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人殺し

まるで深海の暗闇に包まれたような感覚。


とても寒くて、孤独な寂しさを感じ、神川は自分が死んだことを悟った…


【僕は…死んだんだ…呆気ないもんだなぁ…】


全てが静まりかえるその時を待っていた神川だったが、その意識に語りかけてくる誰かがいた。


【君が神川優樹君だね】


【え?…僕は死んだはずじゃ…誰…?】


【俺は君を導く者…名はカスティス】


【カスティス…?どこの国の名前だろう?…外国の方ですよね?】


【まぁ現世で言う外国みたいなものか…君は彼から俺たちの世界、カシュパラゴのことは聞いてるよな?】


【あぁーなんかさっき聞きました。世界を守ってる団体のことですよね。ってか僕あいつに騙された!?】


【いや、騙されてないよ。】


【え、でもあいつに腕を切られて…激痛で、悶えて…】


【確かに君は腕を切り落とされた。そして、意識を失った。】


【それじゃあ僕は死んだ…】


【いや、君はまだ生きている。】


【え?…どういうことだ…また状況がわからなく…一体なんなんだこれは!もう僕にはわからん!!】


【優樹、嫌でも直に思い知る時がくる。】


【嫌でもってどういう!?…あれ…だんだん…意識が薄れて…】


【俺は、お前とこの世界を…】


神川の意識はそこで完全に途切れてしまった。



もう何時間経っただろうか。


深い闇を彷徨う神川の中に一筋の光が差し込んだ。


神川『ん…眩しい…っは!?…え?なんで僕…自分の部屋で…ベットで…え?…どういうこと…』


目を覚ますと神川は自分の部屋で、しっかりと布団を掛けベッドの上で眠っていた。


そしてあることを思い出す。


神川『僕の腕!?…え?何ともない…』


神川の記憶ははっきりしていた。

確かに昨日怪しい男に変な話をされて、よくわからないままその話に賛同し、その後奴に片腕を斬られた。


しかし神川が今いるここは、自分の部屋のベット上。


はっきりとした記憶ではあったが、あれは夢だったのだと彼は思い始めていた。


神川『あぁ、頭いったぁ。きっと飲みすぎたんだな…ってか時間やばくね!?』


今日は仕事自体は休みなのだが、田島、多月と気分転換にドライブへ行く予定になっていた。


神川が起きたのは9時50分。

田島の車で出かけることになっていて、家に10時に迎えに来る流れになっていた。


急いで身支度をしていた神川だったのだが…


プルルルルルループルルルルルルー!


