謎の女子高生
神川『この剣…本物だ…』
神川の手には、ドラマや映画で目にするようなずっしりと重量感のある本物の剣が握り締められていた。
多月『神川くん…それは…?』
神川『…僕にもわからない…』
神川は自分自身でも何が起こったのかわからずにいたが、この剣に少し見覚えがあった…それは…
『あなたの覚悟で未来はきっと変わる…あなたにしか出来ないことがある。私はそう信じています…』
あの男が持っていた剣と似ていたからだ。
『ほぉ…お前力を隠してたな…俺相手に随分と余裕かましてくれてんじゃねーかよ…雑魚が!!ふざけやがって!?』
そうして気を抜いていると、またしても奴はこちらへと向かって来た。
多月『神川くん!危ない!!』
多月の声に神川は再び剣を構え男の攻撃に備える。
その時…
『優樹、お前なら大丈夫だ。何も問題ない。いつもの通り、動きの先を読んで剣を振るってみろ。』
神川『だ、誰!?…とにかくわかった!』
神川はどこから聞こえてくるかわからない声の主に素直に従う。
『死ねーーー!!!』
奴のスピードと強力な腕力、そして爪の切れ味は危険そのものだが、神川の集中力はそれ以上だった。
爪が身体を捉えるその瞬間、神川は寸前のところで身を交わし、奴の片腕に剣を振り下ろした。
ザクッ!…ボトッ!
その瞬間、奴の腕は地へと落とされた…
『う…うぉぉぉぉぉ!テメーやりやがったなー!?』
あまりの痛さに声を上げる奴に対し、先程の恐怖とは別の違った感情を多月は抱いていた。
多月『…すごい…』
人体の腕を斬り落とすというおぞましい光景ではあったが、その華麗な剣捌きに多月は魅了されていた。
腕を斬り落とし、奴へ攻撃を入れるまさにこれからというタイミングで…神川は自分のやってしまったことに対しての罪悪感と恐怖を覚えてしまう。
神川『ぼ、僕は人を斬ってしまった…な、なんてことをしちゃったんだ…』
剣を握っている神川の手は震えていた。
『テメェ…俺の腕を斬り落としておいて、なんだその腑抜けた顔はよぉ…イライラさせやがって!?』
奴はそう言うと再び神川に向け突っ込んできた。
残っている片腕を神川に向けて先ほどよりも速いスピードで突き刺してくる。
『ただで終わると思うなよガキがー!?』
『優樹!お前はなぜ剣を振るう!理由を思い出せ!』
心に語りかけるその声も、今の神川には届かなかった。
神川『ちくしょう…身体が…手が…動かない!』
恐怖に苛まれ苦しむ神川だったが…ここで思いもしないことが起こる。
神川『え…?』
動かない身体を後ろから優しく抱きしめ、震える手をそっと握る…多月がいたのだ。
多月『神川君、大丈夫…どんな時もみんな一緒だよ。生きるも死ぬもそう…神川君1人に絶対背負わせない…私も田島君も一緒…』
多月の声を聞いた神川は、縛られていた何かから解放されたかのように身体が楽になる。
気付けば震えも止まっていた。
神川『多月…ありがとう…もう大丈夫。田島を頼んだ…』
そういうと多月は頷き、神川は多月を自分の後ろにポンッと押し離す。
するとすぐに…
キーッン!
間一髪、奴の攻撃を防いだ。
神川『2人には指一本触れさせない…』
『チッ、もう少しだったのによ。ちょこまかと防ぎやがって…じゃあこれはどうかな!?』
そう奴が叫ぶと、地面に自分の爪を突き刺した。
すると3秒たたないぐらいで所々から奴の爪が現れる。
突き出てきた全ての爪は、かなりのスピードで一方向へ進んでゆく。
空を切るように伸びていくその先には…神川がいた…
キンッキンッキンッ!
神川は磨かれた反射神経を駆使し、なんとか奴の攻撃を防いでいくが…しかし…
グサッ!…
神川『クッ!こんなの全部は防ぎきれない…』
左の太腿に奴の爪が刺さってしまった。
『やっと捉えたぜ…これでお前の動きは半減、いやそもそも動くこともできないか…兎にも角にも俺の勝ちは決まった!?そーだろ!?カシュパラゴの騎士様よぉ!?』
神川は刺さった爪を抜こうとするが、爪には返しがあり、無理に抜こうとすれば片足の肉が全て持ってかれてしまう危険があった為にその場から身動きが取れなくなってしまう。
かといって剣で切れるほど柔らかくもなく、むしろ剣を振るえば折られてしまう可能性があった。
神川『いてぇ…くっそ…動きを制限されちゃまずい…』
その場から動くことが出来ない神川に向けて奴はものすごいスピードで向かってくる。
『これで終わりだなぁ!?あばよ!勇敢な剣士様!』
残りの爪全てが神川を串刺しにするように伸びていき、両腕が使えない奴自身は鋭い歯で神川の喉元に食らいつこうとしていた。
キンッキンッキンッ!
