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Last of Eden  作者: 千鳥丸
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二人ぼっちの世界







もしもある日突然、世界が滅亡したら…。人生の中で誰もが一度はそんなことを考えたりしたことはないだろうか?友達も家族も皆死んで、自分だけが取り残されてしまったら…。






あなたは世界終末論をご存知だろうか?



著名なものを上げるなら、聖書の黙示録か、ノストラダムスの大予言というものがあるだろう。他にも都市伝説として様々な終末論が存在している。しかしそれらはあくまで都市伝説に過ぎない。







「世界の終わりがくる…」

「おはよーレイちゃん。何見てんの?」

「おはよー美由(みゆ)。今、まとめサイト見てたんだけど、ヘンな記事が上がっててさ」


ホームルーム前の朝の教室。机に寝そべりながら一人でスマホでまとめサイトを見ていた私に、親友の美由が話しかけた。



「なになに?『予言!世界の終末が来る!』…なにこれ?」

「ネットの掲示板に予言者が現れたんだってさ。まとめサイトの情報だからどうせデマだろうけど…」


当然、私は信じてはいなかった。この手の話題は大抵フェイクだと決まっている。

そして休み時間、クラスメイトたちの間では世界終末予言の話題で持ちきりとなっていた。



「ねぇ聞いた?世界終末の予言の噂!」

「聞いた聞いた!ネット掲示板とかSNSでけっこう話題になってるよね。でも本当なのかな?」

「こんなの嘘に決まってんじゃん。」

「だよねぇ。でももし本当に世界の終わりが来たらどうしよう」

「終わりって?」

「人類滅亡とか?」

「ねぇねぇ、麗華はどう思う?もし明日人類が滅亡するってなったら。」


クラスメイトからそう振られ、私は少し考えた後に答えた。



「私?私は…温泉行きたい!」

「お、温泉?」

「うん。今思いついた。温泉入って美味しいもの食べて…だらだら過ごして…私はそれで満足かな。」

「麗華は相変わらずブレないね…」

「だって私あんまり深く考えるタイプじゃないし…」

「ねぇ、美由はどうする?」

「私は…大好きな人と一緒に居れたら、それでいいかな…。」

「流石は美由…なんてロマンチックな答え…!」

「てか美由、今彼氏いないじゃん。好きな人って…」

「かッ仮に居たらの話だよ!ていうか、そういうレイちゃんだって恋人いないでしょ!」

「私は一人が好きだから何も問題はない。」

「まったくレイちゃんはロマンの欠片もないね…」


世界の終末なんて、誰も本気で信じてはいない。ソースも分からない情報に皆が躍らされているだけ…。私はそう思っていた。

しかし、この日を境に、私たちの世界が、日常が、全てが一変することになろうとは、この時の私はまだ知る芳もなかった…。





当たり前だと思っていた世界。それがある日突然、終わりが訪れたら…あなたは何をするだろうか?













二年後





アスファルトの亀裂から膝丈ほどの雑草が生い茂る道路の上、埃と錆で汚れた乗用車が何台も放置されている。街に人の気配はなく、乗り捨てられたままのパトカーの傍には一頭の鹿がアスファルトの上に生えた雑草を啄ばんでいる。

街から人が消えて二年、野山にいた鹿や猪などの野生動物は都市部の住宅地に住み着き、現在では市街地はおろか中心部の住宅街や公園などは緑に覆われ、街は徐々に本来の自然に飲まれつつあった。




人が消えた世界。しかし、街の中心部にある廃墟と化したショッピングモールに、一人の少女の姿はあった。



「お、一万円…。」


彼女は床に落ちていた一万円札を拾い上げるが、ため息をつくとガッカリした様子でそのお札をその辺に投げ捨てた。



「はぁ…お金より食い物落ちてねぇかなぁ…」


顔をゴーグルとバンダナで覆い、腰まで伸ばした黒髪ロングヘアをハーフアップに結い、セーラー服の上にパーカーを羽織った姿のその少女は背中にはバールのようなものと「非常用持出袋」と書かれた銀色のリュックを背負い、指貫グローブを填めた手には猟銃(上下二連式散弾銃)を持ち、腰には回転式拳銃(ニューナンブM60)の入ったホルスターと手斧を提げ、散弾銃の装弾の入ったウエストポーチと、ハンティングナイフを一本装備した出で立ちで、店内を探索していた。


彼女の目的は、ショッピングモール併設のドラッグストア店内に残された食糧品の確保である。

店内は埃まみれで荒れ果て、床には商品やチラシ、割れたガラス片やゴミなどが散らばっていた。歩くたびに散乱したガラス片を踏むのでジャリジャリと音が響く。彼女はなるべく音を立てないように気を使いながら店内を歩き進む。