神川の携帯が鳴り、画面には田島涼介の文字が浮かび上がっていた。


神川『た、田島。後10分待てる…?』


田島『はー!?お前何やってんだよ!多月ちゃん駅で待たしちゃうじゃんか!急げ急げ!hurry up!!』


田島に急かされて髪の毛のセットは5分で終わり、急いで家を飛び出し車に乗り込んだ。


神川『田島!マジごめん!』


田島『お前ちゃんと起きろよ!ってか神川が寝坊って珍しいこともあんだなぁ。』


神川『まぁ…言い訳になっちゃうけど、なんか昨日田島と別れてからどうやって帰ったのか記憶がなくて…あっはははぁ〜。』


田島『え!?お前俺と別れるまで全然普通だったじゃん!?ってか俺の方が酔ってなかったか!?あ!いいから出発するぞ!』


そんな話を交わした2人はすぐに立川駅から3つ離れた国分寺こくぶんじ駅に向かって車を走らせた。


田島は多月を待たせまいと、かなりスピードを上げて運転する。


神川『な、なぁ田島。ちょっと飛ばし過ぎじゃない?』


田島『ここは90㎞だとギリギリ信号引っかからずに行けんだよ!ってかお前が遅れるからだろバカヤロウー!』


本当であれば20分ぐらいはかかる道のりを田島のドライブテクニックにより10分で駆け抜けた。


そして駅ロータリーに到着すると、すぐに多月を見つけて田島が声をかける。


田島『多月ちゃんお待たせ〜』


多月『田島君、神川君おはよう。田島君運転ありがとう、よろしくお願いします。今日は楽しも!』


田島『お気になさらずだよ多月ちゃん!今日は楽しむよー!』


神川『楽しもぉ。』


多月と合流し、3人は目的地へと出発した。


毎日パソコンと睨めっこのこの3人は、たまには自然の中でゆっくりしようという意見から、山梨にある『西沢渓谷』という場所へ向かう。


道中は会社の部署での話やプライベートなことなどたわいもない話で盛り上がった。


なんだかんだで時間はあっという間に過ぎていき、目的地へと到着した。


車から降りた3人は揃って大きく身体を伸ばす。


田島『いやぁここは空気が上手いね〜やっぱり田舎は最高だわ!』


神川『いやいや、立川も都心からしたら十分田舎の部類だろ。』


多月『クスッ、神川君は相変わらずの堅物だね。』


神川『誰が堅物だよ!本当のことだろ!言っておくけどなぁ多月、国分寺も田舎だからな!』


田島『まぁまぁ神川の堅物は今に始まったことじゃないし、とりあえずLETS GOー!』


神川『僕は堅物じゃねー!』


簡単な荷物を持ち、3人は森の中へ進み始めた。


森は確かに普段感じることのない空気感と、どこか忙しない日常を過ごす現代人を落ち着かせてくれる雰囲気を漂わせていた。


西沢渓谷は山梨でも有名な観光スポットで、季節によっては多くの人が訪れる場所である。


見たい場所はたくさんあった神川達だったが、1番のお目当てはエメラルド色の滝つぼだった。


その滝は地形との関係によって段違いに3段の水が溜まるところがあり、川の流れと滝とのコラボレーションがなんとも幻想的な風景を創り上げている。


多月『どこを見ても綺麗な感じだなぁ、緑ってすごく落ち着くね。』


田島『本当だね多月ちゃん!…でも俺は自然よりも君が1番綺麗に見えるんだ…』


多月『ん?田島君何か言った?』


田島『いや…ただの独り言です…ホント…うんうん…そうに違いない。』


田島が多月に思い寄せていることを知る神川は、微笑ましい感じに2人を眺めていた。


神川『そういえば多月って出身どこなんだっけ?』


多月『私関西なんだよね、大阪の方かな。』


神川『あ、そーだったのか。でも喋り方とか標準語に近い…というかあんまり変わりない?』


多月『喋り方は一緒だよ。私関西出身ではあるけど、お母さんは東京の人だし、周りも標準語の人が多かったから。』


田島『多月ちゃんって関西出身なのかぁ。なんか服の感じとか喋り方とか普通にこっちの出身かと思ってたから意外だなぁ。』


神川『服の感じってなんだよ。田島もしかして関西の人はみんな寅柄の服着てるとか思ってたの?』


田島『んなわけねーだろボケが!!!』


神川『あー!?ボケってなんだよボケって!!』


多月『まぁまぁ2人とも。』


互いの話をしながら大体1時間ぐらい歩いた頃だろうか、お目当てのスポットに近づいてきた。


多月『普段運動サボってるから、歩くだけでもけっこうしんどいね。』


田島『社会人になるとなかなか運動しなくなるからなぁ、しかも山道だと余計だよねきっと。』


神川『まぁ僕は毎週剣道やってるし、意外と大丈夫かな?』


田島『お前よくあの会社で剣道とかやる時間作れるよな、俺もなんか運動やらなきゃまずいよなぁ〜…って!2人ともあれ見てみろよ!』


そう言って田島が指差す先には、まるでジブリの世界に入り込んだかのような光景が広がっていた。


川は、時の流れのように止まることを知らず、滝は優しさの中に強さを秘めるが如く水面を叩き続ける。


神川『思ってたよりよっぽど綺麗だな…』


あまりの綺麗な光景に神川達は黙り込んだまま、ただただ水の流れる音と鳥の囀り、滝が水面を叩く音に耳を傾けるだけだった。


多月『なんか、このままここにいたいね。』


神川『あぁ、そうだな。』


田島『本当だね。』


3人が滝を眺めながら日常を忘れ、20分ほどボーッとしていると、向こうから観光客が歩いてきた。


観光客『こんにちはー滝綺麗ですよね。』


多月『はい、とっても綺麗で見惚れてしまいました。』


観光客『向こうにもとっても気持ちの良いところがあるので是非見に行ってみて下さいね。』


田島『ご親切にありがとうございます。そうさせてもらいます!』


そう言って観光客の人と話し終えるとまたすぐに神川達は滝を眺め、ボーッとする。


すると…


バサッ!…


3人の後ろで何か音がした。

神川と田島はそんなことお構いなしにボーッとすることに専念していると、多月だけは音のする方が無性に気になり振り返った。


多月『え?…き、キャーーー!!!』


多月の悲鳴が森中に響き渡る。

何事かと思い僕らも多月同様後ろを振り返ると…そこには…


田島『え?…おいおいこれどうなってんだよ…』


神川『嘘だろ…なんで真っ二つに斬られてんだよ…』


そこにあったのは、先程神川達に話しかけてくれた観光客の上半身と下半身が真っ二つに斬られた姿だった。


突然起こる目の前の状況に誰も理解が追いつかず、神川と田島はただ棒立ちするしかなかった。


多月に関してはあまりのショックに膝から崩れ落ち、放心状態で溢れる涙を止められずにいた。


3人が目の前の光景に呆然としていると、無惨な死体の上にある太い木の枝に誰かが立っているのに気がついた。


『やっぱり人間を殺すのは最高だ…俺の力を証明できている気がする!でも死体の処理はしっかりしておかないと明日のニュースになっちまう。大ごとになる前に今日この山にいる奴ら全員片付けねーと…』


