9.やっと王子様に会えました!
«皆様、お待たせ致しました。第一王子、第二王子様のご入場です»
そのアナウンスと共にふたつの影が見えた。
1つは巨体でもう1つは細身な影だった。多分、巨体の方が第一王子で細身の方がルドヴィアスト様だろう。
あれだけ騒がしかった会場の貴族達はしんと静まり返っていた。
そして、二人の王子が入場した瞬間にすごい歓声へと変わる。
まぁ、片方は歓声で片方は悲鳴っていうのが正解かな?
第1王子様は…うーん。どギツイ顔。しかも物凄く太ってる。
絶対近寄りたくない…というかあの不細工の周りできゃあきゃあ言ってる令嬢たちの頭が心配。まぁ美醜逆転してるから仕方ないんだけどね。
第2王子様……ルドヴィアスト様は……。
私は第一王子を見てすぐ、第二王子の方へ目を向けた。少し俯いてはいるものの、ハッキリと顔を見ることが出来た。
その顔を見た瞬間、私はこの人のことが本当に好きなのだと分かった。言葉では言い表すことの出来ない、愛しい気持ち。
これが恋なのね。これが好きになるということ。他の人じゃ駄目で、この人だけが特別で。やっと分かった。
私は、ルドヴィアスト様だから好きなんだ。
そう思いながら見惚れていると、なんだか周りの令嬢たちがザワザワしていることに気がついた。
近くの子達をみてみると皆顔が青ざめていて、口元を押さえている子や、気を失ってしまう子もいた。どの子も視線の先にはルドヴィアスト様がいて。それに対して彼は、こんなにも酷い対応をとられても、笑顔のままだった。
でも、私には分かる。あの人は笑顔だけれど、とても悲しそう。
皆と普通に話したいけど、出来ないから、あんなに諦めたような顔をしてるんだわ。何もかも諦めたような顔を。
そんな顔をぼーっと見つめている自分にも嫌気がさす……何してるのよ私は!あの人を本当の笑顔にしようって決めたじゃない!
バレないようにため息をついて落ち着いた私は、彼の前まで淑やかに歩き出した。
そして、彼の前で止まり、すっと綺麗なカーテシーをする。
ルドヴィアスト様は驚いているみたい。こういうことに慣れてないのね。……でも私は、ルドヴィアスト様のためならいくらでも待てるんだから!
そう思い長い間カーテシーをしたまま下を向いていると、ルドヴィアスト様から、低くて綺麗な声が流れ出た。
「…わ、私は、ルドヴィアスト・ヴィ・フォレストと申します。…その、顔を上げてください、」
言葉につまるその様子さえも愛しい。
『はい。フォレスト第二王子殿下。私はアリスティア・フロミネンスと申します。お見知りおきを。』
「は、ふ、フロミネンス嬢…ですね、えぇと、楽しんでいってください。」
驚きながらもたどたどしく言う様子に、本当に誰にも話しかけられないのだなぁと悲しくなった。
でも正直、嬉しくもある。だってこんなに美形なのに、私以外に誰もいなくて独り占めできるんだもの。
『えぇ、ありがとうございます。楽しんでいってとおっしゃるのでしたら、ぜひ私とお話していただけませんか?』
「えっ!?!」
ルドヴィアスト様は盛大に驚いている。公の場でこんなにも大声をあげるのは本来マナー違反だけれど、ルドヴィアスト様が驚いている様子を、私は微笑ましく思った。
「わ、私とで本当に、よろしいのですか?その、気分を害する可能性が高いですし、」
卑屈な王子にはきっと、積極的にいかないと伝わらない!
そう思った私は、ずいっと王子に近付いて、
『私は貴方と話したいのです、貴方のことをもっと知りたい、…いけませんか?』
ダメ押しで上目使い。この顔ならしてもおかしくないと思う。
案の定王子は顔が真っ赤になって狼狽えていた。
「あ、え、えっと、その、わ、私でよければ…」
『…!!ありがとうございます!』
その返事に嬉しさでついつい頬が緩んでしまった、すごくはしたない顔になってしまったかも。
「…!」
さらに顔を赤くした王子。どうしたのかな?
まぁいいか。
『そうですね…、良ければ場所を移動しませんか?ここでは少し、視線が気になりますので。』
こんなにも周りの人に見られていては、落ち着いて話も出来ないし……婚約者にしてほしいと言うことも出来ない。
ただ私は王城には詳しくないから、どこに行けばいいのか分からないけど……王子は提案してくれるだろうか。
その予想は見事に当たり、ルドヴィアスト様が少し悩んだように押し黙った後、小さく口を開いた。
「そ、それでは、ここの庭には、大きな噴水とアンティーク調のベンチがあるんです。よければお連れしても?」
断る理由なんてあるわけない。慕っている王子様からのデートのお誘いなのだ。二つ返事で頷かない方がどうかしている。
『えぇ、もちろんです!』ニコッ
そう言って微笑んだ私は、ルドヴィアスト様と一緒にパーティー会場を後にしたのだった。