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石造りの床に刺さった丸型のクッキーを見て固まっていたマティルドは少しして我に返り



「おいおいおい、あのお嬢ちゃんは新しい武器でも開発してるのか?」



恐る恐る床に刺さったクッキーを引き抜きまじまじと見つめる。

するとキッチンの入り口に人の気配を感じ、マティルドはゆっくりと振り返る。



「ああ、なんだクレイグじゃねーか…お使いから戻ったのか?予定より随分と早かったじゃねーか」

「今しがた戻ったところだ。お嬢様のお使いだからな、早急に終わらせた。嫌な噂を耳にしたし…ところでその手にあるのは?」

「あー…お嬢ちゃんの手作りクッキーらしいんだが食わない方がいいぞ」

「お嬢様の?何故?」



マティルドの手にあるクッキーを見つめ、クレイグは首を傾げる。

そう、そのクッキーは見た目は普通に美味しそうな物なのだ。それ故見た目ではわからないだろうとマティルドはそのクッキーを壁めがけて投げる。



「っ!お嬢様のクッキーをそん…な?」



マティルドがシュナイアのクッキーを投げるという行為に一瞬頭にきたクレイグだったが、そのクッキーがストンと見事に壁に刺さったのを見て言葉を失った。



「な?食わない方がいいだろ?」

「武器の開発でもなさっていたのか?」

「だとしてもどうやったらクッキーがこんな殺傷能力高そうな武器になるんだよ?見た目も香りも美味そうなクッキーなのにこの威力…錬金術でも無理だぞ」



顔を青くしたマティルドは壁に刺さったクッキーを回収してクレイグにそっと手渡す。

受け取ったクレイグもマティルド同様まじまじとその物体を観察し



「うちのお嬢様は密偵向きの武器を開発したのだろうか…」



このクッキーを誰が武器だとわかるだろうか。

これならば密偵先で怪しまれ、武器を所持していないか調べられた時もバレにくいのではないだろうか?とクレイグは考え込む。



「とにかくこの凶器を勝手に見た事がバレないうちに元に戻そうぜ!」

「誰の手作りクッキーが凶器ですって?」

「そりゃぁ……お嬢様、ご機嫌麗しゅう」



マティルドは額に冷や汗を浮かべながらささっと笑顔を作り、キッチンの入り口でこちらを睨むシュナイアに礼を取る。

クレイグも慌てて頭を下げた。

シュナイアは元々つり上がっている目を更につり上げ二人の元に歩み寄る。

そして鉄板の上に並べられたクッキーに目を移す



「わたくしのクッキーが凶器だなんて…そんなに美味しくなかったの?」

「いや、食べる以前の問題なんだよ」

「こんなに美味しそうに出来上がったのに?」



ジト目でマティルドを見つめるシュナイアにクレイグが助け船を出そうとした時、シュナイアはパッとクレイグに視線を移し



「クレイグもクレイグよ!なんでこんなに早く帰って来てしまうの?それに先生と一緒になってわたくしのクッキーを凶器だなんて…酷いわ!」

「お嬢様、あ…」



クレイグが声をかける前にシュナイアは透き通るような銀髪を揺らし、キッチンから飛び出して行ってしまった。

そしてクレイグは青ざめる。そんなクレイグの横でマティルドは



「もしかして普通のクッキーを焼いたつもりだったのか?そしてこの出来上がりに気付いてないと?」

「今のお嬢様の反応からして間違いないだろうな…」

「あー…なんか悪かったな」

「そう思うなら一緒にお嬢様に謝れ!」



そうしてクレイグとマティルドは飛び出して行ったシュナイアを探す事にした。





しかし、屋敷のどこを探してもシュナイアの姿は見つからなかった。

屋敷は広いがここまで探しても見つからないのはおかしい、とマティルドは溜め息をつき



「あのお嬢ちゃんはかくれんぼの天才だったのか?」

「まさか屋敷の外に出て行かれたとか?」

「そうだとしたら門番が目撃しているだろう…あー、魔法を使われちゃ話は別だが」

「念のため屋敷の外を見て来る。そっちは中を頼んだ」

「はいよ〜」



クレイグは屋敷の外へ駆け出した。

そして出かけ先で聞いた嫌な噂を思い出す。



(何者かがアレステル公爵令嬢を拐かす計画を立てている…か。理由は身代金目当てだろうが…)



情報屋の噂だ。そこら辺で聞く噂よりも信憑性の高い物だからこそクレイグは注意するはずだったのだが早速予想外の事態に陥り、頭を抱えたくなった。

そしてここ数ヶ月共に過ごしたシュナイアの行きそうな場所を頭の中で複数叩き出す。その中でも一番可能性の高い場所へクレイグは足を早めるのであった。








一方シュナイアはゆっくりと森の中を一人歩いていた。



(初めて手作りしたクッキーをあんな風に言われたのはショックだったけど怒ってはダメ!冷静になるのよわたくし!感情をコントロールしないとあっという間にバッドエンドよ!!そう、これは訓練なの!訓練だから泣いてもダメ!)



ギュッと拳を握り深呼吸を繰り返す。

そうシュナイアの胸にある魔石は黒い感情を吸収してある一定の量を過ぎれば魔族化してしまうのだ。

だからシュナイアは自分の感情をコントロール出来るよう心がけているのだが今は思うようにいかないと焦ってしまう。



(中身もいい大人なのだからこれぐらい受け流せないとか有り得ないわ!…でもクレイグもわたくしのクッキーを凶器と思ったのかしら…)



シュナイアは立ち止まり俯く。

クッキーを作りながら、ラッピングを選びながら思い浮かべたクレイグの驚く顔、喜ぶ顔をシュナイアは見る事が叶わなかった。

別の意味で驚かせてしまったかもしれないと、苦笑いを浮かべる。



(少し散歩でもして頭を冷やしてから屋敷に戻るとしましょう)



再び足を進めると、背後で草の揺れる音がした。

その音は風で揺れたものではないと察したシュナイアは腰にそっと手を伸ばしたが、屋敷を飛び出して来た為武器であるスティックを所持していなかったと気付く。



(まぁ…スティック無しでも魔法は使えるのだけれど…とにかく相手が動くまで気付いてないフリでもしておこうかしらね)



シュナイアは森の中をゆっくりと進み始めた。


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