そこにいたのは、おそらく観光客を殺したであろう30代中盤ぐらいの男だった。


3人は恐怖のあまり身体を動かすことが出来なかった。


しかしここで逃げないと絶対に全員殺されると直感的に感じた神川は、力の限りを振り絞り、田島、多月の手を引いて走り出した。


神川『2人とも!とにかく足を動かすんだ!』


神川の大声と手を引く力に2人は反射的に出せるだけの力で走ることが出来た。


田島『か、神川ありがとう!お前の声で正気に戻ったよ!それでこれからどおする!?どこに逃げる!?』


神川『わからない!とにかく奴からちょっとでも遠くに逃げた方がいい!』


田島と神川は正気を取り戻しつつあったのだが、多月はまだ現実を受け止められずに涙を流しながら走っていた。


田島『多月ちゃん大丈夫!?』


多月『わ、わからないよ…これ一体どういうことなの…』


神川『多月!今は何も考えるな!とにかく走れ!』


そうして3人は走り続けて、奴と出会った場所からなんとか距離を取ることが出来た。


神川『こ、ここまで来れば大丈夫じゃないか!?』


田島『ハーハー、そうだな…多月ちゃん!大丈夫!?』


多月『ごめん田島君、さっきは取り乱しちゃって…今は少しだけ落ち着いてる…でもなんでこんなことになったの…』


そう言って3人が息を整えていると…


ボトっ!…ボトボトボトッ!バタッ!!!


田島『なんで…夢なのかこれは…』


神川『早すぎる…ちくしょう…』


多月『もうやだよ…』


目の前に6〜7人分の生首が落ちてきた。


『逃げ足が早いなぁ、お前ら追いながらこいつらを殺すのは流石に疲れるぜ…さぁ次はお前らの番だ。』


体力の限界まで全力で逃げてきたのに、こいつは僕らを追いながら人を何人も殺してきていた。


田島『てめぇ…こんだけの人を殺しやがって…何がしてーんだよ!?』


『あ?何がしたいだ?…殺しに特に意味はねーよ。ただの偵察みたいなもんだな。この世界の人間はどの程度の力があるのか、あとは仕掛ける前に数を減らしておこうかって話。』


神川『殺しに意味がないだと…ふざけやがって…お前こんなことして警察が黙ってねーぞ!』


『警察?あーあの拳銃使う弱い奴ね!警察も何人も殺ったけど、対して強くもねーなあんな奴ら。』


多月『警察を殺した…なんでニュースになってないの…』


神川『きっと何か事情があるんだろう…とりあえず警察に電話だ多月!』


そう言って多月は急いでスマホを取り出し電話をかけようとするが…ここは電波の届かない場所だった…


『圏外って奴だろ?お前達を助けにくる奴は誰もいねー。まぁ来たところで相手にならないけどなぁ…お前らはただ俺に殺されるだけなんだよ…』


そう言って男の殺気が強くなってきたその時、


田島『お前ら逃げろ!!』


田島は落ちてる石を拾い、それを男の方へ投げながら奴に向かって走って行く。


学生時代野球をやっていた田島は、石を投げるスピードは速く、かつコントロール良く奴を捉える。

しかし、男目がけて投げられた石は、どう言うことなのか一つも当たっていなかった…


それでも田島は奴めがて力の限り石を投げ続け、目の前まで来たところで拳を振り上げた。


神川『田島やめろ!石が一つも当たってねーのはおかしい!とにかくそいつから離れろ!!』


田島『お前がやってることは道徳に反してんだよー!!!』


田島の拳が奴の顔面に当たる、まさにその瞬間だった。


『なんだそのスピードは?あくびが出るぞこんな遅いの。』


男は田島の拳をスローモーションで見てるかのようにヒラリと交わし、どういう仕掛けなのか、急に手の爪が50〜60㎝ほど伸びて、その爪を…


ザクッ!


