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時の天使は世界を嘲笑う  作者: キミダリ
第1章 天使の始まり
3/16

3 ステータス開示の日

 ラインセル家の屋敷ではメイドや執事たちが働いているが、彼らはアリシアにはあまり近付かないように、とガルドやミリアから言いつけられている。

 することは必要最小限で、無駄なことをしてアリシアの機嫌を損ねないようにということだ。


 アリシアは周囲の目から見ると、かなり我儘な少女に育っていて、アリシアもそれを自覚しているが、それでも我儘を押し通している。

 それはレベルが異常に高く、強いので、強さこそが絶対という考えになってしまっているのだ。


 以前、リヒトとレミアがアリシアと遊びたくて廊下を歩いていたアリシアの元へと駆け寄った時のことだ。

 二人はアリシアに遊んでほしくて、アリシアの服を掴み、顔を見上げて必死に頼み込んでいたが、アリシアにとってはそれを目障りでしかなかった。


 目障りになっているとはいえ、アリシアは最初から何かをするわけではない。ただ表情は冷たく、「邪魔だから離れてください」と言うのだ。これがアリシアにとっての十分な譲歩なのだ。


 しかし、リヒトとレミアはそれを全く理解せず、ただ一緒に遊んでほしくて縋っていた。その声がうるさく、駄々をこねる姿に嫌気がさし、アリシアは躊躇なく二人の体を蹴りつけた。

 この時にはすでにレベルは200を越えていたため、もちろん限界まで手加減した。それでも如何せん相手が小さすぎるので、二人は綺麗に吹き飛んでいってしまった。


 その姿を見たメイドたちが悲鳴を上げて騒ぎ、それに気付いた両親が駆けつけると、その惨状を見た。気を失って倒れるリヒトとレミアに、冷たい視線を向けるアリシア。その目は道端の小石でも見るかのように冷たかった。


 ミリアは治癒魔法ですぐに二人を治療し、ガルドは二人を蹴飛ばしたアリシアを叱りつけるものの、二人の間では会話が成立していなかった。


 暴力を振るったことを怒るガルドだったが、アリシアの言い分はガルドにも他の人にも理解しがたいものだ。


「私はしっかりと、邪魔だから話してください、と言いました。それなのに離れなかったのですから、実力行使をするしかないでしょう?」


「そういう問題ではない!この子たちはまだ小さいのだから、もし場所が悪くで死んでしまったらどうする!」


 そう怒鳴るガルドに、アリシアは本当に疑問に思うかのような表情で首を傾げた。


「お父様、例え話ですが、もし盗賊に対して向かい合って警告するとき、普通は一回だけ警告して、それでも従わない時は実力行使しますよね?つまりはそういうことですよ」


「ふざけるな!なぜ、今その例え話が…………まさか、お前はその例え話での盗賊が、リヒトとミリアだというのか!?」


「当たり前でしょう?この状況とぴったり同じではありませんか」


 アリシアがさも当然のことのように言ったことで、その場の空気が凍り付いた。その場にいる誰もが信じられないものでも見るかのようにアリシアを見ていた。


 その時から、アリシアの屋敷での対応が変わった。誰も彼もがアリシアを腫れもののように扱い、必要以上には関わらない。

 一時はアリシアをよそに預けたり、捨てたりすることも考えたようだが、ガルドとミリアは嫌な予感がして、そこまで踏み入ったことをすることができなかった。


 幸いなことに、アリシアは余計なことさえされなければ特に何もしてこないので、放っておく分には何も問題はなかった。


 そして、だからこそアリシアの異常性が高まっていくことに誰も気づかずに放っておく。

 所詮は我儘なだけの小娘と考えられ、特に何か魔法や武術の訓練をしているようには見えなかったので、すぐにダメになるだろう、というのが共通の見解だった。


 アリシアのことをよく思っていない人たちからすると、教会での五歳のステータス開示の時が一つの分岐点となると考えていた。

 ステータスが優秀であれば、我儘なまま人あるかもしれないが、優秀なステータスを活かすために訓練させることでコントロールする。もし優秀でなければ、それを理解して我儘な態度を改めてくれると期待していた。


 それを無駄かもしれないと思いながらも、ステータス開示にかける思いは屋敷内にあった。


 そして、ついにそのステータス開示の日が来た。その日は屋敷内の人々が少しそわそわとしていて、空気が騒がしかった。


 準備が終わったガルドとミリアは玄関に向かう時にメイドに言う。


「それじゃ、アリシアを連れて来てくれ。あいつのことだから、準備は終わっているだろう」


「かしこまりました」


 恭しく礼をしてアリシアの部屋へと向かうメイドは、表情には出さないが、内心ではヒヤヒヤとしていた。

 アリシアの我儘と内側の暴力性を知っているメイドは、機嫌を損ねないかどうか不安なのだ。


 だが、それを表に出すだけでアリシアは不機嫌になることがあるので、無表情になるように努めて、アリシアの部屋の前に立つ。

 一度深呼吸をして、部屋の戸をノックする。


「アリシアお嬢様、お出かけの時間でございます。支度はよろしいでしょうか」


 しばらくメイドは返答を待つが、何も返ってこない。普段はノックして声をかければ何かしらの反応が返ってくるのだが、今回は何も返ってこない。


 メイドはもう一度同じように呼びかけるものの、何も返ってこない。


「お嬢様、失礼いたします」


 急がずスムーズにメイドは戸を開けると、無表情を張り付けていた顔に驚きが浮かんでいた。


 部屋の窓は開け放たれ、外から流れ込んできた風がカーテンを大きく翻していた。部屋の中を見渡すと、そこには人の気配は一切なく、アリシアが窓から外に出て行ったことは簡単に予想がついていた。


 しばらく呆けてしまったメイドは、意識を戻すとすぐに玄関で待つガルドとミリアの元へと駆け出した。


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