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それはある日突然家庭教師であるマティルドが思い付いた様にシュナイアに告げたものだった。

マティルドは優秀ではあるが何処か適当な所もあってそれは本性を知るシュナイアやクレイグには日常茶飯事ではあったが今回ばかりはシュナイアは頭痛がして頭を抱える内容だった。



「嬢ちゃんとクレイグで魔物討伐に行ってこい」



魔法の授業が終わり、教室として使っている部屋にシュナイアを迎えにやって来たクレイグの存在を確認したマティルドがそう告げたのだ。



「えっと…わたくしとクレイグの2人でですか?先生は?」

「本来なら俺に寄こされたギルドの依頼なんだがどうしても外せない用事が他にあってだな」

「それでわたくし達に押し付けると?」

「押し付けとは言うがこれは実戦授業とも言うぞ」

「指導者が居ないのにですか?それにわたくし達は冒険者ではありませんよ?」



マティルドが言っていたギルドとは冒険者ギルドといって、ギルドを通して依頼を頼んだり受けたりする機関だ。依頼する側は平民でも貴族でも利用出来るものだが、受ける側は冒険者ギルドに登録されている冒険者でなくてはならないのが決まりである。

何度かギルドの依頼で魔物討伐に出かけるマティルドにシュナイアは同行した事はあったがそれは見学だけの同行のため、冒険者でなくても問題はなかった。

だが今回は違う。マティルドの代わりに魔物討伐に赴かなければならないと言う事は冒険者でなければならないのだ。



「たしか冒険者になるにはいくつかの試験が必要だったはずでは?」

「ああ、うん。お前ら2人はもう試験をクリアしてるから大丈夫だ」



分厚い本のページをパラパラとめくりながらそう言うマティルドにシュナイアは首を傾げる。

それもそうだ、彼女には試験を受けた記憶が無いのだから。

そう思いシュナイアはクレイグに視線を移すとクレイグも同じ様に首を傾げている。どうやら彼にも試験を受けた記憶は無いようだ。



「先生、その試験はいつ行ったのですか?」

「え?嬢ちゃんの授業自体が試験というか…あれ?説明してなかったか?」

「されてませんわ!初耳です!…では授業を受けていないクレイグは?」

「あー、クレイグはほら、嬢ちゃんの従者になる時に公爵に色々試されてたろ?」

「ああ…たしかどのぐらい動けるかとか何の武器が得意だとか…あれはお嬢様の護衛としての試験だと思ってたんだが」



(お父様ったら私の知らない所でクレイグにそんな事をしていたのね!?)



シュナイアはこれまた初耳な内容に最早言葉も出なかった。



「まぁ、嬢ちゃんの従者の試験も兼ねていずれ使えると思って冒険者ギルドの試験も同時進行してもらったんだよ」

「では私とお嬢様はすでに冒険者だったと?」

「ああそうだ。冒険者にはランクがあってだな、最初は白、そして次に青、その次は緑、黄、赤、そして1番ランクが高いのが黒だ。そしてお前ら2人は青だ」

「…何故本人の知らぬ間に冒険者になっていたりランクが上がっているのか大変気になりますがそれは置いといて、先生は何色なんですの?」



もう突っ込むのは諦めたシュナイアは1番気になった内容をマティルドに問う。

クレイグも気になるらしく静かにマティルドの答えを待っていた。



「まぁ聞かんでもわかるとは思うんだが、俺は数少ない黒だ」

「…こんなのが1番上のランクだなんて世も末だとは思いますけれど中身はどうあれ先生はお強いですものね」

「なぁ?それ褒めてるのか?」

「お若いのに大変優秀なのですわねー」



シュナイアが棒読みでそう言い、乾いた拍手を送る。

クレイグもそれに習ってやる気のない拍手をマティルドに送った。



「とにかく公爵の許可は貰っているんだ。お前ら2人はこれからギルドへ行って直接依頼の説明を受けて来るように!あとこれが冒険者の証だ」


そういってマティルドがシュナイアとクレイグに手渡したのは青い雫型の石のペンダントだった。

そのペンダントから微かに魔力を感じたシュナイアは受け取りながらまじまじと目を向ける。



「本人認証の魔法がかけられている。これがあればギルドで依頼も受けられるし報酬も貰えるってわけだ。そして今まで受けた依頼の内容も記憶され、昇格試験に挑めるというものだ」

