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マティルドから丸投げされた冒険者ギルドからの魔物討伐依頼についてギルドへ説明を受けに行こうとアレステル公爵家の屋敷を出ようとしていたシュナイアとクレイグの前に停まった一台の馬車から現れた侯爵家の令息であるグレン、そして続いて馬車から降りてきた王子であり勇者として覚醒したクリスティアンの姿にシュナイアは驚きのあまり言葉を無くす中、グレンは立ち尽くすシュナイアとクレイグの側へ歩み寄って来た。
「よぉ、久しぶり!この前はクッキーありがとな!アレステル公爵家料理長お手製のクッキーは美味かったぜ!」
手を振り、気さくに話しかけてくるグレンにシュナイアは苦笑を浮かべつつ
「今日は一体どうなさったの?急だから驚いてしまったわ…それに」
「あー、そう言えば連絡入れるの忘れてたな!おい、クリスも早くこっちへ来いよ」
グレンが未だ馬車の元にいるクリスティアンへこちらへ来るように促す。
そして気まずそうに歩いて来るクリスティアンにシュナイアとクレイグは深く頭を下げるのであった。
「あぁ、今回は立場は気にしなくていい。王子ではなくただのクリスティアンとして接して欲しいのだが」
「そんな…殿下相手にその様な…」
「気にしなくて大丈夫だぜシュナ。クリスも方苦しいのが嫌いなんだ」
な?と気軽にクリスティアンへ笑みを向けるグレンを見てシュナイアは頭が痛くなって来ていた。
(だからと言ってこの国の王子相手にいきなりそんな態度取れるわけないでしょうが!!!)
叫びたい気持ちをなんとか抑えながら、シュナイアはクリスティアンに向き直り
「ではお言葉に甘えて多少は礼儀を省かせて頂きます」
「あぁ、そちらの従者も普通に接してくれて構わない」
「そんな恐れ多い…」
「いや本当に構わないんだ今は王子のクリスティアンではなくただの子供のクリスティアンなのだから」
(ただの子供がそんな高貴なオーラ出すわけないでしょうに!!)
口に出さないように細心の注意を払いながらシュナイアは心の中で突っ込んだ。
しかしよく見ると本日のクリスティアンの服装は王子が着る様な豪華な服ではなく、貴族の中でもラフな格好といったもので普段の姿とのギャップにシュナイアは落ち着かないとこっそり溜め息をつくのであった。
「それでお二人は急にどうなさったのです?」
「遊びに来た!」
「しかしシュナイア嬢と従者殿はこれから何処かへ出かける途中だったのだろうか?」
クリスティアンはシュナイアとクレイグの服装を見てそう思ったのだろう。
シュナイアは頷き、家庭教師の授業の一環としてこれから冒険者ギルドへ行き、魔物討伐の依頼を受けるのだとグレンとクリスティアンに説明した。
「へー、面白そうな事してるんだな」
「家庭教師は確かマティルド氏であったな。優秀な家庭教師と名高いだけあって高度な教育を受けているのだな」
グレンとクリスティアンはマティルドの提案した授業に興味津々の様だ。
それにクリスティアンの言うマティルドの噂にシュナイアは、猫被り腹黒ハイスペック狂科学者と付け加えたかったが彼の素を知らない2人に言っても通じないだろうと断念した。
「なぁクリス、面白そうだから俺達もついて行こうぜ!」
「なっ!?泊まりになるのですよ?殿下がそんな事出来る訳ないでしょうに!」
何も考えず思った事を述べるグレンにシュナイアは慌てて止めに入った。
しかしクリスティアンは爽やかな笑顔を浮かべ
「いや大丈夫だ。数日はグレンの家の泊まる予定だったのだ。彼の家に適当な理由で外泊する事を告げれば問題ないだろう」
「そう言う事!よっしゃ、行こうぜ!俺達ならいつでも戦える格好だし気にすることないさ!」
「でも冒険者ギルドの依頼なのよ?2人は…」
シュナイアがそう言いかけるとグレンとクリスティアンはそれぞれごそごそと服の中に隠れていたペンダントを取り出し、シュナイアに見せる。
青い雫型の石のペンダントだ。
「…そうですか……もう勝手にしてくださいませ」
「お嬢様、元気出してください」
疲れ切って突っ込む気力のないシュナイアに、今まで黙って行く末を眺めていたクレイグが苦笑しながら言葉をかける。
シュナイアはもうなる様になれ!といった感じに2人の同行を許したのであった。
(そもそもわたくしに同行を拒否する選択肢なんてなかったのよ!!)
いつかやって来るバッドエンドの原因であるヒロインの攻略者である2人と過ごすなんて胃が痛くなりそうだとシュナイアはどこか街に寄った時胃薬を購入しようと心に決めたのであった。