#01 バッド・エピローグ
□□□□は絶体絶命だった。
戦乱に明け暮れる世界に秩序と安定をもたらそうと、軍を起こした□□□□。
かのアレクサンダー大王のように、「世界の統一」を目指したが...
どこからかやって来たという― 何とか集めた情報では、別の世界からだという― まだ子どものような3人の若者たちが、またたく間に□□□□に対抗する諸国をまとめ、戦力的、装備的にも圧倒的だった□□□□の魔軍が苦戦を強いられるようになった。
戦力だけであれば、魔軍は諸国軍には決して引けを取らなかった。
しかし、その若者たちは、信じられないような攻撃力と破壊力を持つ武器 -神器- と能力をもっていたのだ。
それに加えて、強力な魔法を使うエルフ魔術師、とてつもなく強い鬼人族の女戦士、念動力で武器を飛ばす恐ろしい夜叉族の女戦士、高速走行で爆裂弾と煙幕弾を使って攻撃をする豹族の女戦士、それに天才的ともいえる軍略家のドワーフ族の参謀などが、その3人の若者たちといっしょに戦うようになってから、戦局は一変した。
それまで、連戦連勝だった魔軍は、連戦連敗が続くようになり...
とうとう敵は4つのルートから、百万を超える大軍で □□□□の国にまで攻め入って来た。
□□□□の部下である将軍たちはがんばってくれた。一兵卒にあたるまで、祖国を、民を守るために、必死になって戦ってくれた。
しかし、敵の戦力は圧倒的だった。最新鋭の武器で装備された敵軍の前に、味方の部隊は次々と破られていき、ついに首都も陥落した。
敵軍が宮殿に迫った時、□□□□は瞬間移動スキルを使ってアルフヘイムの聖域に飛んだ。
エルフ国の首都アルフヘイムの郊外にある聖域には、別世界へ行けるゲートがあることを□□□□は突き止めていた。ゲートから別世界へ行き、そこで体勢を立て直すつもりだった。
□□□□の十数メートル前には、あの特殊能力をもつ、“別世界から来た勇者”と呼ばれる若者たちやエルフの女魔術師、鬼人族の女戦士たちがいる。鬼人族の女戦士は、長いグレイブを手に今にも□□□□に飛びかかりそうにしている。
そして上空には、エルフの若い魔術師たちが固唾を飲んで状況を見ている。
このエルフの若い魔術師たちも恐るべき存在だ。□□□□の頼みの綱であった高度な魔法を使う魔術師たちを凌駕する魔法能力をもっているのだ。
さらに彼らの後方の空には、□□□□たちの宿敵とも言えるヤツらが悠然と浮遊して状況を見ている。彼らの能力は... 残念ながら、□□□□の能力を遥かに上回っている。
□□□□自身、一度、彼らの中でナンバー2と呼ばれるヤツと相まみえたことがあるが、危うく消滅させられるところだった。
“事、ここに至っては、背に腹は代えられぬ...”
□□□□は、愛する家族を彼といっしょに無事に別世界へ抜け出させるために、“非人道的”と言われる手段をとることもやむを得ないと思った。
そして選んだターゲットが、あの強力な魔法を使う白髪のエルフ魔術師の娘だった。
そのエルフ魔術師の娘― 3歳ほどの年だ― は、どういうわけか、 □□□□と妻のアニュイパランの間にできた息子ルシエルと仲良くなっていた。
そのエルフの娘を□□□□は誘拐、人質にして、「テラ」と呼ばれる別世界へのゲートを開けることを母親のエルフ魔術師に強要したのだ。
だが...
誤算が生じた。
□□□□が予想だにもしなかった事態が起こった。
何と息子のルシエルが、メデューサの盾で石化した母親のアニュイパランを救うために、エルフの娘を抱えていた□□□□の腕に噛みついたのだ。
痛さで思わず腕を離した隙に、ルシエルとその娘は移動魔法で消えてしまった!
万事休す!と思われたが...
