第一章 王都ギルス 3-2
「まあ、そりゃ、そうだけどよ……」
ランゼの言うことはもっともだった。アルスは、それ以上、何も言うことが出来なかった。
「それよりもメシにしようぜ?色々と買ってきたんだ」ランゼは、手を叩きながらそう言った。「まずは、出来合わせの惣菜だろ。それから、パンに炭酸水に皿にコップに石鹸にタオルにテーブルクロス……」
ランゼはそう言いながら紙袋から買ってきた物を取り出しながらそう言った。
「さ、そこのテーブルにこいつを敷くのを手伝ってくれ」
ランゼは部屋の真ん中に置かれたテーブルを指差しながらそう言った。
「わかったよ」
アルスはそう言った。その後、テーブルクロスを掛け終えると、その上にランゼが買ってきたものを並べた。彼が買って来たのは豆と肉の煮物にロシェという固いパン、ボトル入りの炭酸水だった。
「じゃ、食べるか」
アルス達は、食事を始めた。
「なあ、ナイフ、ねえか?」
アルスは、ロシェを持ちながらそう言った。
「ねえよ。さっき見たら全部錆び付いてやがった」
「なんだよ。じゃあ、いいや」
アルスはそう言うとロシェをひと齧りすると、そこに煮物を乗せて食べた。
「ああ、それと、食べ終わったら、風呂に行くぞ」
「風呂?部屋に付いてねえのか?」
「付いてねえよ。付いてたら月、一八ギルスじゃ住めねえって」
「それって安いのか?」
「まあ、低所得者向け住宅の中じゃ高い部類だろな。けど、これだけの広さでトイレと水道が付いてるんなら安い部類だろうな。エラローリアは、どうなんだよ?」
「エラローリアじゃ、低所得者向け住宅の代わりにゲセブ教の貧救院ってのが至る所にあるんだよ」
「ああ、そういや街中にあったな。て、それって、家賃がいくらくらいかかるんだ?」
「ああ、無料だよ」
「無料って……。そんなんじゃ、経営できんだろ?」
「費用は富裕層や国からの喜捨で成り立ってるから大丈夫なんだよ。まあ、娯楽は制限されるし、奉仕活動も強制されるけどさ、おかげで犯罪率は少ないかな。こっちには貧救院はねえのか?」
「ねえな。戦後の政教分離政策やらなんやらで運営が困難になったのが原因だって聞いた事はあるけどな」
「ふーん。向こうだったら法の猟犬の仕事も楽だったのかもな」
アルスはそう言うと炭酸水を飲んだ。
「ま、犯罪率が少ないんじゃ、見つけやすいよな」
「あーあ、なんでこっちに来ちゃったんだかなぁ……」
「仕方がねえだろ。組んでる補助役の派遣元に配属される決まりになってるんだからよ」
ランゼはそう言った。