8 13年経ち・・・
また時間が経ちます。今度は13年。
「よっ、ラインセル兄妹。今日も絶好調みたいだな」
ギルドを出たところで声をかけられた二人、リヒトとレミアは振り返ると、そこにはガタイのいい男が立っていた。
「やぁ、ゴンダス。そっちも調子いいみたいだね」
リヒトはいつものことなので軽く返し、レミアは小さくお辞儀する。
ゴルダスは二人が冒険者になった当初からの知り合いで、昔は二人の両親、ガルドとミリアと一緒に冒険者として活動していたという話を聞いていた。
そのため、ゴルダスはよく二人の声をかけるのだ。はた目からは他の冒険者に絡む中年冒険者だが、実際はギルドからの評判が高い最高のSランク冒険者だ。
二人は今、十五歳。冒険者登録したのは五年前の十歳の頃だ。そのときから二人は家を出て宿で暮らしている。家の周りの森の中には魔物がたくさんいるのだが、それらだけでは強く慣れないと両親に言われたためだ。
初めの頃は勝手がわからなかったものの、がる出すには時々アドバイスをもらってなんとかなっていた。
最近まで、二人はゴルダスのことをお節介なおじさん程度にしか認識しておらず、Sランクだと知った時には、心底驚いたものだ。
「お前らに言われると自信を無くすぜ」
「それはこっちのセリフだと思うんだけど……まぁ、いいや。それに、調子が良いというか、調子を良くしていかないといけないでしょ」
「それもそうだな。噂によると、水面下ではいろいろと始まっているみたいだぞ」
「知っているよ。昨日父さんから手紙が来てね、一度帰ってくるように言われてるんだ。家族で話し合おうだってさ」
「奴も心配性だな。その気持ちもわからなくはないが……」
「ゴンダスも来る?父さんたちとは付き合い長いでしょ?久しぶりに会ったりとか」
リヒトがそう尋ねると、ゴンダスがいかつい顔でニカッと笑った。
「実は俺も来るように手紙が来てたんだよ。お前たちに声をかけたのは、それが理由だ」
「つまり、一緒に行こう、ってこと?」
「そういうことだ。俺やお前たちなら余程のことがない限り大丈夫だが、一緒に行かない手もないだろ?」
「確かに、そうだね」
リヒトはレミアへ顔を向けると、レミアも頷いてリヒトに同意した。
「わかった。僕たちは明日出ようと思っていたんだけど、そっちは大丈夫?」
「おう。問題ないぜ」
そうして、リヒトはゴンダスと明日の早朝に町の北門前で集合することを約束した。馬車の手配はゴンダスの方でやってくれるようで、帰る前にしようと思っていたリヒトは助かった。
宿に着くと、二人ともそれぞれ大浴場に入りに行った。
二人が今止まっている宿は少し宿代が高いが、その代わり大浴場が完備されていて、裕福な家で暮らしていた二人にはありがたい宿だった。
そもそも、二人が冒険者になろうと思ったのには理由があった。
もっとも、レミアは母に憧れ、母のように強い女性になりたいと思い、そして才能があったため冒険者になろうと決めたのだ。
一方、リヒトは違う。父親に憧れがないわけではない。むしろ、尊敬していると言える。しかし、それが冒険者になった理由ではない。ただ単純に、魔物が憎いのだ。リヒトが敬愛し、尊敬し、憧れた姉、アリシアを殺した魔物が憎いのだ。
まだ幼い頃、家の中ではアリシアのことについてはあまり触れられたくない、という空気があったために、リヒトは何も言っていなかった。
確かに、以前に一度アリシアに蹴られ、辛い思いをした記憶はある。しかし、よく考えてみると、リヒトはアリシアがあまり間違っていないのではないか、と思い始めた。
アリシアは行動が過激で過剰だっただけで、要求することは簡単なことだった。
不快にしないこと、ただそれだけだったのだ。不快にさせた時にだけ、暴力を振るっていた。
それはそこら辺の我儘貴族なら、我儘でめちゃくちゃで、勝手がわからないということはよくある。だが、アリシアの場合は私的なことを何も挟まず、業務的に接すれば何も問題はなかったのだ。
メイドや執事に対しては、ただその仕事に忠実に、家族に対しては愛情に蓋をして一人の人として接すれば、アリシアが暴力を振るうことはなかったのだ。
アリシアの暴力を理不尽だと思う人は多くいる。実際、屋敷の人間や両親、リヒトの妹のレミアもそう思っている。
特にレミアは、幼い頃に暴力を振るわれた記憶があるため、余計にそう思ってしまい、アリシアのことを嫌っていた。今でも、リヒトがアリシアのことを口にすると嫌な顔をして、リヒトに文句を言う。
アリシアの存在は、それほどまでに強烈だったのだ。レミアには悪く映り、リヒトには良く映っているだけだ。
リヒトの目には、アリシアが強い人、という風に映っていた。自分の考えを持ち、自分のために行動でき、自分自身で成すことができる。その姿に、リヒトは憧れ、冒険者になろうと思い始めたのだ。
しかし、リヒトがそれに気付いたときには、アリシアが死んでしまっていたのだ。その時に受けたショックと言えば、一カ月はまともに生活ができなかったほど。
