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箱庭のアルス【連載用分割版】打切り  作者: フルビルタス太郎
プロローグ
4/19

プロローグ 2-2

ーーここで、少し時間は遡って今日の午前七時。


 朝、アルスが目を覚ますとカーテンの隙間から陽の光が仄暗い室内に差し込んでいた。外からは微かに鳥の囀りや人の声が聞こえていた。壁際の時計に目を向ける。時刻はすでに午前七時を過ぎていた。

「やっべっ!」

 自分が寝坊した事に気がついたアルスは、跳ねるように飛び起きると大急ぎで着替えをして、慌てて寮の部屋から出ていった。

 アルスは今年、一五歳になる。

 彼は、異端者を捕獲する為に組織された『法の猟犬』の実行役の候補生で、先月、二回目の最終試験に落ちたばかりだった。

 最終試験は実技試験で、制限時間内に異端者が関わっていると思われる事件の犯人を捕まえるというものであった。試験は実行役の候補生と補助役の候補生の二人一組で行う事になっており、合格したらそのままの組合せで法の猟犬として各教区に登録されて、活動する事になっていた。

 この日、アルスは三回目の最終試験に臨む事になっていた。最終試験は、三回まで受けられる事になっており、全て落ちた候補生は失格者と呼ばれ、別の仕事に回される事になっているらしい。

 らしい、というのは今まで、そのような者達は誰一人としていなかった為である。大抵は、一、二回で合格するのが普通で、二回目の試験を落ちた段階で、アルスはすでに落ちこぼれの烙印を押されていた。もし、今回の試験に落ちたら、そこに失格者第一号という不名誉な称号まで付く事になる。それを回避する為にも、そして、法の猟犬になる為にも絶対に落とせない大事な試験であった。

 寮の軋む階段をダダダタ、と駆け降りる。「もっと、優しく降りなッ!」寮を管理する老婆の怒鳴り声が響いた。

「悪りぃ、悪りぃ」

 アルスは老婆に向かってそう言いながら寮の外に出て、隣接する校舎の中にある教官室に向かって走っていった。

「すみませんッ!」

 そう言いながら教官室のドアを開けると同時に教官であるグラウロスの怒鳴り声が響いた。

「おっそーいッ!」

「す、すみません。寝坊しちゃって……」

 アルスがそう言うと、教官の前に立つ無精髭を生やした冴えない風貌の背広姿の男が軽く笑った。

「よお、アルス。随分と遅かったじゃねえか」

 彼の名前はランゼといって今年、二六歳。彼がアルスと組む補助役の候補生であり、共に二回の試験に挑んで、落ちた仲間であった。

 補助役は、協力関係にある各国の治安維持組織から派遣されており、彼はフルビルタス王国警察庁からの派遣だった。

「悪いか?」

 アルスはムッとした表情でそう言った。

「ああ、悪いね」

 ランゼがそう言うとグラウロスが咳払いをした。

「そろそろいいかね?」

「あ、はい」

 アルスがそう言うとグラウロスは、机の上に大きな地図を広げた。今、アルス達のいるエラローリア大陸の地図で、西側がアルス達のいるエラローリア皇国、東側がランゼのいたフルビルタス王国であった。

「さて、最終試験だが、前回同様に、フルビルタス王国で行う」フルビルタス王国の領土を指しながらそう言うと、グラウロスは資料をその上に広げた。「最終試験における君達の任務は、フルビルタス王国のパルザールという町で起きた連続殺人事件の犯人を捕まえる事だ」

「パルザールっていうとフィリア湖鉄道沿線の町か」

「そうだ。君達はフィリア湖駅からフッリバ行きの列車に乗ってもらう。それで、パルザールまで行き、地元の警察と協力しながら犯人を捕まえてほしい。期限は明日の夜明けまでだ。なお、わかっているとは思うが、今回が最後の機会だ。もし、失敗したら二人ともそれぞれ別の仕事に就いてもらう」

「わかってます」

 アルスはそう言った。

「ちなみに今回失敗した場合の配属先なんだがね。実はすでに決まっているんだよ」

「えっ⁉︎」

 アルスとランゼは声を揃えてそう言った。

「聞きたいかね?」

 二人が頷く。グラウロスは軽く咳払いをした後「落ちこぼれの君たちには、ラルフ島特別教区に行ってもらう予定だ」と言った。

「はぁッ⁉︎」

 二人はまた声を揃えた。

 ラルフ島とは、南の海のど真ん中に位置する絶海の孤島で、アルスの記憶が正しければ無人島のはずだった。

「いや、あの……ラルフ島って」

「嫌なら、試験に合格したまえっ!以上ッ!」

 グラウロスは、ランゼの言葉を力強い口調でピシャリ、と遮った。

 二人は教官室から出ると深いため息をついた。

「大変な事になったな」

「足、引っ張んなよ?」

 アルスはランゼを睨みながらそう言った。

「はっ!お前こそっ」

 そう言いながら互いに睨み合った後、二人は深いため息をついた。

「やめやめ。前回はそれが原因で失敗したんだもんな」

 ランゼがそう言った。

「その前は、お前がヘマした所為だからな?」

「ったく、生意気なガキだぜ……」

「いい加減な大人のアンタがよく言うよ」

 アルスがそう言うとランゼは、ハハハッと笑った。

「ま、ここで言い合っていても仕方がねえ。早いとこ、パルザールに行こうぜ?」

 アルス達が、パルザールに向けて出発したのはそれからすぐのことだった。


ーー

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