プロローグ 3-2
ーー。
それから男は力任せの斬撃をひたすらアルスに叩き込んでいった。アルスも男の放つ斬撃をひたすら防いでいたが、防いだ際の衝撃が凄まじく、腕は限界に達しようとしていた。
「フハハ、どうした。どうしたぁッ!」
アルスは男の攻撃を弾き返すと後ろに飛び退き、間合いを取った。
「……ったく、調子に乗りやがって、アンタの力じゃねえだろうがッ」
「あん?」
「努力せずに得た借り物の力だって言ってんだよッ!このインチキ野郎ッ!」
アルスがそう言うと、男は突然激昂した。
「貴様も俺を否定するのかッ⁉︎アイツ等みたいにッ!俺は、何も悪く無いッ!俺を馬鹿にしたアイツらが全部悪いんだッ!」
男は早口でそう捲し立てた。
「だから、殺したってのか?」
「そうだッ!この素晴らしい力でッ!……」男はそう言うと天を仰ぎ見ながら不気味な声で笑った。「悔い改めろ?なぜ?俺は選ばれたんだ。ヒハハ……」
「……やっぱり、クズ野郎だよ。アンタは」アルスは、短剣を鞘に納めると鋭い刃のような目つきでそう言った。「殺してやりてぇ」
「じゃあ、殺せばいい」
「残念だけど、それは無理なんだよ。さっきも言ったけどさ、俺はアンタを捕まえなきゃいけないんだ、よッ!」
アルスはそう言うと、地面を蹴って男の懐に飛び込んでいった。
「なっ……」
男は慌てて間合いを取ろうとするが、すでにアルスは彼の懐の中にいた。濃い茶色の瞳が、男を冷たく見上げていた。
「歯ぁ食いしばれよッ!このクズ野郎ッ」
アルスはそう言うとグッと拳を握った。
と、その時だった。
突然、ヒュウッと風切り音が鳴ったかと思うと男の周りに風が巻き起こり、アルスは弾き飛ばされてしまい、そのまま男の家の外壁にぶつかった。
「うわっ…」
「すごい力だ。ヒヒ……」
「……ば、バカ。やめろッ!死ぬぞッ!」
アルスは不気味に笑う男に向かってそう言った。
「ハハ……。やめるわけないだろ?ヒヒ……。この更なる力でおま……アガッ⁉︎」
男は、突然、苦しみ出したかと思うと「俺は悪くない、悪くない、悪くない、悪くない…」と繰り返し言いながら剣を持った無数の手が生えた形容し難い不気味な姿に変化していった。
「だから、やめろって言ったんだよ。バカ……」そう言うとアルスは、短剣を引き抜いた。「異端者は、一度でも成ると助からねえんだよ。だから、殺してやる事しかできねえ……悪りぃな。……魂の大罪を冒せし者よ。法の猟犬であるアルス・ヴィトスが、神に変わり汝に裁きを下す。覚悟しろッ!」
そう言うとアルスは、異形の姿と成り果てた男に向かって斬り込んで行った。
●成る
異端者はある一定の条件下で肉体及び身体能力が変化することが確認されており、これを『成る』と言う。
一度、成ってしまった異端者を元の姿に戻す術はなく、救うには殺すしか方法がない。