プロローグ 3-1
路地を抜けると閑静な住宅街に出た。
「くそッ!どこ行きやがった」
辺りを見回すと少し先の街灯の下を黒い人影が身体をひょこひょこと左右に揺らしながら走っているのが見えた。
「見つけた……」
アルスは気配を消しながら人影を追っていき、古びた白い家の前にたどり着いた。先程の人影は、玄関扉の前にいた。
「な、何なんだ。あのガキは……。あの距離からチップを飛ばすなんて、人間じゃねえよ……」
「アンタの方が人間じゃねえよ」
アルスは気配を消して後ろに回り込むとそう言った。
「だ、誰だッ!」
「法の猟犬」
振り向く男の問いかけにアルスは、そう答えた。
「なんだそれ?」
「法の猟犬ってのは、アンタみたいな連中を裁く、正義の味方さ」
「……つまり、俺を殺しに来たって訳だ?」男は笑いながらそう言った。「正義の味方が聞いて呆れるぜ。ああ、いや。違うか。幸福や利益の多さで決まるんだもんな。正義ってやつは、さ」
「何言ってんだよ。アンタは?」
「だってそうだろ?俺みたいなクズを生かしておいても世間の為にはならない。だから、お前が来た。違うか?」
「クズって自覚があんのかよ。まあ、いいや。俺はアンタを捕まえにきたんだよ」
「……警察か?」
「半分正解」
アルスがそう言うと同時に男が斬りかかってきた。男の右腕はいつの間にか剣に変わっていた。動きも太った鈍臭そうな見た目とは裏腹に素早かった。
「うわっ、」アルスは男の攻撃をすんでのところで躱した。「な、何すんだよッ!」
「おまえを殺せば俺は捕まらない……。覚悟しろッ」
「…なんだよ、それ。悪いけどさ、俺もアンタを捕まえなくちゃならないんだよ。大人しく捕まって、己の罪を悔い改めろッ」
「罪?なんの?」
男は、きょとん、とした顔でそう言った。
「とぼけんなよ。パルザールの殺人鬼ってのは、アンタの事だろ?」
「俺が殺すところでも見てたか?」
「いや、それは……」
「見てないんだろ?」
男はそう言うとアルスを馬鹿にするように鼻で笑ったあと、何かを考えるかのようにしばらく黙り込んだ後に「……俺が犯人。パルザールの殺人鬼だ」と言った。
「えっ⁉︎」
「そう驚くなよ。探してたんだろ?」
「いや、そうだけどよ……。なんで、」
「話したかったからさ」
アルスがそう言うと男はへらりとした口調でそう言った。
「なら、その話は取っておけよ。警察署まで、俺が連れて行ってやるからさ」
アルスがそう言うと男はケラケラと笑った。
「な、何がおかしいんだよッ!」
「バカかお前、俺が自首すると思ってんのか?」
「あ?」
「本当は、喋ってスッキリした後に殺すつもりだったけどよ、」そう言うと男は剣になった右腕を構えた。「もういいや、死ねッ!」
男はそう言うと、地面を蹴って斬り込んできた。アルスは素早く腰に差した短剣を引き抜くと男の攻撃を受け止めた。
「くそッ!なんて力だよ……」
「へえ、結構やるじゃん?でも、いつまでもつかな?」
男は、そう言って破顔の笑みを浮かべた。それは、なんとも形容し難い不気味さに満ちていた。