#3‐30 ヴァスマーヤ①
ヴァスマーヤは目を開けた。
美しい刺繍がほどこされたヴェールのような生地越しに装飾のある天井が見える。
ベッドの上を覆っているヴェールのような生地は四隅を白い木で囲まれており、同じくヴェールのようなカーテンがベッドの両横にさがっている。
大きな窓からの爽やかな風が、カーテンを揺らしている。
窓の外は、抜けるように透きとおった青空だ。白い綿雲がゆっくりと流れている。
どこかで小鳥が鳴いているのが聴こえる。
ハッとして身を起こし、自分の身体を見る。
上品で白くすべすべしたネグリジェを着せられており、その下には今まで見たこともないかわいいブラジャーが胸を覆っていた。
あわててウソのように軽い布団をめくり、ネグリジェを上げて見ると―
下はブラジャーと同じ薄水色のとても小さな下着らしいモノが穿かされていた!?
「こ、これって...!」
その下着は、それが下着と言えるのなら―
ヴァスマーヤの肝心な部分だけを隠すだけの小さなモノだった!
ガチャリ
ノブの音がして、誰かがはいって来た。
「あら、ヴァスマーヤさん、お目覚めになられたの?」
「あ、ようやく目が覚めたのね、マーヤ!」
「どうやらすっかり元気になったみたいね!」
「...!」
明るい声で入って来たのは敵の魔術師たち―
ミカエラとテフとかいった神教官とアンジェリーヌと名乗った女性だった。
「私、ほかのみなさんにマーヤさんが目覚めましたって知らせて来るわ!」
アンジェリーヌはそう言うと、ニコッとヴァスマーヤに笑いかけてタッタッタと走って行った。
「どう、そのパンティとブラジャー、気に入った?」
ヴァスマーヤがネグリジェの裾を上げてパンティが丸見えになっているのを見てミカエラが訊く。
「えっ? ええええ――っ!」
たちまち真っ赤になって、急いでネグリジェを下に引っ張ると、あわてて布団をかぶる。
「マーヤさん。こうお呼びしてもいいですわね?」
「マ、マーヤ?」
「マーヤさん、あなたは今、ルークタラス城にいるのですよ」
「ルークタラス城?」
「そう。ルーク・シルバーロード王と私たち王妃のお城よ!」
ミカエラがニッコリと白い歯を見せて笑う。
その時、廊下から騒がしい声とともに数人が走って来るのが聴こえた。
「あ!本当だ!マーヤちゃんが目覚めている!」
ドアから最初に入って来たジョスリーヌが素っ頓狂な声で言う。
「この娘がヴァスマーヤさん?」
オレンジ色の髪の少女が青い目をクリクリしながら見ている。
「リエルちゃん、ちゃんと自己紹介しなきゃダメよ?」
みんなといっしょにもどって来たアンジェリーヌが、オレンジ色の髪の少女の頭をなでながら言う。
「初めまして。リエル・エイルファ・ボードニア王女よ。ルークさまの婚約者なの。よろしくね!」
「ええっ、こ、婚約者?」
まだ十代半ばとしか見えない少女はルーク王の婚約者だと言う。
ヴァスマーヤが驚いて、まだ子どもっぽさが残る少女を見ていると、ドアから数人の美しい女性たちが入って来た。
部屋の中にいたアンジェリーヌたちが脇に寄って、彼女たちがヴァスマーヤの近くで話せるようにスペースを開ける。
入って来た女性たちが、地位的にアンジェリーヌたちより上の者たちであるということがヴァスマーヤにもわかった。
ヴァスマーヤも無意識のうちに、ネグリジェの前を見て乱れてないかを見て、布団をまくるとベッドの上に正座し、頭を下げてお礼を言った。
「ヴァスマーヤ・ラーニア・サフデルノールです。い、命を助けていただいて... あ、ありがとうございますっ!」
「あら、あなたがアルドラルビダカの魔術師さんね? 私はアマンダ・ラヴォルジーニ王妃です」
「アマンダさまは、ルーク王さまの第一王妃なのですよ。私は第二王妃のプリシルです」
静かに微笑んで自己紹介したプリシル王妃は、紫の髪と鳶色の目をもつ美女だった。
「わたしはリリス王妃。プリシルさんの次ね。第三王妃です」
「私はハウェン。第四王妃です。よろしくね、ヴァスマーヤさん」
アマンダたちが自己紹介をし終えるのを待って、アンジェリーヌがヴァスマーヤに言った。