どういうわけか
別世界への通路を開けるという魔法陣の描かれた黒い石- 横4メートルほど、縦2メートル半ほどの大きさ― が、 “ブンっ" と うなった。
すると、まるで巨大なスクリーンに投影されているかのように、向こう側- 別世界の- 景色らしいものが見えた。
「な、なんだ、これは?」
別世界から来た若者-勇者-が、大きな剣を手におどろいている。
「誰かがゲートを開く詠唱を唱えたのよ!」
白髪の魔術師が叫んでいる。
「□□□□、あなたなの? 詠唱を唱えてゲートを開けたのは?」
白髪の魔術師が□□□□に訊く。
「ふあーっはっはっは!そんな面倒くさいことを私がすると思っておるのか? この魔力の波動は、おまえたちのあの娘のものだよ!」
「「「「「「「!」」」」」」」」
「ふあーっはっはっは!それでは、さらばだ、ミィテラの世界の諸君!私は異世界で王になる!」
不可解な出来事に敵がおどろいている間に、□□□□はゲートに入った。
続いて ベイアリア、プリシル、ハウェンとリリスが、ルファエルの手をにぎり、マイレィを抱っこして入り、最後にリリスがくぐった。
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「ここは... どこだ?」
ルゾードは真っ暗な中にいた。
「私は勇者どもに殺されてしまったのか?」
自分の身体にはふれることはできるが、立っているのか、横になっているのか、浮いているのかわからない。平衡感覚がまったくないのだ。
いっしょに異世界へのゲートをくぐったはずの妻たちや子どもたちの姿も見えなければ、気配も感じられない。
「ここは地獄に違いない...」
“しかし... 私は魔軍を率いてあの世界で戦争を起こし、自分の思い描く世界を創るために、多くの住民を苦しめ、多くの命を奪わせたが... 私自身は誰一人殺めていない。まあ、それでも地獄が私の最終駅というのなら... ”
そこまで考えたとき、突然、周りが明るくなった。
気がつくと、真っ白い壁、真っ白い天井、真っ白い床の部屋にいた。
そして彼の前には、白く半透明のようなロングスリーブ・ドレスを着たあの若い女性がいた。
ブロンドの髪はウエストあたりまであり、整った顔は白く理知的だ。
「創造主さま?」
「お久しぶりですね、□□さん」
ブロンドの髪の美女は□□に会えたのがとてもうれしそうだ。
「僕は地獄に落ちたんじゃないんだ...」
「あら、□□さんが望んでなった魔王でしょう? すべてはあなたの望んだ設定通りだったはずですわ?」
「まあ、それもそうですけどね。それにしても、○○のヤツ、調子良すぎた感じですね...」
「ふふふ... ○○さんの方がゲームが上手だったみたいですね?」
「それに、なに、あの設定? なぜ○○だけが50人もオンナがいるんですか?」
「え?50人じゃありませんわ。私の最終計算では、107人でしたわ!」
「ひゃ、107人!?」
「でも、あれは○○さんが望んだ設定なのですよ」
「クソっ!僕も次回は美女を百人くらい囲いたい!」
「望めよ、さらばあたえられん!ですわ!」
「.........」
* * * *
「でも、あまり文句も言えませんね。おかげで、150年間、魔王として楽しめましたんだし!ありがとうございます、創造主さま!」
「いえいえ、お礼には及びません、□□さん」
“いや、相変わらずエタナールさまの胸は大きいな…”
「女性、いえ、創造主の胸をそんなに見るものではありませんよ、□□さん」
「ど、どうもすみません!」
創造主は、微笑みながら□□をその翡翠色の美しい目で見ていた。
ひたいにかかった金髪を手で横にはらって、□□が何か言い出すのを待っている感じだ。
「ところで...」
「はい、何でしょう?」
打てば響くように反応した。
「その... 僕は勇者に倒されたわけじゃないので、まだ生き続けることはできるのでしょうか?」
「それはもちろん!」
元気よく答える創造主様。
「じゃあ、テラは無理として、ほかの世界に行かせていただけませんか?」
「もちろん!」
創造主は、目をキラキラさせて□□を見ている。
「今度は良い魔王となる... いや、良い魔王っていう設定はおかしい。そうだ、今度は勇者になりたいな!そしてあの〇〇と言う勇者みたいに美女だらけのハーレムが欲しい!」
「前回、最初からそうおっしゃっていれば、ハーレムを作って差し上げましたのに!」
「ええ――っ、出来たのー?」
「ほら、言ったじゃありませんか、“望めよさらば叶えられん!”って」
「くーっ!そうだった!」
「では、次回は勇者Bということで...」
「勇者Bって何ですか?」
「それはもう〇〇という勇者がいますので、私の都合上、彼を勇者Aとして、□□さんを勇者Bと...」
「はいはい、わかりました。それで結構です。それと、せっかくなので、あの世界で妻であった女性たちと恋人たちを付けてください。それと子どもたちもいっしょにお願いします」
「はい、『テルース』という名前の世界を創りましたので、そこにみなさんを送りこみますね」
「えっ、もう創ったの?早っ!」
「私は創造主ですよ」
「そうでしたね!」
「では、『テルースの世界』に行って来ます!」
「行ってらっしゃい!」
周りがく暗転して、スーッとどこかへ落ちるような感覚に包まれて気が遠くなっていった。
本作品を読んでいただいてありがとうございます。
この作品は『DK世界に行ったら100倍がんばる!』https://ncode.syosetu.com/n5432gt/のスピンオフ作品ということになります。設定は、『DK世界に行ったら100倍がんばる!』のエンディングからのスタートです。最初は、ほんの軽い気持ちで書きはじめましたが、後半になってかなり本気で書くようになりました。完結に意外な結末を予定しています。
独瓈夢