田島『カッ!?』


田島の胸に突き刺した。


神川『田島ー!!!』


多月『田島くん!!』


胸を貫通して奴の爪は、田島の背中から飛び出していた。


そしてなんといっても男の腕力は異常で、爪が刺さっている田島を刺したまま片腕で持ち上げているのだ。


『弱い人間ほど正義感ぶる…この世界のそういうところが似てんだよ…あのくそカシュパラゴに…力を持った奴が評価されるのが普通だろ!?なぁ!?そうは思わねーか!?』


奴に人としてのありかた、道徳なんてものはなかった。


虫唾が走るようなその言葉を聞いていると、田島は血を吐きながら奴に向かって話し出した。


田島『カッ…お前は本当の強さを知らないんだな…』


『あ?なんだと?』


グゥーグサッ!


田島『アーーーー!!』


男は田島に刺さっている爪を回転させながらさらに奥深くへと差し込んでいく。


あまりの激痛に田島は声をあげる。


その声を聞いた神川は、頭の中で何かがキレる音がした。


神川『おい…クソ野郎…』


『クソ野郎?てめぇ俺に言ってんのか?』


神川『お前以外誰がいんだよ…』


先程までは奴に恐怖しかなかった神川だったが、今は恐怖よりも田島を痛ぶっている男に対しての怒りが遥かに優っていた。


『俺のこの姿を見ても怯まねんだな…おもしれぇ…おもしれぇ!!』


ブンッ!…ドサー!!


男は立てていた爪を振り払い田島をこちらに投げつけた。


飛んでくる田島を神川は身体全部で受け止める。


とてつもない勢いで飛んでくる田島を受け取るのは、神川自身もどうにかなりそうだったが、なんとか田島をキャッチし、地面へ寝かせた。


田島は胸に穴が開き、口からも血を流していた。


神川『田島!しっかりしろ!!』


田島『神川…多月ちゃん…俺を置いて逃げろ…まだ俺は動ける…カッ!…俺が最後奴に向かって行くその隙に…』


多月『田島君!嫌だよ!死なないで!!…みんなでまた仕事しようよ…』


多月は涙を流しながら田島に語りかける。


田島『多月ちゃん泣かないで…俺は君を最後まで守りたいんだ…ついでに神川もな…』


神川『ついでにするなよ!ってかお前もう喋るな!本当に死んじまう!』


田島『お前のその必死な顔…また見れて良かっ…カッ!…』


田島はかなり瀕死な状態である。


この戦い自体が不利…いや、不利どころか勝ち目はまずないと言っていいだろう。


男は相当なスピードがあり、戦闘にも慣れている。


そしてなによりあの爪。


あの鋭く長い爪でここにある人々の首を刈ってきたに違いない。


どう行動したとしても、3人が殺される運命にあることは変えられないのかもしれない。


どの道を選んでも、この状況を打破するのは困難…


しかし神川は、微かな希望に賭け、その中でも最も辛く険しい選択肢を突き進むことを決める…


ガサッ!


神川はそこに転がっていた頑丈そうな木の棒を手に取り、奴に向けてそれを構えた。


『は?…そんな棒きれで俺とやり合うのか?何か面白いことをしてくるかと思って待っていれば、そんなふざけた物でやり合おうって?…舐めんなよ?』


田島『神川…やめろ…そんな木の棒で敵うような相手じゃねぇ…俺の言う通り逃げ…』


田島が2人を思い言ってる言葉に、神川は我慢できずに口走る。


神川『うるさい!お前を置いて逃げれるわけねーだろ!負傷してる奴は黙って見てろ!3人で…3人で帰るんだ!!』


この男とやり合っても勝てないことは神川も十二分に理解していた。


しかし、どのような結果になったとしても2人を守り抜きたいという固い覚悟をはっきりと見せたのだ。


『なんて美しいこと、こんな立派な姿見たら親が泣くなぁ…まぁとりあえずもう友情ごっこは終わりにしようや…なぁ!?』


そう言って奴は神川目がけて飛び出してきた。


男のスピードはやはり異常に早く、一瞬で神川の目の前へと到達していた。


『挑戦した勇気は認めてやる!だがな…ただの人間に俺は殺せねーよ!!!』


そして爪を立て、神川に向け突き刺してくる。


神川は剣道をやっていることもあり、瞬時に奴の爪が狙う部位へ正確に木の棒を構え防ごうとする。


しかし持っているのは所詮木の棒…


奴の爪で破壊されそのまま身体に爪が突き刺さるのは明白だった…


多月『神川くん!!』


田島『神川…生きてくれ…』


『あばよー!!!』


神川『命に変えても…守りたいんだ!!!』


男の爪が木の棒に触れる瞬間…不思議な現象が起こる。


『な、なんだ!?』


神川が持っていた木の棒が急に光を放ち始め…そして…


キーッン!


『!?』


男の爪は何かに弾かれた。


神川『…え?』


『て、テメェ…カシュパラゴの騎士だったのか…』


神川の手に握られているのは、ただの木の棒では無く…どこまでも透き通った光を放つつるぎだった。

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