「貰ってもいないのにランクが上がってるわたくし達って一体…」

「お嬢様、突っ込んでも無駄です。相手はマティルドなのですから」

「なぁ?お前ら俺の扱い酷くないか?これでも巷ではクールで才色兼備、結婚したい男性ナンバーワンとか噂されてる将来有望な男なんだけど?」

「ただの猫被り腹黒ハイスペック男でしょう?」



自信有り気に自分の噂をアピールしたマティルドだがシュナイアに一蹴され、ショボンと肩を落としてしまった。



「お嬢様、私は街でマティルドの事をクールで才色兼備とか言われていても彼女の1人もいない狂科学者(マッドサイエンティスト)という噂を聞いた事がありますよ」

「余計な情報を持ち出すな!!」



隠しておきたかった情報をクレイグに出されてしまったマティルドは、もういいからお前らさっさと行ってこいよ!と2人を教室から追い出したのであった。



「ではお嬢様、お着替えの方をご用意いたしますのでお部屋でお待ち下さい」

「ええわかったわ。私も自分で用意出来る物は用意しておくわね」



そういってお互いギルドへ向かう用意を始めたのであった。

マティルドから追い出される直前に聞いたのは泊まりになるという内容だったのでよく公爵である父親が許したなと驚くシュナイアは簡単なお泊まりセットをメイドに言って用意してもらう事にした。



そうして出かける準備の出来た2人はお互いの格好を見て



「なんだか本当に冒険者って感じね」

「そうですね、でもお嬢様からは淑女のオーラが漏れ出ていますので冒険者ギルドでは少し浮いてしまわれそうですね」

「そうかしら?」



そこまで目立つのだろうか?とシュナイアは先ほど姿見で見た自分の格好を思い出す。

そして、自分の悪役令嬢顔の事だろうと勝手に納得するのであった。

シュナイアは汚れの目立たないようにとオリーブグリーンのワンピースコート、そして中には白のタートルネックの服と黒のバミューダパンツ、ブーツは膝下まである黒の物。

クレイグもほぼシュナイアと同じような服装であった。これはお互いを識別しやすく、そしてコンビと認識されやすくする為らしい。


従者が使える主人とお揃いの服など常識ではありえないが、これから2人は冒険者として出かけるのだ。

何も問題ないと公爵からの許しも出ていて、クレイグは少し落ち着かない様子だ。



そして2人は荷物をシュナイアの空間魔法でしまい、武器を腰に下げ小さな鞄を肩から掛け、屋敷の外へ向かう。

メイドや執事が心配そうに見送るが、シュナイアの母であるレイチェルは落ち着いた様子で2人を送り出すのであった。



(いつものお母様の様子なら冒険者ギルドに依頼を受け、魔物討伐に行くと知って心配で泣き喚くと思っていたのに…なんであんなに平然としているのかしら?変ね…)



何時もの様子と違う母親を不審に思っていると屋敷の門の所に一台の馬車が停まった。

そして中から降りて来る少年の姿が目に入った。



「あら?あれはグレン…遊びに来るなんて連絡来てなかったわよね?」

「はい、何も連絡は無かったはずですが…あ、お嬢様、あの方は…」



クレイグがグレンの後に続いて馬車から降りて来た人物に苦笑を浮かべる。

その様子を見て、クレイグから馬車の方へシュナイアが視線を移すとそこには



「クリスティアン殿下…」



居るはずのない人物の登場にシュナイアはその場で固まるのであった。



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