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#4‐02 ヤーダマーの塔②

 ヤーダマーの塔は、元ブレストピア国の首都であったイヴォールの北にある。

昔、この地方を治めていたブレストピア国の地方貴族が作った小さな砦の中心にある塔はヤーダマーの塔と呼ばれて来た。その八角形の5階建ての塔は、見張り塔および住居として使われていたと言う。


「とても歴史が古そうですわね!」

まるでピクニックに来たかのように、はしゃいでいるのはジャデ・マイーザ。

つい最近結婚したばかりのわずか18歳のデュドル公爵の新妻だ。

オレンジ色の髪が美しい美女だが、鬼人族なので、両耳の上に5センチほどのツノがある。

ちなみに、鬼人族のツノの長さは、長ければ長いほど力があることを示す。

なので鬼人族の男どもは、戦いで多くの敵を倒した証しとしての長いツノを誇る。

ツノが短いのはやさしさを表し、女性のが短いのは家庭的、母性愛にあふれていることを表すのだそうだ。


 ルークがヤーダマーの塔を訪問するというので、モモコ大王は鬼のような大男ばかりそろっている親衛隊― 実際は鬼人族なので鬼には違いないのだが― を百人護衛につけてくれた。

ルークは、これも東ディアローム帝国と傀儡国による侵略を撃退したあとで、ほとんど何もすることのなくなったアマンダたち王妃を連れてやって来ていた。

もちろん、全員、アンジェリーヌが作動させたドコデモボードを使ってだ。


   ヤーダマーの塔

挿絵(By みてみん)


 新婚ほやほやのヴァスマーヤは、しっかりとルークの右腕を抱きしめていた。

1週間前にルークタラス城で盛大な結婚式をして、正式に王妃となっていた。

「ルークさま...」

「うん?どうした、疲れたのか?」

「いえ... わたし、王妃になれたなんて...まるで夢のようです」

「私と結婚する女性は全員王妃になるのだよ」

「じゃあ...」

「なんだ?」

「今日、この塔の中にいらっしゃるという王女さまが美しかったら...」

「もちろん、“王妃”にするつもりだ」

「.........」


「ん?どうした。もう嫉妬をしているのか?」

「いえ、そうではありません。ただ、もしそうなったら、これまでのように...」

「毎日抱かれなくなるのではないか、と心配しているのか?」

返事をする代わりにヴァスマーヤは真っ赤になった。

そのヴァスマーヤの細いあごに手をあて自分の方を向かせると、ルークはサクランボのような口にチューをした。


「あらあら、ルークさまとマーヤちゃん、熱いわね―!」

「ルークさま、私にもチューをしてください」

「あ、私もして欲しい!」

「ソフィちゃんとリエルちゃんの後は私ね!」

若い王妃たちがワイワイ騒ぐのを見てジャデ・マイーザが目を丸くしている。

そして、ルークとヴァスマーヤが歩きながら熱いチューをしているのを見て、羨ましそうな顔をして、ルークたちと夫のデュドル公爵を交互に見ている。だが、公爵は知らん顔をして歩き続けている。


「公爵さま」

「何ですか、アマンダさん?」

「ほら、ジャデ・マイーザさまもチューをして欲しがっていますわ」

「え? し、しかし... 親衛隊が見ている中で...」

「公爵さまも結婚されたばかりなのでしょう?」

「はい」

「ジャデ・マイーザさまは若いのですから、もっと、こう、激しく愛してあげないと!」

「は、激しく?」

「激しく?」


いつもは冷静沈着そうな鬼公爵がかなり取り乱している?

ジャデ・マイーザの方は期待で目をキラキラさせている。


「若い奥さんはかわいがってあげるものですわ!」

「そうですよ。そうしないと情夫を作りますわよ?」

リリスとハウェンがデュドル公爵のそばに来て小さな声でアドバイスをする。


「...... ジャデ・マイーザ」

「はい、公爵さま」

「キ、キスをして欲しいか?」

ジャデ・マイーザは何も言わずに目を瞑り、そのかわいい口を少し突き出した。

「フギュっ♪」


公爵はジャデ・マイーザをしっかりと抱いてチューをした。

周りを取り囲むようにして警備していた鬼のような顔の親衛隊たちが、ニヤリと笑った。



ルーク王と王妃たち、それにデュドル公爵とその夫人が訪問すると知らされて、ヤーダマー城の門の前で待機していた警備隊長と警備兵たちは、ルーク王とデュドル公爵が女性とキスをしながら歩いて来たのを見て唖然となった。