神川は迫り来る爪を防ぐことで精一杯になり、奴自身の攻撃まで対応しきれなかった。
神川『くっそ!間に合わない!?…』
『首はもらったぜー!!』
神川の敗北が決まったかと誰しもが思った…その時…
キーッン!
『!?』
神川『…え?』
森中に高い金属音が鳴り響き、奴の攻撃はギリギリのところで防がれた。
何が起こったのかわからずにいた神川だったが、攻撃は何者かによって防がれたのだ…
奴の攻撃を防いだ…その人物とは…
神川『き、君は…?』
神川の目の前に立っていたのは細長い太刀を持った女子高生だった。
『いきなり女子高生に名前尋ねるとか変態なのあんたは!…南条瑠奈。たっく…なんでこんな雑魚相手に苦戦してんのよ。あんたそれでも騎士!?っていうか剣でその気持ち悪いの斬れるでしょ。早く斬り落としなさいよ。』
神川は彼女に支持されるがまま爪に向かって剣を振るう。すると、普通の切れ味と違った感触の中、岩よりも硬そうな爪がすんなりと斬れた。
神川『な、なんだこの切れ味は…?』
瑠奈『あんたのその剣は普通の剣とは違うのよ。闇の力に対抗するために特殊な鉱石で作られてる。それはこの世界にはない鉱石でね…ってかそんなのも知らないの!?』
神川は初めて聞くことに戸惑いを感じていたが、現実離れしたことの連続にそこまで驚くことはなかった。
『おい、おめーらさっきっからウダウダと話しやがって…そんな余裕あんのかよ!?』
一端距離をとっていた奴がまた同じ攻撃パターンで襲いかかる。
瑠奈『うっさいわねぇ…そんなに死にたいのあんた?…じゃあ…』
そういうと瑠奈は太刀を構えその言葉を口にする。
瑠奈『リゾリューション…』
言葉を口にした瞬間、持っていた太刀は眩しいほどの青白い光を放ち出した。
『眩し!?』
神川『な!…何なんだこれは…?』
奴が光に目を眩ませたその一瞬の隙に、瑠奈は奴の懐まで距離を詰め…そして…
瑠奈『あんた遅すぎ…』
バサッ!バサバサバサッ!
太刀を眩しがり、目をつぶったほんの一瞬だった。
声を上げることも許されないほどのスピードで奴は…細切れとなった。
あまりの衝撃的な出来事に神川は何も言う事なく、目を開けたままただ状況が読み込めないでいた。
太刀から放たれる光は徐々に弱まっていき、次第に元の姿へと戻っていく。
瑠奈は太刀についた奴の血を、太刀の一振りで取り去る。
瑠奈『あんた何ボサっとしてんのよ?倒してあげたんだから天送ぐらいしなさいよ。』
神川『天送?…何それ?…』
瑠奈『え!?あんた天送も知らないの!?…はぁ…』
色んなことが起きすぎて訳がわからなくなっていた神川だったが、瑠奈のイラつく態度に腹が立っていた。
神川『お前さっきっから言葉遣い悪すぎだろ!俺はお前よりも歳上だし、しかも色んなことがさっぱりわかってないんだよ!』
瑠奈『えー歳上だからって威張る大人うざいわぁ〜、それにあたしより弱いあんたに威張られる筋合いはない…』
神川『寛容に聞いていればテメェ…』
神川は再び剣を強く握り締める。
瑠奈『へぇ…あんたも殺されたいんだ…』
瑠奈も神川に対し剣を構え、今にも戦闘が始まりそうな雰囲気が漂ったその時、
多月『神川君!瑠奈ちゃん!冷静になって!今はそれどころじゃないよ!田島君が…田島君が危ない!』
多月のその言葉に神川は一気に冷静になる。
瑠奈『瑠奈ちゃんって!ってか私はずっと冷静よ!』
今は争っている場合ではなく、田島を一刻も早く病院に運び診てもらう必要があった。
神川『今はお前に構ってる暇はない!田島!田島!!しっかりしろ!!』
神川は必死に声をかけるも…田島の反応はなかった…
呆然とする神川の隣で多月が田島の息を確認する。
すると微かにではあるがまだ息はあった。
多月『田島君まだ生きてるよ!急ご!!』
多月のその言葉に正気を取り戻した神川は、瀕死の田島を背負い走り出そうとする。
一刻も早く田島を病院へ連れてこうと動き出す2人に瑠奈が話しかけた。
瑠奈『その人、悪いけどもう間に合わない。見ればわかる…無理に動かしたら苦しいだけよ。』
瑠奈は田島の姿を見てはっきりと言い切った。