「この方たちは、ルーク王さまが、前の世界からお連れになられた王妃さまたちなの」
「え? 前の世界?」
「ああ、そのことについてはあとでお話するとして... あなたを救ったのは私たちじゃなくて、こちらのミカエラさんとアイフィさんたちよ」
「だから、礼を言うのなら、ミカエラちゃんたちに言ってあげてね」
「え... ミカエラ、いえ、ミカエラさんたちが、わたしを助けてくださった?」
「あなたほどの能力をもつ魔術師を、死なせるわけにはいかないでしょう?」
「それに、あなたは美女だから、ルーク王さまもお気にいると思ったのよ!」
「ル、ルーク王さまがお気にいる?」
アンジェリーヌの言葉に唖然となるヴァスマーヤ。
その時、一人のひと目見ただけで高貴な者とわかる男が入って来た。
その後から、王冠をかぶった高貴そうな女性たちも入って来た。
アマンダたちがさーっと場所を開け、「ルーク王さま」と言って、頭を一斉に下げた。
ヴァスマーヤは、彼こそがルーク王だと知ると急いでベッドから降りてあいさつとお礼を述べようとしたが―
急に起き上がったからか、布団に足を絡ませてバランスを崩し、ベッドから落ちて尻もちをついてしまった。 それも右足が布団に絡まり、左足を床につけた形― 大きく開いた足からは見事にヴァスマーヤの肝心なとことだけをわずかに隠しているパンティが丸見えになった形で!
「キャっ!あ、ああ、あああ。申し訳ありません、申し訳ありません。こんなハシタナイ恰好で...」
信じられないほどの速さでアマンダがヴァスマーヤのそばに来ると、彼女の足が絡まっていた布団をとると、半泣き顔になっていたヴァスマーヤを軽々と抱えてベッドの上に座らせた。
「ヴァスマーヤさん、だいじょうぶ?」
「申し訳ありません、申し訳ありません!」
床には分厚い絨毯が敷いてあったので、ケガ一つ負わなかったが、気が動転して平謝りに謝る元靉靆の美女魔術師だった。
「ヴァスマーヤさん、あなた一週間眠ってらしたのよ? 急に動いたりしたら、なまっている体が言うことを利かなくなるのも当り前よ?」
「すみません、すみません。せっかくルーク王さまが来てくださったのに... うぇ―――ん!うぇ―――ん!」
今まで張りつめていた気が緩んだのか、それともルーク王や王妃たちの前で恥をかいたのが恥ずかしかったのか、はたまた第一王妃アマンダにやさしくしてもらったことがうれしかったのか、それともまだ生きていたことがうれしかったのか、ヴァスマーヤは号泣しはじめた。
「ふーむ。面白い娘だな? そして、たしかに美しい」
「うぇ―――ん うぇ―――ん... え?...」
涙をポロポロこぼしながら、アマンダに髪をなでられ、ヴァスマーヤは思いもかけないルークの言葉に泣くのをやめた。
「ヴァスマーヤ、私の妻にならないか?」
「え? え? えええええ――――――っ?」
ルーク王はベッドに近寄って来た。
アマンダがヴァスマーヤから離れ、後ろに下がる。
「お受けしなさい、ヴァスマーヤ」
離れる直前にアマンダはヴァスマーヤの耳元に囁いた。
「どうだ。イヤか?」
「お、お受けします」
パパパ パパパパ~ パパパ パパパパ~♪
《ヴァスマーヤが 仲間に加わりました!》 という声がどこからか聞こえたが、ルークは無視した。
“おいおい。今回は仲間に加わりましたじゃなくて、オヨメさんになりましただろう?”とツッコミたかったが、誰にツッこんだらいいのかわからないのでやめた。
「なんだぁ、ルーク? おまえ、もうこの魔女を嫁にすることを決めたのか? 手が早いな!」
ルーク王を呼び捨てにする王冠をかぶった女性。
耳の上からツノが生えている。鬼人族の王族に違いない。
「美人と戦いは必ず勝ち取る。それが私の主義です、モココ大王!」
「まあ、今さらルークが女好きということでケンカをしてもはじまらんが... 私も美人であることを忘れるなよ?」
「それはもちろんです。モモコ大王のグレイブで殺されたくありませんからね!」
「ふふん。お前みたいな青白い男など素手で首の骨を折れるぞ?」
「そんなことは、私が許しませんわ!」
アマンダ王妃が、ガチャリと剣の柄に音をさせた。