「こほん。ルーク勇者王国王殿に王妃様方、デュドル公爵に公爵夫人、私がヤーダマー城の警備隊長のガルセレイルです!」

「む... ご苦労。今から塔に幽閉されている、ゲネンドル王の家族を訪問に来たのだが」

ルークがミカエラとのチューをやめて言う。


「はっ。その旨はヴェレン侯爵殿より伺っておりますが...」

「うん? どうした、まさかゲネンドル王を処刑したと言うのでは...」

「滅相もありません、デュドル公爵殿。ただ、ゲネンドル王は幽閉はされておりません」

「幽閉されていないって、どういうことですの?」

ジャデ・マイーザが聞く。

「さあ、どうぞ城内にお入りください。そうすれば、ゲネンドル王たちがどういう状況にあるかお分かりいただけると思います」


ルークを先頭に、みんなゾロゾロと入って行く。

親衛隊は10人ほどがいっしょに入ったが、残りは外に残った。

八角形の石で作られた塔は門から100メートルほどのところに建っていた。

塔自体が丘の上にあるので、かなりの高さに見える。

最上階の窓から一人の子どもがこちらを見ているのが見える。

後ろを向いて何か言ったらしく、4、5人の子どもが押しあいへしあいしながらルークたちを見ている。


「あら、若い()がいるわ!」

「みんなゲネンドル王の娘なのかしら?」

「小さな男の子もいますわ!」

「あ、本当!女の子に抱っこしてもらってこちらを見ています!」

アンジェリーヌたちもワイワイとしゃべっている。



 ヤーダマー城の中は、兵舎らしい家と厩舎、それに倉庫らしい家が数軒あるだけで、通路でないところには花壇や野菜畑があり、庭師らしい者が4人ほど手入れをしていた。

警備隊長は塔の入口には向かわずに、庭師たちの方に向かった。


「?」

「?」

「?」


 ルークもデュドル公爵もなぜ庭師たちに用事があるのかわからないが、あとをついて行く。

庭師たちは、ルークたちが近づいて行くと気がついたらしく、立ち上がると麦わら帽子を脱いで頭を下げた。

 ライオン族の男性だが、もうかなり白い髪が混じった(たてがみ)と髪だ。年齢は50歳くらいだろうか。その横に立って同じように頭を下げているのは、美しい黒い髪をもつエルフ族の30代半ばくらいの女だった。もう一人は15、6歳くらいのニキビが目立つ少年。(たてがみ)がまだ生え切ってないが、ライオン族の男の息子だろう。そして、少年の横には鮮やかなピンクの長い髪の娘が頭を下げていた。


「ゲネンドル王さま、マイテ王妃さま、王女さま、王子さま、頭をお上げください」

「!」

「!」

ルークとデュドル公爵は、なぜ警備隊長が彼らを庭師のところに連れて行ったかを理解した。


「ルーク・シルバーロード勇者王殿、デュドル公爵殿。わたしたちは、ここで平穏に毎日庭の手入れをして過ごしています。ブレストピア国を再興しようなどという気持ちも、 ゾドアンスロゥプ皇帝の加護を求めて亡命しようという気ももはやありません...」

「ですから、デルンさまとわたくしはどうなっても構いませんから、なにとぞルナレイラとカレブにだけは何もしないでくささいっ!」

マイテ王妃はガバっと花壇の土の上にひざまずき頭を下げた。

ゲネンドル王もあわてて王妃と同じようにひざまずき頭を下げた。


「お父さま、お母さまっ!?」

「!」


ルナレイラとカレブは茫然となったが、次の瞬間、ルナレイラは紫の美しい瞳に涙をためて訴えた。

「お願いです!私はどうなっても構いませんっ。お父さまとお母さま、それに弟のカレブとお父さまのほかの家族を処刑なさらないでくださいっ!」

そう言うと、ルナレイラもひざまずき、深々と頭を下げた。

カレブはビックリし、姉と同じようにひざまずいて頭を下げた。





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