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初投稿です。
至らない点ばかりですがこれからよろしくお願いします。
10歳の誕生日の夜、レシュガルド王国公爵令嬢であるシュナイア・アレステルはベッドの中で激しく燃えるような痛みにうなされていた。
苦しみながら蘇る記憶は身内と家庭教師だけでの誕生パーティーの席に突如現れた自称魔王の漆黒の短い髪に紅く光る瞳が美しく、そして恐ろしい魔力を漂わせる男。
その男はシュナイアを魔王の花嫁と宣言し、彼女の胸に魔王の花嫁の証となる魔石を埋め込み18歳の誕生日に迎えに来ると言い残し姿を消したのだ。
魔王が去ったパーティー会場ではぐったりと横たわったシュナイアを真っ青な顔で抱きしめる両親、そして彼女の様子を近くで確認するのは魔王ほど深くはない黒髪にダークグレーの瞳をしたシュナイアの魔法学の家庭教師であるマティルド・レイネだ。
「…シュナイアは、娘は何故こんな事に…」
シュナイアの父親は泣きそうな声でマティルドに説明を求める。
「魔王の花嫁に選ばれた理由…おそらくですがシュナイア嬢の潜在魔力の多さが原因でしょうね。彼女はこの国の女性の中で突飛した魔力量をお持ちだ。」
「確かに生まれ持った魔力はかなり多いと聞いたが…そんな理由でこの子が魔王の花嫁だなんて…」
「魔王が先ほどシュナイア嬢に埋め込んでいった魔石ですが…これは無理に外す事も出来ませんし、魔王の花嫁だからといって彼女を亡き者にしても死んだ後彼女は魔王の従順なる魔族として蘇るでしょうね」
「ならば…魔石の事は我々だけの秘密には出来ないだろうか?」
アレステル公爵の提案にマティルドは深く頷く。
そうでもしなければ彼女はこの国にどう扱われるのかわからないからだ。
もしかしたら殺さず結界内に永遠に封印という手だって打たれるかもしれない。何の罪のないシュナイアをそんな目に遭わせるなんて可愛い生徒を持つ教師としては許せなかったのだ。
「国王には魔王が8年後にこの国に現れるという情報だけお伝えしようと思います」
マティルドのその言葉を最後にシュナイアは意識を手放したのだと思い出す。
そして胸で熱くなっている魔石を押さえ、彼女はベッドから起き上がり
「漆黒の魔王…マティルド・レイネ……そしてわたくしシュナイア・アレステル……これってもしかしてもしかしなくても乙女ゲーム【異世界でトキメイテ☆】の世界なの?え?異世界転生?っていうか私悪役令嬢のシュナイアじゃない!?なんでヒロインじゃないのよ…」
ブツブツと呟きながら混乱している頭の中を整理する。
(たしか【私】は事故に遭って命を落としたはず…そして今さっきその記憶を取り戻した?)
いきなりシュナイアになったのではない。
たしかにシュナイアとしてこれまで生きてきた記憶も残っているのだ。
ならば前世の記憶を思い出した、で正しいのだろうとシュナイアは次第に落ち着いてきた頭で理解した。
しかし悪役令嬢のシュナイア・アレステルに転生である。
生前ハマっていた乙女ゲーム【異世界でトキメイテ☆】…クサいタイトルだが恋愛物とRPGが混ざったやり込み甲斐のあるゲームで二十代半ばの【私】も大人気なくやり込んでいた記憶がある。
ゲームの内容は普通の女子高生がタイトル通り異世界へ転移し、そこで聖女として魅力的な男子達と仲を深めながらレベルを上げ強くなり、魔王討伐へと向かうのだ。
(たしか攻略メンバーは俺様系とクール系とワンコ系とツンデレ系と紳士系…あと隠しキャラもいたっけ)
その魔王討伐メンバーの中に魔法使いとしてウェーブのかかった銀髪をハーフアップにした少しつり目のラベンダーの様な色の瞳の悪役令嬢シュナイア・アレステルが参加するのだが、彼女は勇者の婚約者でありポッと出のみんなからチヤホヤされる聖女、ヒロインを目の敵にしており陰で嫌がらせなどをして主人公の邪魔をするのであった。嫌がらせと言っても結構過激で下手をしたら命の危険もあるという内容だ。
そんな悪役令嬢にも秘密があり、彼女は幼い頃魔王の花嫁として選ばれておりその身に魔石を埋め込まれ、嫉妬や恨みなどの黒い感情を貯め込み、ある一定の量を過ぎれば魔族化してしまうのだ。
魔族化した悪役令嬢は魔王サイドへ行ってしまい、ヒロイン達の敵となってしまう。
悪役令嬢が魔王の花嫁という斬新な設定に【私】は驚きながらもプレイヤー、もとい聖女として魔族化してしまった悪役令嬢を勇者やその仲間と退治していたのだ。
そう退治して……
「わたくしこのままではヒロインに退治されてしまいますの!?」
真夜中に意味のわからない内容を叫んだシュナイアは慌てて部屋へ入ってきたメイド立ちに心配され、夢でうなされて寝ぼけてしまっただけだと必死に説明したのであった。