バッドエンド01
床に散らばったグラスの欠片と、あたりに広がる果実酒の匂い。
大勢の貴族たちが、床に座りこんだ私を遠巻きに見ている。
正面の王座から冷たい視線を感じても、私は顔を上げることができなかった。
なによりもあの女の姿をみたくなかったからだ。
『シェリー・ヴォーン・ハーヴェイ。君が伯爵令嬢ヘレナを毒殺しようとした罪は明白だ』
『ちがっ、ちがいます殿下……、わたくしはただっ、』
ただ、ヘレナが羨ましくて、悔しくて。
最初は少し脅してやろうと仕掛けただけだった。
だけどヘレナはまったくへこたれなくて、私の欲しかったものを次々に手に入れていく。
ずっと夢見ていた皇太子妃の座も、今日という日が終わってしまえばヘレナのものになる。
だから。
全部奪ってやろうと思った。
だって私は誇り高き公爵家の娘ですもの。
『シェリーには即刻入牢を命ずる』
以前は優しかった殿下の声が、今は氷のように冷たく、遠い。
我慢できなくなって顔を上げると、殿下と、その影に隠れるあの女の姿があった。
『殿下、わたくしはっ』
『残念だけど、ハーヴェイ公爵家もただではすまないだろう』
警備の兵士が私の腕を掴む。
『嫌、いやっ、離してっ!』
『追って沙汰があるまで、せめて己の罪を悔いるが良い』
とどめの一言で、シェリー・ヴォーン・ハーヴェイの心は壊れてしまった。
大勢の人間が、貴族たちが私を見ているのに、なにも言わない。
もうどうでもいい。何も考えられない。なにも。