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「そろそろあの季節がやってくるのね…今まではあまり気にしていなかったけれど今年は違うわ。わたくし本気を出す時が来たようね」



不敵な笑みを浮かべ、サラサラと流れる銀髪にシルクの生地の三角巾を被せ、フリルの付いたエプロンドレスを身に付けたシュナイアは仁王立ちでキッチンに姿を現した。

お供には専属メイドのリーナ。本日クレイグはシュナイアによってお使いを命じられ不在である。



「お嬢様、本当にやるんですかい?」

「ええ、マルクス!わたくしやるわ!」

「頑張って下さい!お嬢様!!」



心配そうな声を出す料理長のマルクス、そしてシュナイアを応援するリーナ。

これからシュナイアは生まれて初めて料理をするのだ。



(普通の令嬢はキッチンになんて立たないものね。でもわたくしは生前一人暮らしをしていたのよ!お菓子作りなんて余裕過ぎて欠伸が出てしまうわ!)



フフン、と自信有り気に材料をマルクスに準備してもらい調理に取り掛かった。


何故公爵令嬢でもあるシュナイアがお菓子作りをしようと考えたのか…それは公爵領に存在する記念日みたいな物の影響である。

この日はいつもお世話になっている人達へ感謝の気持ちを込め、お菓子を送ったり料理を振舞ったりするのだとか。今まではそこまで気にしていなかったシュナイアだが、今年はクレイグがいる。

なんだかんだお世話になっているのだからこの日ぐらいは何かお返しをしてもいいのかもしれない、そう思い立って今に至るのだ。



「ふふふ、クレイグ…覚悟なさい!わたくしの手作りお菓子に腰を抜かすがいいわ!」

「お嬢様、初めてにしては手際がいいな」

「本当に!流石ですわお嬢様!!!」



料理長とメイドは颯爽と手を進めていくシュナイアに驚き、拍手を送る。

今回作るのはクッキーだ。これならば生前たまーに作っていたシュナイアには何も問題は無いとご機嫌に生地を練り上げ、マルクスの用意した型にはめ込む。

型は星、ハート、丸など一般的な物だったがシュナイアはそのシンプルさが好ましかった。

生前ではクマやウサギなど可愛い系がよく見られたが自分のキャラじゃないなと避けていたのだ。



(でもハート…ハートもちょっとねぇ…意識し過ぎるかしら?でもまぁこのままでも普通に受け取ってはくれそうよね)



そう思いながらも抜き取った生地をオーブンに入れる鉄板の上に並べていく。

そして卵黄を溶いた物をハケを使ってクッキー生地の表面に手際良く塗っていく。



「お嬢様、お嬢様は今日初めてクッキーを作るんですよね?何故こんなに手際よく出来るんですか?まるで手馴れてる感じですよ?」

「う…そう、本で学んだのよ。すごく詳しく書いてあったのよ」



本当は生前作ってたので慣れてます!なんて言えるはずもなくシュナイアは慌てて作り話で誤魔化した。

そうして全ての生地に卵黄を塗り終わったシュナイアはマルクスに頼んでオーブンへと入れてもらう。



「それではマルクス、160度で20分焼いてちょうだい」

「かしこまりましたお嬢様」

「それではお嬢様、今の内にラッピングをお選びになりませんか?」

「そうね、ではわたくしとリーナはラッピングを選んでくるからあとはマルクスに頼んでもいいかしら?」

「はい!任せて下さい!」



シュナイアは料理長のマルクスに後を任せて、リーナと共に自室へと向かった。

クレイグが帰ってくるのは夕方頃、今はまだ14時だ。これならば問題ないだろうとシュナイアは安心し、リーナの持って来た種類豊富な包みやリボンの中から厳選し始めた。



「成功したらフィアやグレンにも贈らなければね!」

「きっとお喜びになられますよ!」



キャッキャウフフと女子二人は楽しそうに喜ぶ人達の顔を思い浮かべるのであった。




一方、キッチンではオーブンを見守るマルクスの元にお腹を空かせたマティルドがやって来ていた。



「すみません料理長。仕事をしていて昼食を食べ逃したのですが何か残ってはいませんか?」

「おう、先生じゃねーか!お疲れさん、今何か用意してやるよ!…だがその間俺の代わりにオーブンを見ててくれないか?お嬢様のクッキーを焼いているんだ」

「それぐらいならば私にも可能ですね、いい感じに焼き上がりましたらオーブンから出しておきましょう」

「よろしく頼むよ!すぐ何か用意するから!」



そう言ってマルクスは奥の方へと行ってしまった。

残されたマティルドは



「お嬢様がクッキーね…珍しい事してんじゃねーか」



ふーんと興味深々にオーブンに近寄る。そして窓から中のクッキーを覗くと既にいい感じに焼きあがってきていた。

マティルドはオーブンを開け、取っ手を使い中の鉄板を取り出す。

部屋の中にはクッキーの美味しそうな香りが広まり、マティルドの空っぽなお腹を刺激する。



「…一枚くらい貰ってもいいよな?」



そうして鉄板の上にあるクッキーに手を伸ばした時、あまりの熱さにマティルドは小さく悲鳴を上げ手に持っていたクッキーを放してしまった。



「あっ!やべぇ!」



慌ててクッキーに手を伸ばしたが1枚のクッキーは無情にも床へ…床へ…




グサッ!!!




そう、石で出来た床へ刺さったのだ。

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