第一章 王都ギルス 1-2
「ったく、あの女。なにが、落ちこぼれだよッ。まったく……」
アルスはそう呟きながら階段を降りて外に出た。
「あー、腹立つッ!」アルスはイザベラの顔を思い浮かべながらそう言うと、地面を力強く踏みしめた。「ま、スタイルは良かったけどさ、あの性格じゃ、モテないね」
そう言うと辺りを見回した。
「そこら辺を見てみるか……」
そう呟くとアルスは、時間を潰すため周辺の店を適当にぶらぶらと巡った。しかし、特に興味を引く物はなかったので、中央公園まで歩いていってベンチに腰を下ろした。
(どうすっかなぁ……)
目の前にある黒い四角柱の噴水をぼんやりと眺めながら、これからどう時間を潰すかを考えていると女性の叫び声が聞こえた。
「誰かー、そいつ捕まえてーッ!ひったくりよーッ!」
声のする方を振り向くと、バッグを抱えながら慌てて走るひょろっとした体型の男の姿が見えた。男はこちらに向かって走って来ていて、その後方には、茶系統の地味な色合いの服を着た銀髪の女性が走っているのが見えた。
「よっ、と」
アルスは、男が目の前を通った瞬間、足を伸ばして男の足に引っ掛けた。
男は「わっ」と叫びながら盛大に転び、その拍子に抱えていたバッグは宙に投げ出された。
「何すんだよッ!」
男はアルスを睨みながらそう言ったが、彼を追っていた女性が追いついて来るとバッグを置いて一目散に逃げていった。
アルスはベンチから立ち上がるとバッグを拾って、軽くはたいて埃をはらった。それと、腕を掴まれたのは、ほぼ同時だった。
「覚悟しやがれッ!この、泥棒野郎ッ!」
「へっ?」
男の声と共にアルスの視界がぐるんっと、回った。空から地面、地面から空へと天地が目まぐるしく反転し、地面に背中が叩きつけられたと同時にカラリと晴れた突き抜けるような青空が目に飛び込んできた。