「……」


その時、目指す食料品売り場の方から、突如として缶を床に落としたような物音が響く。



「!?ッ」


彼女は立ち止まり、ウエストポーチの弾差しから鹿撃ち用の装弾(バックショット)を二発取り出すと、銃の機関部を折り曲げ、中にその装弾を装填して横倒しになっていた商品棚に身を隠して音のした方を物影からそっと覗き見る。



「いた…。」


視線の先には、体長が90センチほどの一頭の猪の姿があり、床に散らばっていたスナック菓子を食い荒らしていた。



「大きい…」


彼女はすぐに猟銃を構え、猪の方に照準を合わせる。

ゆっくり深呼吸して呼吸を整えると、引き金に指をかけ、狙いを定める。照準が定まり、彼女は引き金を引いた。



その瞬間、ドン!!!と大きな発砲音が店内に轟く。放たれた鹿撃ち用の大粒の散弾は猪の頭部と心臓に命中し、ギュイイと断末魔に似た鳴き声を発しながら猪は床の上に崩れ落ちた。



「当たった!」


食糧調達が目的だったが、彼女にとっては思わぬ収穫であった。

しかし、安心したのもつかの間。猪を回収しようと近づこうとしたとき、陳列棚の影から、一頭の熊が姿を現す。



「!!ッ」


彼女は慌てず、後ろにゆっくり後退しながら距離を取る。慌てて逃げると熊は本能的に相手を襲ってくる習性があることを彼女は知っていた。



「熊!?こんなところに…。ゆっくり…後ろに下がれば…大丈夫…」


しかし、何故か熊は逆に彼女との距離を縮めてくる。彼女は猟銃を熊の方に構えながら後ろに後退を続けた。


距離は徐々に縮まってゆく。熊は牙をむき出しにし、彼女に迫る。照準を合わせ、彼女は引き金を引く。爆音のような銃声が轟き、二発目の算段が撃ち放たれた。しかし焦りからか狙いがぶれてしまい、弾は当たらず熊の後ろにあった広告板に当たり、広告板のガラス板を粉々に破壊した。



「外したッ!!」


焦りからか、リロードも忘れ銃を構えて再び撃とうとするが当然弾は発射されず、彼女はさらに焦った。熊は牙をむき出しにして彼女の方に向かって距離をつめてくる。


彼女はとっさに腰に提げていたスプレー缶のような形状をした緑色の催涙弾を掴むと、ピンを抜いてそれを熊にめがけて投擲する。催涙弾は熊の顔に当たり、足元に落ちるとガスを放出し、辺り一面を白い煙に包み込む。

噴出した催涙ガスに目と鼻をやられた熊はたまらずモールの出口へと走って外へと逃げていった。



「ケホッ!ケホッ!少しやりすぎたか…?」


自らが投げたガスの煙に咽せながら、ガスを吸わないように彼女はドラッグストアから出てフードコートエリアの方へと避難した。



「ゲホッ!マズッたな…ガスマスク持ってくるんだった…」


「わぁッ!!」

「!?ッ」


突然、後ろの方から悲鳴が聞こえた。

声のした方へ彼女が向かうと、そこには背中に大きめのリュックにスコープ付きのライフル銃(ウィンチェスターM70)を背負い、彼女と同じぐらいの長さのロングの栗色の髪をポニーテールに結い、首にスカーフをマフラーのように巻いた、彼女と同年代の少女が、床にしりもちをついた状態で片手に持った鉈をブンブンと振り回している姿があった。見てみると、少女の前に一人の中年男性の姿があった。



「やだやだッ!!来ないで!!来ないで!!あっち行って!!」

「なにしてんの…?」


彼女がその少女にそう尋ねると、少女は怖がりながら男のほうを指差し、彼女に答える。



「ぞぞ…ッゾンビッ!!ゾンビがぁッ!!ってレイちゃん!なんでそんなに冷静なのさッ!?」

「ゾンビ?」


少女の前にいたその男の姿は、肌は青白く干からび、片足を引きずっており、目は見えていないようで白目をむいていた。その姿は、まさしく「ゾンビ」のような姿だった。動きはとても鈍く、引きずっている足は腐って骨が見えていた。



「なんだ、まだ生き残りがいたのか…珍しいな。」

「そんなことはどうでもいいからなんとかしてよッ!!」

「こんな動きの鈍いゾンビ怖くもないじゃん。武器持ってるんだし。」

「むッ無理!絶対無理ッ!!動物以外を殺すなんて無理!!」

「えぇ…?まったく、美由(みゆ)はしょうがないなぁ…」


ため息交じりに彼女はそう言うと、銃の機関部を折り曲げた。機関部からは二発の空薬莢が廃莢されて飛び出し、弾差しから新しい装弾を二発取り出すと、それを慣れた手つきで装填する。


ガチャッ


リロードを終え、彼女は動けない少女の前に出ると、しっかりと銃を構え、ゆっくりと呼吸を整えてから照準を合わせた。



「ぐgrちhrjjるヴぉつyrじ」

「おいマヌケ。こっち見な。」


彼女はそう吐き捨てると、ゾンビが気づいて彼女の方を向く。その瞬間、彼女の猟銃が火を吹いた。



「gれうt?」


ドン!!!


