第一章 王都ギルス 2-4
「いや、楽しかったぁ」
黄金色に染まる長い長い石段を降りながらアルスは満足そうに言った。
「そう?キミ、結構知ってたみたいだったけど?」
「でも、楽しかったよ。誰かとこうやって、遊ぶって経験、あまりなかったからさ」
アルスはそう言うと満面の笑みを浮かべながらへへ、と小さな声で笑った。それは、少年らしい無邪気な笑顔だった。
「なら良いけど。さあ、早く行きましょう?あの辺りは暗くなると色々と大変だから」
「大変?」
「まあ、行けばわかるわよ」
そう言うとマリアンヌは、アルスを地図に書かれた場所まで案内した。
「えっ、ここなの?」
案内された場所は、ギルス中央聖堂から少し歩いた所にある貧民街の入り口だった。近くには、中央病院や中央市場があるなど利便性はよかったが、治安の面でいえば彼女の言う通り、たしかに暗くなると色々と大変なのかもしれない。
「そうよ。地図でいうとアパートは、この奥かしら?」マリアンヌは貧民街の奥を指差しながらそう言った。「じゃ、行きましょ?」
「え?いいよ。ここで、危ないから」
「はぁッ⁈それは、こっちのセリフよッ。いい、キミみたいな子供を」
「あれ、何やってんだよ?」
マリアンヌがそう言いかけると後ろから声を掛けられた。振り返ると紙袋やバッグ、それにモップにほうきを抱えながら立つランゼの姿があった。
「誰?知り合い?」
「いや、コイツの保護者みたいなもんだけど?何、お前なんかやらかしたのか?」
ランゼがアルスを見ながらそう言うと、マリアンヌはランゼの顔を覗き込むようにまじまじと見つめた。
「な、なんだよ?」
「別に?ただ、最低だって思っただけよ」
「な、何だとッ⁉︎」
「子供をこんな所に一人で行かせようとするなんて最低、って言ったのよ。保護者失格ね」
「なんだよ。なにも……。いや、そうだな。悪りぃ」
そう言うとランゼは軽く頭を下げた。
「わかればいいのよ。わかれば。それじゃ、私は帰るわね」そう言うとマリアンヌはアルスの頰に軽く口づけをした。「じゃあね」彼女は、手をひらひらとさせながら中央聖堂の方に向かっていった。
アルスは、顔を赤らめながら彼女の後ろ姿を見送った。
「なんだよ。ええ、もう彼女作ったのかよ」
ランゼはニヤつきながらそう言った。
「ばっ、ち、ちげえよ。ほら、さっさと行くぞ?」
アルスは照れながらそう言った。
「照れちゃって、可愛いねぇ。アルスくんは。まあ、しかし、驚いたね。お前があんな気の強い女が好みとはね」
ランゼが笑いながらそう言うとアルスは、ランゼの足を思いっきり踏みつけ、ぐりぐりと踏みにじった。
「いってぇぇーーッ!」
ランゼの悲痛な叫び声が辺りに響いた。