュ伯爵(外務大臣)、ペンナス伯爵(経済・貿易大臣)、ゲラルド侯爵(農業・漁業・工業大臣)が着席した。
リリス、ハウェン、アンジェリーヌ、ミカエラ、アイフィなどを入れると、30人近い人数になり、それほど広くない『平安の間』は狭くなった。
全員を一度に呼ばなかったのは、怪しまれないためだ。
秘密会議を急遽開くにあたって、ルークはまず最初に衛兵に命じてアマンダとプリシルを呼び、5国同盟の首脳を呼んでもらったのだ。
どこからどう情報が洩れるかも知れないので、用心するに越したことはない。すでに親衛隊に命じて、部外者は誰も近づかせないようにしている。
「皆さま。せっかくパーティーで楽しまれていたところをお呼び出しして申し訳ない」
「モゴ... ワガハイは飲み足りナイ」
「陛下、何か重要な発表があるのです。しばし我慢ください」
キャルニボル大統領がドリアンスロゥプ皇帝をなだめる。
「ルーク王殿、お続けください」
「申し訳ない、キャルニボル大統領。実は先ほど、 アガピウス教皇聖下からご教示をいただきましたので、皆さまと共有いたしたいと思いまして集まっていただきました...」
そして、ルークは語りはじめた。
アガピウス教皇が、“威力をもってエテルナール教の教えを遍くテルース世界の世界中に流布せよ”と言ったことを。
「モゴッ... デハイヨイヨ始メルノカ?」
「はい。東ディアローム帝国陣営は、三ヶ月前の侵攻作戦の失敗による痛手から立ち直っていません。実を言えば、あの東ディアローム帝国と傀儡国による『春の大攻勢』を阻止したあと、すぐにこのテルース東北部、とくに ダエユーネフ共和国への侵攻を考えましたが...」
「教皇の心証があまりよくないと伝えられたのだな?」
「その通りです、ドンゴ・ロス王。そこで延ばした方がいいと思いまして」
「その間にエテルナール教総本山に金貨5千枚の布施をしたのだ!」
モモコ大王がニヤリと笑って大声で言う。
「いや、今回の結婚式に教皇聖下がご列席くださるとのお返事を頂きました時に、路銀代としてあと5千枚を贈呈しました」
ムムっ...
オオっ...
ホオ...
声にならない声が響いた。
「ルーク、おまえそれは私に報告しなかったじゃないか?!」
金貨5千枚は、約5億円に相当する金額だ。
そのような大金を教皇に払ってエテルナール教総本山と外交交渉をしていたとは知らなかったモモコ大王が食ってかかった。
「先週、モモコ大王の番の夜にそのことを言おうとしたら、早くベッド行こうと言って聞こうとしなかったのは誰でしたかね?」
「むぐぐぐ...」
さすがのモモコ大王も沈黙してしまった。
皇帝や王たちは笑いを堪えるのに必死だった。
「つまり、それらの策の効果もあって、教皇は正式に侵略を承認なされたというわけか...」
オルガス王が腕を組んで言う。
「たしかに、先の戦いではルークドゥル軍はほとんど無傷だったらしいですからな。さらに、元ダエユーネフ国の魔術師たちも味方につけ、強力な魔術師部隊を作ったと聞きますから、侵攻作戦も問題なく実施できるでしょう!」
ズルドゥベリー大公が大きく頷く。
テルース東部平定構想
アマンダがルークがテルースの世界東部平定構想について、地図をみんなに見せながら説明する。
「この作戦には、ボードニアン王国とミタン王国の参加を是非お願いしたく存じます!」
「わかった」
オルガス王は即答した。
「何? わがミタン国もか?」
「当然です、お義父さん。私がこの世界に来て最初にお世話になったのがミタン国です。その上、アンジェリーヌとジョスを妻にいただいたのですから、今回の戦いにも是非参加いただき、ミタン国の領土を増やして欲しいのです」
「む... 婿殿、いや、ルーク王殿、かたじけないっ!」
「ルークとお呼びください、お義父さん」
やり取りを聞いていたアンジェリーヌとジョスリーヌの目には涙が浮かんでいた。
ミタン国はテルースの世界では、弱小国家の一つだ。
それ故、ブレストピア国もマビンハミアン国も、隙あらばミタン王国を占領しようと虎視眈々と狙っていた。
すでにブレストピア軍は、ブンドリ半島の大部分を占領していた。
そして、ブレストピア・マビンハミアン戦役が起こり、ルークの活躍がなければ、今頃ミタン王国は消滅し、ブレストピア・マビンハミアン両国に分断占領されていたことだろう。
ルークのおかげでブレストピア・マビンハミアン戦役に勝利し、ミタン王国はブンドリ半島を取り返しただけでなく、元ブレストピア国の領土の一部さえ自国領とすることができた。
バーボン王は、ルークにはいくら感謝してもしきれないと常に考えていた。
そして、アンジェリーヌとジョスリーヌが美しい娘でよかったとつくづく思った?
