プロローグ 3-3
「わるくないわるくないわるくないわるくないわるくないわるくないいないないないな…。俺は悪くない。悪いのはぜぇんぶあいつら。俺は正しい、正しい、正しい……ッ!」
悪くない、男はそう繰り返し呟いた。
「……人を殺しておいて、正しいも何もねぇだろうがッ!」
アルスは地面を蹴り、男との距離を一気に詰める。
「ギアーーッ!貴様も俺を馬鹿にするかぁッ!」不気味な叫び声と共に無数の剣がアルス目掛けて一斉に振り下ろされた。「俺の気も知らないでぇッ!」
「そんなのアリかよッ⁉︎」
アルスは、咄嗟に地面を蹴って後ろに飛び退くと、くるんと一回転して着地した。
(くそッ。なんだよ、あれ。これじゃ近づけやしねえぜ……)
男がものすごい速さで一気に間合いを詰めてきた。
「しまっ、」
アルスは咄嗟に短剣を構える。
「無能がッ!カスがッ!ゴミクズがッ!そんなもんか?えッ!」
男は次々と力任せの斬撃をアルスに打ち込んでいった。
(……なんつー力だよ)
キン、と甲高い音と共にアルスの短剣が一振り、弾かれる。
(しまったッ!)
その隙を逃さまいと男はアルスの首を掴み、獲った獲物を誇示するかのように高々と掲げた。
「お遊びはここまでだ。小僧。殺すのは惜しい気もするがな……」
「……だったら、見逃してくんねえ?」
アルスは息苦しそうに言った。
「安心しろッ。おまえを殺した後にその身体を堪能し尽くして、オモチャとして遊んでやるッ!死ねッ」
男は、そう言うとアルスの首を掴んでいた手に力を入れた。
「あ、ぐ……」
必死に抵抗も虚しく、アルスの意識は徐々にと遠のいていった。
(ああ、俺、死ぬのか……)
そう思い始めた矢先、乾いた銃声と男の叫び声が聞こえ、アルスは地面に落ちた。
「……な、なんだ?」
「アルスッ!無事かッ」
咳き込むアルスのもとに男が駆け寄る。
「早かったな……。ランゼ」
「お前の身分証を使ってよ」そう言うとランゼは、男の方を見た「成っちまったか……」
「どうする?」
「どうするも、何も殺るしかねえだろ?」
「でも、」
「バカッ!試験なんかよりもコイツをどうにかするのが先だろうがッ」ランゼはそう言うとアルスの前に立った。「さあ、バケモンッ!このランゼさ……げぶッ!」
そう言いかけたランゼは男に殴り飛ばされ、外壁にぶつかった。
「愚かな……」
「ランゼッ」
「ああ、大丈夫。大丈夫……」駆け寄ったアルスに抱き起こされながらランゼはそう言って前を見た。「ん?」
男の肩の辺りが光っていた。
「どうした?」
「いや、アイツの右肩の辺りがさ」
「肩?別になんともなってねえけど……」
それを聞いたランゼは、しばらく黙り込んだ後「アイツの右肩の辺りをぶっ刺せ」と言った。
「は?なんで」
「いいからッ!早く」
「あ、ああ……」
「何をごちゃごちゃ言っている……。死ねッ!」
地面落ちていた短剣を拾って男の攻撃を受け止めたアルスはそのまま外壁に弾き飛ばされた。
が、空中で体勢を整えるとその衝撃を利用して外壁を蹴って、男目掛けて突っ込んでいった。
「な、何ッ⁈」
「でやーッ!」
掛け声と共に短剣が男の右肩を貫いた。
「グガァァァ……」
血を吐き、獣のような雄叫びを上げながら男は、元の姿へと戻りそのまま地面に倒れ込んだ。
「ハハ……。思った通りだ」
「……戻った⁉︎なんで、なんでなんだよ」そう言って振り返ったアルスを見たランゼは驚いたような顔をした。「どうした?」
「いや、なんでもない。とにかく、やったな、アルス。任務完了だッ!俺たちは合格したんだよッ!」
ランゼは乾いた笑い声を上げながらそう言った。
「えっと、なんで……」
アルスは、短剣に付いた血を振り払い、鞘に納めるながらそう言った。
「わからんッ」ランゼはそう言うと笑った。「わからんが、とりあえず、犯人確保だ」
ランゼはそう言うと男の手に手錠を嵌めた。彼は気絶しているだけで息はあった。
「さ、パルザール警察署に行って、コイツを突き出そうぜ?」
「そうだな」
アルスはそう言うと軽く笑った。