2 五年後
いきなりですが、五年経ち五歳になっています。
アリシアが生まれてから五年が経ち、五歳になった。銀髪に青い瞳を持つ、かわいらしい少女だ。アリシアの家族は両親と三歳年下の双子だ。
父親はガルド・ラインセル。赤髪に赤い瞳を持つ強面の男。見た目は三十後半と言っても違和感はないのだが、実際はまだ二十五歳。見た目と実年齢にギャップがあるが、娘であるアリシアからしたら、そのようなギャップは大したことはない。
それに、強面とは言っても、子どもたちの前では時々緩い表情を見せる時があり、その表情は子供っぽい。
ジョブは重剣士で昔は冒険者をやっていたが、子どもが生まれたことで今は活動を抑えている。冒険者としては凄腕の部類に入るため、稼ぎも相当よく、辺境ではあるが屋敷を一つ持っていて、今は領主に村の護衛として雇われている。
母親はミリア・ラインセル。銀の圧で青い瞳を持つ美人で、アリシアはミリアの特徴を余すところなく受け継いでいると言われている。そのため、将来はミリアのように美人になると誰もが言う。
見た目はガルドとは正反対で、ガルドと同じ二十五歳にもかかわらず、もっと若く見える。ガルドとミリアが並ぶと、年の差が二十はあるとみられるくらいだ。
ガルドと同じくミリアも冒険者で、ジョブは大魔導士。ガルド曰く、優しい見た目に反して戦い方はえげつない、というのが感想。
しかし、それは戦いだけであって、子どもに対しては見た目通りに優しい。
そして、双子はリヒト・ラインセルとレミア・ラインセル。リヒトが兄で、レミアが妹。
リヒトとレミアは性格が似ていて、何事にもすぐに興味を持つ。天真爛漫と言える二人は、屋敷の中で毎日のように楽しそうに騒いでいる。
リヒトはガルドの赤髪とミリアの青い瞳を受け継いでいて、ジョブは勇者だ。レミアは赤がかった銀髪に赤い瞳で、ジョブは魔法使い。二人とも将来有望ではあるが、二人のジョブのことを知っているのは、今の所アリシアただ一人だ。
すべての子どもは五歳になると、次の年の最初の日に教会でステータス開示の方法を授けてもらう。その時までは、親は子どもにステータス開示をさせてはいけないと教会から言われている。
それなのにアリシアが自他問わずにステータスを見ることができるのは、《時の魔眼》というスキルのおかげだ。
『時の魔眼』
時の天使のジョブを持つ者が持つことができる特別な魔眼で、この眼を持つ者は自身と他人に対して鑑定を行い、ステータスを見ることができ、その詳細を知ることができる。さらに自身の魔力を込めて見た対象の持つ魔力を吸収し、触れた対象の命を吸収することができる。
このスキルでステータスを見ることができたことで、アリシアは五歳になるまでに普通の子どもとは全く違う意味で充実した生活を送ることができていた。
その生活の中で得てきたものが、常人離れしたレベルである。
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アリシア・ラインセル
年齢:5
種族:人族
性別:女
ジョブ:時の天使
属性:時
レベル:370
体力:15054/15054
魔力:30020/30020
物攻:5730
物防:3905
魔攻:16078
魔防:4695
俊敏:7089
スキル:時の魔眼
時の魔力
叡智の書
暗殺技9
隠密5
気配察知7
格闘技7
体力上昇5
物攻上昇4
体力自動回復5
魔弾技10
的中率上昇7
魔攻上昇8
魔力上昇9
魔力自動回復10
魔力察知9
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一般人の大人ではレベルは高くても二十ほど、冒険者ですらレベル百を超えるとベテランと言われるほどで、最高クラスでも三百に届くか届かないかだ。
にもかかわらず、アリシアのレベルはそれらを軽く上回り、スキルも増えている。スキルのレベルは最高で10、レベルが付いていないスキルはエクストラスキルと言われている。
『時の魔力』
時属性の魔法を使うために変質した魔力。この魔力は時属性の魔法を使うためにしか使えず、魔力察知でも察知することができない。
『叡智の書』
この世界に存在する様々な書物を記憶しているスキル。スキル所持者が望むことに関係する書物を自由に閲覧ことができる。ただし、閲覧できるのは今現在存在する書物のみで、すでに失われた物は閲覧できない。
アリシアにとって、ここまでのレベルになるまでに支えてきたのは最初に持っていた三つのスキルであり、それ以外はついでに取っていったに過ぎないものだ。
《時の魔眼》はステータスを確認し、《時の魔力》のおかげで時の魔法を使ってレベルを上げ、《叡智の書》で知識を多く身に着けた。
特に時の魔法にはここまでのレベルにするまでに便利なものがあった。それが、《時分身》だ。
これは本来であるアリシアとは別の次元に存在するアリシアを生み出す魔法だ。あくまで分身であるため、本体がやられない限りはいくらやられても本体にダメージはないが、分身たちのレベルは本体と同じになる。
しかも、分身たちが得た経験値は全ての分身と本体に共有される。つまり、十体の分身がそれぞれ一体ずつ魔物を倒すと、本体を含めた十一人が魔物十体分の経験値を得ることができる。
これらのおかげで、尋常でない速度でレベルが上がっていった。今ではレベルの上昇は収まっているが、常に分身たちが魔物を狩りまくっている。分身たちを作り出す時にのみ魔力を使い、それ以外では魔力を使う必要がないので、魔力枯渇の心配がない。
まだそこまで強力な魔物はあまり狩っていないが、この先レベルを上げていくうえでは、必ず倒すことになるだろう。その時のために、今はただただレベルを上げていっている最中なのだ。
そのことに気付いているのは、誰一人としていない。
アリシアが異常だということには、周囲にいる人間は気付き始めているが、それはあくまで性格の部分だけだと思っている。
まさか、アリシアの全てが規格外だということには考えが及ばない。