確かに田島は誰が見ても助かる確率は低い…
所々からは出血し、胸には大きな穴が空いている。
たとえ病院に着いたとして、手術をしても助かる見込みは…そのくらいボロボロの身体であった。
しかし、それでも2人の目は諦めていなかった。
神川『だとしても!…望みが少しでもあるなら俺は諦めない…こいつは俺の親友なんだ!』
瑠奈『親友だからこそどちらが良い判断なのか、しっかり考えるべきね。』
瑠奈は神川の言葉に冷静に返答する。
確かに瑠奈の言ってることも一理あった。
それは、田島を苦しませながら急いで病院に連れて行き死を迎えるか、それとも今静かに死を迎えるか。
どちらも助からないのであれば、後者の方が良いに決まっていた。
しかし、田島の息はまだある。
彼がもし生きることを諦めていないのであれば、どちらに転んでも助ける価値はあると神川は直感的に感じていた。
瑠奈と2人が数秒間顔を見合わせた後、神川と多月は何も言わずに山を降り始めた。
瑠奈はハァ…とため息をするも2人を大声で引き止める。
瑠奈『たっく…ちょっと待ったー!!』
神川、多月は瑠奈の言葉を無視して走り続ける。
そんな2人の姿を見て、瑠奈は人とは到底思えないジャンプ力を見せ神川たちの前に立ちふさがった。
神川『テメェ!何なんだよさっきから!俺は田島を死なせない!絶対!だからそこを退け!』
瑠奈『走って間に合うはずない!あんた達の足じゃ絶対間に合わない。だから…』
瑠奈はそういうと、先ほどのあの言葉を口にする。
瑠奈『リゾリューション…』
その言葉によって剣は再び青白く光を放ち始める。
神川『な!?』
多月『眩しい!…』
光を放つ剣を瑠奈はゆっくり振り上げと、何かを言いながら真っ直ぐに振り下ろした。
瑠奈『転生剣!』
スパーッン!…ザァァァァー…
剣を振り下ろしたそこには何もないはず…
しかし瑠奈が斬った何もないところに突如穴が開き、そこから眩しいばかりの光が漏れ出てきた。
数秒経つと、その歪みのようなところからライオンに翼が生えた様な…地球上に存在するはずのない生き物がゆっくりと歩き出てきた。
不思議な生き物は瑠奈を見るなり駆け出して、そして飛びついた。
『ガウ!ガウ!ガルゥゥゥゥゥゥ』
瑠奈『よーしよしよしー、お利口だねマルシュー、今日も可愛いねぇー、なんでこんなに可愛いのマルシュはー』
マルシュ『ガルゥゥゥゥゥゥ』
ずっと強気でいた瑠奈が突然満面の笑みになりマルシュと呼ぶ生き物を可愛がる。
その姿を見て謎の生き物への驚きよりも、瑠奈の豹変ぶりに2人は唖然としていた。
多月『瑠奈ちゃんの情緒はどうなってるの…』
神川『なんなんだお前…おい、悪いけどこっちは急いでるんだ。そこを退いてくれ。』
その言葉に瑠奈は先程の顔に戻りこちらを向く。
瑠奈『だから言ったでしょ。あんたたちの足じゃ間に合わないって。』
神川『何度も言ってるだろ!間に合わないかどうかはやってみなきゃ!…』
神川が言葉を言い切る前に瑠奈が割って入る。
瑠奈『現実的に間に合わないんだってば!…だから私の愛獣で近くの病院へ向かう。それなら可能性があるわ。助けたいんでしょ…その人。』
瑠奈は神川たちを諦めさせようとしたのではなく、間に合う可能性のある手段を提示してくれたのだ。
神川『お前…』
多月『瑠奈ちゃん…ありがとう…』
そして瑠奈はマルシュにまたがる。
瑠奈『ほら、あんたたちも早く乗って。』
瑠奈の言うがままに田島を抱えて2人はマルシュへとまたがった。
マルシュの毛皮はフカフカで心地良く、その奥にある肉体は鋼鉄のような硬さを誇っていた。
多月『瑠奈ちゃん!これから私たちどうなるの!?』
瑠奈『いーい2人とも!しっかりマルシュにしがみつきなさい!』
神川『だから瑠奈!こいつでどーするか言って!?』
またしても瑠奈は神川が言い切る前にマルシュへ合図を送る。
瑠奈『さー行くわよ!マルシュ!お願い!!』
マルシュ『ガウガウゥゥゥゥ!!』
マルシュは瑠奈の一声により勢いよく走り出すと共に、翼を大きく動かし、やがて4人はマルシュの背中に乗りながら大空へと飛び立って行くのだった。