銃声が轟き、感染者の顔半分が吹っ飛んだ。しかし、まだ完全に頭が破壊されていないのか、まだ動いている。おぞましい風体で動き続けるゾンビに少女は顔を真っ青にして震えた。だが、猟銃を構える彼女は怖がるその少女とは対照的に余裕な様子で、ゾンビに二発目を発砲しトドメを刺した。


ドン!!!


再び爆音のような銃声が轟き、肉片が飛び散る。散弾が命中し、頭を完全に破壊されたゾンビは膝から崩れ落ちるように床に倒れ、赤黒い血を床に垂らして遂に活動を停止した。



「死んでも生き続けるなんて、自分が一番恐ろしいよな…。」


彼女はそう呟くと、かけていたバンダナとゴーグルを外して少女のほうに歩み寄る。彼女は床に座り込む少女に手を差し伸べ、少女は少し照れくさそうに頬を赤らめながらその手を掴んで立ち上がった。



「ほら、立てる?」

「あ…ありがとう…。レイちゃん…」

「怪我はない?」

「うん、平気…。でもなんでゾンビが…私が裏口から入った時は見かけなかったのに…」

「店の奥に隠れてたんだろう。ここは初めての場所だし、二手に分かれて探索するのは危険だったかも…。でもまさかゾンビの生き残りが居たとはね…。普通なら二年も経つと肉が腐って歩けなくなって骨だけになってるはずなのになぁ。」

「ねぇレイちゃん…ところで向こうから白い煙みたいなのが見えてるんだけど…あれは何…?」

「えっ?煙…?」


後ろを向くと、白い煙のようなものがドラッグストアのほうから漂ってきてるのが見えた。その煙は、さっき彼女が熊を撃退する為に投げた催涙弾のガスの煙だった。



「あ、やっべ。さっき私が投げた催涙ガスだあれ…」

「えぇ!?レイちゃん!!まさかあの催涙弾使ったの!?」

「うん。この間見つけた自衛隊車輌に詰まれてたヤツ。全然使ってなかったから試しに一個使ってみたんだけど、流石は軍用だね。ここまでガスの威力が強いとは…。」

「感心してる場合じゃないよ!!どうすんの!探索どころじゃないよ!!」

「しょうがないね、ここは仕切りなおしだ。撤収!!」

「あぁッ!ちょぉッ!!レイちゃん!!」


催涙ガスが迫っていたので、彼女は少女の手を引いて出口の方へと向かって走り出した。



「わははー!!逃げろ逃げろォ!」

「笑ってる場合じゃない!!」


催涙ガスが迫る中、なんとか二人はギリギリで屋外から外に出ることが出来た。だが、少女は怒った様子で彼女に詰め寄る。



「もう!!なんでレイちゃんは後先考えずに行動しちゃうの!!」

「ゴメンゴメン。どうしても一発だけ使ってみたかったんだよ。だってまだいっぱいあるしさ…」

「そういう問題じゃない!!本当に怖かったんだから!!レイちゃんのバカ!!破天荒!!おたんこなす!!」

「ボロクソ言うなぁ…悪かったって…もう、しょうがないな…。」


彼女はそう言うと、怒った少女に歩み寄ると、体にそっと手を回して少女を優しく抱きしめた。



「大丈夫だよ、美由は私が守るから。」

「…もう…バカ…」


少女は彼女を見つめながら、少し頬を紅く染めていた。しかし、そんなタイミングで、彼女の腹の虫が鳴く。



「腹減ったし、そろそろ戻ろっか。」

「仕方ないか…じゃあ今晩は私がご馳走作ってあげる。この間獲った鹿肉がまだあるし。」

「また鹿肉かぁ…」

「贅沢言わない!」

「はーい。じゃあ、帰ろ。」


この世界は弱肉強食。食うか食われるかの世界である。しかし、そんな世界で二人の少女は逞しくも、幸せな日常を送っている。


これは、そんな二人の、二人だけの楽園(エデン)の物語である…。





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