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時の天使は世界を嘲笑う  作者: キミダリ
第1章 天使の始まり
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閑話 《不老》のダンジョン2

 アリシアが向かう冒険者ギルドは、五歳まで生まれ育った村からはかなり離れており、その村出身の人が活動しそうなギルドではない。

 そのため、顔見知りに会う確率はかなり低い。そもそも、アリシアは家の中にずっと引きこもっていて、村の子どもたちと遊ぶこともなかったので、アリシアの姿を知っているのは家の中にいた者たちだけだろう。


 アリシアは一応十五歳になった時に冒険者登録はしていたが、今までほとんど活動はしていない。お金は十分に溜めているし、実力も魔族の中でトップクラスなので、冒険者として活動する理由はない。ギルドに向かうのは、登録して以来だ。


 だからと言って緊張するようなこともない。この程度で緊張するようなメンタルなら、最初から魔族側に寝返っていないし、魔王直属騎士にもなれていない。

 ギルド内からはピリピリとした空気は外まで感じるものの、この程度のプレッシャーなら大したことはない、とアリシアは思い、ギルドの戸を押し開いた。


 中ではガヤガヤと多くの冒険者がいる。正面に受付、隣には酒場が併設されており、朝から飲んでいる人が多くいる。

 その他にも受付で依頼の完了をする冒険者や、話し合いをしている冒険者もいる。このギルドはかなり大きな部類に入るようで、中は広く、冒険者たちの実力も高いらしい。


 とは言え、すれ違いざまに冒険者たちをちらりと見るアリシアだったが、その実力は大したものではないと感じていた。一番強そうな冒険者でも、魔王軍の普通の兵士よりも少し強い程度だと思った。


 アリシアは見た目が美少女であるため、女性が少ない冒険者にとっては物珍しく、通るたびにちらりと見られるが、わざわざ突っかかってくる人はいない。冒険者は基本的には野蛮だと思われているが、ここまで大きなギルドとなると、わざわざ面倒ごとを起こす人はいない。


 依頼ボードの前に立ち、アリシアはそこにある依頼を順番に眺める。そこにどんな依頼があるのか、それを調べるだけで、そのギルドの周辺の状況が想像できる。こうして依頼を見ているだけで、わかることがある。


「ん?」


 アリシアは、ある依頼を見て興味を持った。


「ダンジョン攻略……」


 ダンジョンは世界中に存在し、魔物が多数出現し、階層構造になっている。階数はダンジョンによって違うが、多いもので百階を超える。

 そして、最初にダンジョンを最初に攻略した者には、特別な物をダンジョンから受け取れる。それは武器であったり、道具であったり、スキルであったり。

 そのダンジョンがすでに攻略されたかどうかは見てわかるようになっている。攻略されると、外観が変わる。


 どうやら、このギルドの近くには最近出現したダンジョンがあるらしく、いまだに攻略した者は出ていないようだ。


 アリシアはこれまで何度もダンジョンに入ったことはあるが、未攻略のダンジョンはまだ攻略したことがない。


 これはおもしろそうだと思い、アリシアは依頼書に書いてあるダンジョンの場所を覚え、ギルドを後にする。


 ギルドを出てすぐに路地裏に入り、周囲に誰もいないことを確認し、分身を一体出して残し、影に沈み込む。確認したダンジョンの場所の近くにも一体分身を配置していたため、影から影へと移動していける。


 アリシアは影の中から出ると、そこは深い森の中。見上げると、すぐ近くにダンジョンが見えていた。高さは大したことはない。精々十メートルくらい。


(これは下に伸びるタイプですね)


 ダンジョンには上に上るタイプと、下に下るタイプの二種類がある。今回は下に下るタイプらしい。


 このダンジョンは場所がかなり悪い。森の奥にあることもそうだが、この森は浅いところではそれほどではないが、奥になるとレベル100越えの魔物も出る危険地帯として指定されている。

 ダンジョンの近くに人の気配は少ない。他のダンジョンよりも数も少ない。

 だが、アリシアには関係ない。


「では、行きますか」


 アリシアはゆったりと歩いてダンジョンに入って行った。

 その時、アリシアの後ろから声がかけられた。


「おい、そこのお嬢ちゃん」


 アリシアは後ろへ振り返ると、そこには男六人組がいた。おそらく、一つのパーティーなのだろう。


「何か御用ですか?」


「用というか……お嬢ちゃんの格好が冒険者らしくねぇからよ、声をかけたくなったんだ」


「恰好……あぁ、そういうことですか。大丈夫ですよ。これでも結構丈夫な服なので」


 アリシアは今白を基調とし、服の縁に青い線が入り、胸元に小さな青いリボンのついた服を着ている。ぱっと見では、貴族のような服装だ。鎧を何もつけておらず、武器も持っていない。荷物もない。そんな状態でダンジョンに入るのは、他の人からすれば危ないのだろう。


 だが、アリシアにはどうでもいい。今の服に使っている糸は、魔物からとれる最高級の糸で、そこら辺の鎧よりも丈夫で、肌触りも最高級。魔力をよく通しやすく、汚れが付きにくい。

 見た目は冒険者のようには見えないが、その性能は今アリシアの目の前のいる男たちの来ている鎧よりもはるかに高い。


 武器に関しては、魔法を使うため必要なく、荷物も影の中に入れているため必要ない。


「大丈夫って、そうは見えないぞ。しかも一人じゃないか。このダンジョンは危ないぞ」


「……私には関係ないですね。私は行きます」


 そう言って、アリシアは男たちを無視してダンジョンの中に入って行く。


「ちょっ、おい」


「待て!」


「少しは注意を聞け!」


 後ろから怒鳴りながら男たちがアリシアの後ろから付いてくる。

 それをアリシアは面倒に思っていると、入ってすぐに魔物が出てきた。大きな虫の魔物。とにかく足がいっぱいある。


 それを後ろの男たちも見たのか、息を呑む気配がしたが、アリシアはそこまで驚かない。この程度なら魔族にもいるため、見慣れている。


 男たちはそれぞれの武器を抜いて、立ち向かおうとする。全員すぐにアリシアの前に出る。ここで躊躇いなく守るために前に出ることができるのは、彼らがそれなりの実力を持っているからだ。

 確かに、六人全員なら目の前の魔物に勝つことは難しくはないだろう。

 だが、別にアリシアは彼らに守ってもらうほど弱くはない。


 アリシアは魔物に向かって右の拳を突き出し、そのまま親指と人差し指を開く。人差し指を魔物に向けて、一言。


「《ズガン》」


 次の瞬間、人差し指から魔力の弾丸が打ち出され、魔物の頭に穴を開ける。

 そして、魔物はゆっくりと倒れ、粒子となって消える。そこに残るのは魔物の体の格になっている魔石だけ。

 アリシアはそれを回収すると、唖然として突っ立っている男を一瞥し、何も言わないままダンジョンの中へと進んでいった。


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