プロローグ 2ー1
列車が激しく揺れた後、車中には、緊急事態を知らせるアナウンスが響いていた。
「……事故か?」
二等車の個室の中、座席に座っていた艶やかな黒髪の少年は驚いた様子で辺りを見回していた。
彼の名前はアルス。異端者と呼ばれる存在を捕まえる『法の猟犬』と呼ばれる組織の候補生だった。
「いや、事故じゃなさそうだな」
向かいに座る無精髭を生やした冴えない風貌の黒髪の男がそう言った。
彼の名前はランゼ。フルビルタス王国警察庁の職員で、彼も『法の猟犬』の候補生の一人であった。
「……と、すると異端者か?」
アルスは小さな声でそう言った。
「……かもな」
ランゼがそう言うとアナウンスが流れた。
『お客様にお知らせいたします。パルザール駅で事故が発生した為、当列車はパルザール駅を通過いたします。繰り返しいたし……』
「やべっ、おい、降りるぞ。アルスッ」
ランゼはそう言うと鞄を引っ掴んで慌てて出口の方に走っていった。
「えっ、お、おいッ!待てよッ」
アルスは、棚から鞄を下ろすとランゼの後を追って出口に向かっていった。
アルスが出口に行くとランゼが乗務員と何やら話をしていた。
「いや、あのさ。俺たちは……」そう言うとランゼはポケットから身分証を取り出そうとした。「あ、あれ……」
「どうしたんだよ」
「あはは、身分証、忘れちまったみたいだ」
ランゼは乾いた笑いを浮かべながらそう言った。
「はぁ?いや、どうすんだよ」
「なあ、頼むよ。とにかくこの通りッ!」
ランゼは両手を拝むように合わせながらそう言った。
「ダメですな。さあ、お戻りください」
乗務員にそう言われて、アルス達は仕方がなく席に戻っていった。
「おい、どうすんだよッ」
「どうするって言ってもな……」
ランゼはしばらく考えたあと、アルスの耳元で小さな声で囁いた。
「はぁッ⁉︎」
アルスは思わず声を上げた。
「バカ。声がでけえ」ランゼはそう言うと辺りをキョロキョロと見回した。「これしか方法がねえんだ。わかったか?」
ランゼはアルスを見つめながらそう言った。
「いや、でもさ……」
「いいか?これが俺たちに与えられた最後のチャンスなんだ」ランゼは、煮え切らない態度のアルスに向かって諭すように言った。「この先のサルード駅で降りて引き返してから警察と一緒に捜査をしてたんじゃ夜が開けちまう。明け方までに捕まえられなかったらどうなるかわかってんだろッ⁉︎」
ランゼがそう言うとアルスは頷いた。
「だったら、答えは一つだ。お前と警察で捜査を始めててくれ。心配すんな、俺は後から行くからよ」
「わかった。なんとかやってみる」
「よっしッ!じゃ、列車が動かねえうちに早いとこ行けッ」
ランゼがそう言うとアルスは壁に掛けてあったコートを羽織り、鞄から二振りの短剣を取り出してベルトのホルダーに差した。窓を開けるとアルスは軽々と列車の屋根の上へと登っていき、パルザール駅の屋根の上に飛び移った。ホームでは大勢の警官が捜査をしていた。
アルスは、その様子を見ながら今日の朝の出来事を思い出していた。