そしてそのショックから抜け出した後に、決めたのだ。アリシアを殺した魔物に復讐する。そしてそれらの頂点、魔王を倒し、それをアリシアへの手向けにする、と。
そうして今まで過ごしてきて、今冒険者として活動している。
リヒトもレミアも五年でAランク冒険者にまで上り詰めることができ、異例の早さだった。
そのせいで敵も作りやすかったが、少なからず仲間も作ることができた。ゴンダスもそのうちの一人だ。
家に帰った時には、両親に直接これまでのことを報告しよう、とリヒトは決めていた。
明日になるのが少し、楽しみになっていたリヒトはレミアと眠りについた。明日は早いため、レミアもすぐに眠ってしまい、リヒトも気づくと眠っていた。
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リヒト・ラインセル
年齢:15
種族:人族
性別:男
ジョブ:勇者
属性:風、光、無
レベル:253
体力:11295/11295
魔力:6376/6376
物攻:6984
物防:6980
魔攻:5000
魔防:4972
俊敏:5888
スキル:勇者の剣
勇者の誓い
体力上昇6
魔力上昇4
物攻上昇5
物防上昇4
魔攻上昇4
魔防上昇4
俊敏上昇6
体力自動回復5
魔力自動回復5
魔剣技6
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『勇者の剣』
全てのステータスを上昇させるとともに、装備の性能も上昇させる。魔物、魔族へ与えるダメージ量が増える。
『勇者の誓い』
自身が仲間と認めた相手のステータスを上昇させる。複数相手可。
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ミリア・ラインセル
年齢:15
種族:人族
性別:女
ジョブ:魔導士
属性:火、水、風、地、無
レベル:235
体力:6003/6003
魔力:12344/12344
物攻:765
物防:1927
魔攻:8999
魔防:2789
俊敏:2398
スキル:魔力上昇8
魔攻上昇7
魔防上昇8
魔力自動回復6
格闘技5
体力上昇4
物攻上昇4
体力自動回復5
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魔族の王城、通称魔王城の廊下を、二人の魔族の男が歩いていた。
一人はデクト・パクス、もう一人はローギス・メイヤ。二人は幼馴染で、二人で強くなると決め、二人で魔王城への入場を許された。ついには、今回魔王直属騎士の舞台に配属され、二人して副隊長となることが決まった。
そのことを二人は誇りに思っていた。魔王上の中を行きかう人々に対しても、胸を張ることができた。
しかし、二人にはこれから上司になる騎士のことを何一つ教えられていなかった。配属を教えてくれた《黄》のテルシーに尋ねると、帰ってきたのは微笑みと意味深な言葉だった。
『きっと驚くと思うよ』
別に二人は驚きたくはないのだが、自分たちよりも地位が上の人に対して文句を言えるはずもなく、今こうしてその人の元へと向かっている。
「なぁ、ローデス。俺、少し不安なんだが」
「同感だ。一体七色騎士のどなたなんだろうな、俺たちの上司は」
「あぁ。けど、せっかくの副隊長だからな。精一杯役目を務めるぞ」
「魔王様のお役に立てることになるからな」
二人で話し合いながら歩いていると、ようやくテルシーに言われた部屋にたどり着いた。
「ここだな」
「じゃあ、行くぞ、デクト」
「あぁ」
代表してローギスが扉をノックした。
「本日より副隊長に任命されました、ローギス・メイヤ、参りました」
「同じく副隊長に任命されました、デクト・パクス、参りました」
「入りなさい」
帰ってきたのは、美しい女性の声。その美しさに二人は一瞬硬直するが、すぐに気づいてゆっくりと扉を開けた。
「「失礼いたします」」
二人同時に部屋の中に入り、静かに扉を閉じる。
そして部屋の中を見ると、二人は驚きに目を見開いた。
内装は簡単なものだが、一目でお金がかけられているとわかる。そして、部屋の中にいる存在は三。
一つは床に寝転がる大きな狼。存在感の強さから、相当な強さだということがわかる。
二つ目は執事服を着た男。テーブルの上に紅茶が置いてあるところを見ると、この男が用意したことが想像できた。
そして最後は短い銀髪の少女。大きな椅子に腰をかけ、ゆったりと窓の外を見ているようだ。
デクトとローギスはそれらを見て、戦闘態勢を取った。
狼は問題ない。問題なのは、残り二人だ。
「「人族!」」
その言葉に反応したのか、銀髪の少女は椅子から立ち上がり、二人へと向き直った。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
二人はその笑みに寒気を覚える。
少女は純白のスカートの裾を摘み、軽く礼をする。
「初めまして。私は八色騎士が一人、《銀》のアリシア・ラインセルと申します。以後、お見知りおきを」