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クレイグがシュナイアの従者になって数日、あっという間に馴染んでしまった彼にシュナイアも何年も一緒に過ごしているかの様に錯覚するほど気を許している。

マティルドとも気が合うらしく、お互い敬語も無しに話しているのを見かけた時は自分とももっと砕けた感じに話してくれればいいのに!とクレイグに詰め寄って彼を困らせていた。


アレステル公爵夫妻もクレイグの事を実の息子の様に可愛がり、他の貴族では中々見られない光景だろうなとシュナイアは呆れながらも、弟が出来た様だと喜んでいる。



「いっそこのまま我が家に養子入りして公爵家を継いでくれたらいいのに…」



両親との3人での食事中にボソッと出てしまった本音…その本音にアレステル公爵は持っていたワイングラスを置き



「それはシュナが彼を婿に取りたい…そういう事かな?」



少し険しい顔をしてそういう父親にシュナイアはハッとする。

そういう意味で言った訳ではなかったのだ。



「それとも自分は公爵家を継ぐ、婿を取る資格がないとか思ってないよね?」

「……お父様」



思っていた事を当てられシュナイアは俯く。

ハーマン・アレステル公爵は普段娘の前ではふわふわポワポワな馬鹿親ではいるが、それは娘に関係する事だけでの顔だ。普段は厳格な宰相…そう周りからは評価されている。

シュナイアは初めて目にした厳しい顔の父親に言葉を無くす。



(だって魔石なんていつ取れるかわからないし今の所なんの影響もないけれどいつ嫉妬や恨みが溜まり魔族化するかもわからない…そんなわたくしを好んで婿に来てくれる物好きなんて居るのかしら?それにゲームの悪役令嬢のシュナイアは王子と婚約するから将来はお嫁に行く予定で、公爵家の跡取りとして親戚から男の子を養子に取っていた…まぁその養子がお約束的に攻略者の一人なのだけれど…)



シュナイアの俯いた姿を見て、アレステル公爵はコホン、と咳払いをし



「まぁ、そこまで深く考えなくてもいいんだ。もし本当に将来結婚出来なくとも私達がずっとシュナを独占出来るのだから」

「そうよね〜わたくしはシュナに結婚なんて求めてないわ!いつまでもわたくし達の側で笑顔を見せていて欲しいわ……そうね、公爵家の事が心配なら家を継いでくれる男の子を養子に取ればいいのだし」

「とてもいい案だ!前向きに考えておこう!」



さすが親馬鹿夫婦、公爵家よりも娘を優先させるのだ。

シュナイアは苦笑しながらも二人の愛に心が暖まるのを感じた。



「ありがとうお父様、お母様。二人とも大好き!」



シュナイアの笑顔に夫妻も自然と笑顔が溢れた。






それから数日後、シュナイアはクレイグを連れ屋敷の周辺を散歩していた。

公爵領は王都から近い割りに自然に恵まれ、森や湖など美しい場所が多くシュナイアの散歩好きのきっかけとなった。

観光地として解放している場所も多く、オフシーズンの時などは他の領地からのお客が絶えない場所などもあって賑わう時期もあるのだ。

近くの町も観光地にあやかって伝統芸のお土産や宿屋などが盛んである。

空気がいい事や水も綺麗な為野菜の育ちも良く料理も美味しいと評判なのだ。



「さて、今日は湖の方まで行きましょう」

「はいお嬢様、ですが最近魔物の出現報告が増えています。あまり遠くには行かないようにしましょう」

「そうね、気をつけるわ」



普通の令嬢なら、魔物が出るかもしれない場所になんて散歩などしない。

だがシュナイアは魔法が使え、実力も大人顔向けというほどまで成長していた。魔物の討伐もマティルドと共に何度も行なっているので今更臆する事もないのだ。

だからと言って己の力を過信している訳でもなく無理な相手がいれば大人しく身を引く冷静さも持っていた。

そしてクレイグだが、彼はアレステル公爵家に来る前から戦闘経験があるらしくそれなりの腕前だ。以前は何処でどんな事をしていたのかシュナイアが問い詰めてもいつも笑顔ではぐらかされてしまって実態は謎の少年。


近いうちに自分の秘密を彼に打ち明かそうかとシュナイアは考える。

クレイグならばシュナイアが魔王の花嫁として選ばれ、魔族化するかもしれない魔石を埋め込まれていると知っても気味悪がらずに、そして今と変わらない態度で接してくれるかもしれない…そんな風にクレイグを信用していた。



(まだ出会ってそんなに経たないというのに…何故わたくしはこれほどまでに彼を信用出来るのかしらね…)



シュナイアは穏やかな風を受けながらゆっくりを足を進め静かに考える。

数歩後ろからはクレイグが着いて歩き周りを警戒している。



(まぁ…あの、人を見る目のあるお父様が連れて来た人物っていうのも大きいかもしれないわね)


クスリ、と笑い何かあった時はその時だ!と自身の中で雑に片付ける。

すると視線の先に湖が見えて来た。

本日も陽の光を反射させ、水面がキラキラと眩い光を放っている。風のない日は鏡の様に空を描くその美しさにずっと見ていても飽きないとシュナイアは来る度に思うのだ。



静かな湖でその光景を眺めるのがお気に入りなのだが、今日は異様な空気を感じ



「クレイグ、何か居るわね」

「はい、お嬢様。戻られますか?」

「いいえ。何か居た場合領民に被害が出るかもしれないわ。とにかく状況を確認しましょう。わたくし達だけでは危険という状況ならばお父様に報告して兵を出してもらうわ」



そうして周囲を警戒しつつ、湖へと向かう。

すると湖にある桟橋の所で誰かが狼の様な魔物に追い詰められているのが目視できた。

魔物の数は三体。他に身を潜めているものはいないと判断したシュナイアは



「クレイグ、行くわよ!」

「はっ!」


そうして合図したシュナイアはそのまま呪文の詠唱に入り、クレイグは腰にしていた剣を鞘から抜きながら地面を蹴る。



(あそこに人が居なければ魔法で一気に消しとばすけれど今回はそうもいかなそうね…)



そう考えながら、クレイグに攻撃力強化、防御力強化の呪文をかけていく。

魔法は何も攻撃のものだけではない、シュナイアは補助系統もお手の物なのだ。


クレイグは剣で一気に狼の様な魔物を斬り捨てる。

時には魔物の攻撃を剣で受け、出来た隙はシュナイアが援護する。二人の息はぴったりだった。



(こういう所が長年一緒にいるって錯覚させるのよね)


本当に不思議な少年だわ、と呆れながらも戦っていると、その戦闘の騒ぎに引き寄せられたのか、今度は鳥の様な魔物がシュナイア達に攻撃を仕掛けてきた。



「空中ならば巻き込む問題はないわね!」



ニヤリと不敵に笑ったシュナイアは片手を空にかざし、雷の魔法を使い空を飛ぶ魔物を攻撃する。

バチバチという音を立て、魔物達は電撃に包まれ地面に落下していく。

クレイグの方も狼の様な魔物達を倒し終えたらしく、剣についた血を払いながら



「さすがお嬢様、お強い!」

「あなたにそう言われてもねぇ」



お互い10歳という若さでこれはないだろうとシュナイアは思う。


(きっと天才か化け物、どちらかの評価を受けるだろうな…どっちにしたって面倒なのは変わりないけれど)



ため息をつきつつシュナイアは襲われていた人物の元へと向かった。



「所で何故お嬢様は魔法を使う時術名を叫ばないのですか?」

「なんだか恥ずかしくて抵抗があるのよね」

(生前では間違いなく中二病と思われる行動なんだもの!!)




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