「それにしても、あのオドグタールの戦いでのルークドゥル軍の動きというか、作戦は見事でしたな? まるであらかじめテアスジム軍とダエユーネフ軍の侵攻ルートと作戦を知っていたかのような采配でした?」
ボンタレーパ公爵が感傷的になった場の空気を変えようとアマンダの方を見ながら言う。
オドグタールの戦いで、ルークドゥル軍がドコデモボードを使って兵力を移動したということは、同盟国には伝えていない。彼らもドコデモボードの事は知っているので、中には薄々気がついている者がいるかも知れないが、それほど大勢の兵を送れるとは知らないし、ましてやマソキの存在も知らないのだ。
「今回のルーク王の作戦は、ラーシャアグロス王国から離れすぎているので、占領した領土をわが国と併合することは不可能だ。したがって、わがラーシャアグロス王国軍は、東ディアローム帝国の南部を侵攻・征服してわが国の領土とする!」
モモコ大王がアマンダから赤チョークを受け取ると、地図にラーシャアグロス王国が領土とする範囲を囲った。
「それでは、ドワーフ国も新しくわが国の領土とすることを考えている地域をこの際、公表することにしよう!」
ドンゴ・ロス王が言うと、ボンタレーパ公爵がモモコ大王から赤チョークを受け取り、レウエンシア大公国とワーリー大公国の領土を赤く囲った。
西ディアローム帝国同盟国の構想
「モゴ モゴ... コレガ実現シタラ 東ディアローム帝国ハ モハヤ 風前ノ灯火ニナル モゴッ!」
ドリアンスロゥプ皇帝はしきりにモゴモゴを連発している。
かなり興奮しているようすだ。それもそうだろう、ルークドゥル軍・ボードニアン軍・ミタン軍とラーシャアグロス軍、それにドワーフ軍の構想が実現すれば、東ディアローム帝国は同盟国をすべて失くし、孤立してしまうからだ。
「しかし、ワチビア地方とボットランドは中立国ではありませんかな?」
アンジェリーヌとジョスリーヌジョスリーヌたちが葡萄酒のはいったグラスを渡すのを受け取りながら、ガナパティ厩役伯爵が訊く。
「たしかにワチビア地方とボットランドは中立国です。ですから、わが軍は侵略はしません。 テアスジム王国攻略ならび ダエユーネフ共和国攻略のために、ワチビア地方とボットランドの領土通過を承認してもらい、その時に軍事パレードをします」
「軍事ぱれーど?」
「ぱれーど?」
「ぱれーど?それは一体、なんですか?」
聞きなれない言葉にザワザワとする秘密会議の出席者たち。
「軍事パレードとは、国内外への示威行為として行う、軍事力誇示行進です」
「軍事力誇示行進?」
「最新鋭の武器で装備した軍を... そうですね、30万人ほどワチビア地方とボットランドの主だった町を通過させます。その上でワチビア地方の有力貴族たち、ならびにボットランドの太守たちと謁見し、彼らをルーボードタン連邦に組み入れます」
「るーぼーどたん連邦?」
「ルーボードタン連邦?」
「連邦とはいくつかの国が一つの主権の下に結合する国家形態です」
「いくつかの国が結合する国家?」
「はい。ルーボードタンとは、ルークドゥル勇者王国、ボードニアン王国、それにミタン王国の名前からとりいれた連邦名です」
オオオオオオ――――……!
自国の名前を冠した連邦国家構想のことを初めて知ったバーボン王とオルガス王だけでなく、全員が驚きの声をあげた。
次の投稿は12月5日の予定です。




