表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

第九話 死の手先の進化

 洞窟に帰って、テーブルの上に金貨を置くと、ラーシャが現れた。

 ラーシャは椅子に座って、機嫌よく声を掛けてくる。


「どうやら、うまく、浜にあった難破船から財宝を回収できたわね」

「何か、見ていたような口ぶりだな」


「そんなことは、どうでもいいでしょう。それで、レベル・アップをするの?」

「頼む。もう、モンブラン島にはいたくない」


 ラーシャが金貨に手を翳すと、金貨五枚を残して、金貨が消えた。

「金貨にして四十枚。銀貨換算で四千枚あるから、レベル・アップをしてあげるわ」


 キルアの体が熱くなると、体が上に引っ張られるような感覚がした。


 背中がむずむずする。フロック・コートを脱いで、羽を意識する。大きな羽が広がるのがわかった。

「よし、これなら長時間、飛べそうだ」


 羽に意識をやり背中に収納して、フロック・コートを着る。


 ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。

 四枚のカードには、簡単な説明が書いてあった。


メジャー・デーモン……下級悪魔を率いる中位悪魔。下級悪魔はここで卒業。


骸骨デーモン……骸骨の形状をした悪魔。魔法が得意。


決闘デーモン……一対一では無類の強さを示す悪魔。


海戦デーモン……船を操り無数のアンデッドを従える海の悪魔。


 ここまで進化してきた、死の何とかシリーズがなかったので尋ねる。

「死の何とかが、ないな。どうしてないんだ?」


 ラーシャが澄ました顔で、おざなりに教える。


「派生進化先は行動で決まるから、何とも言えないわ。でも、似た系統の骸骨デーモンが出ているから、死の何とかが好きなら、そっちを選べば」


「骸骨デーモンの飛行能力って、どうなんだ?」

「五レベル悪魔は魔力で飛ぶから、戦闘がなければ、二十時間以上は飛べるわよ」


「海戦デーモンの説明に『船を操り~』の記述があるけど、選ぶと、船は貰えるのか?」


 ラーシャが鼻で笑って、傲岸(ごうがん)に告げる。


「何を馬鹿な戯言(たわごと)を、ほざいているのよ。船は自分で手に入れるに決まっているでしょう。もっとも、もうすでに船は持っているようだけど」


 すぐには思い当たらなかった。

「難破船のことか?」


「違うわよ。それよ」とラーシャは呆れた顔で木箱を指した。

 木箱の中を開けるが、白い玉しか入っていない。


「これが、船? 白い玉にしか見えないぞ」


 ラーシャが素っ気ない態度で説明する。

「それは、魔法を覚えるための宝珠よ。それを額に当てれば、魔法を使えるようになるわよ」


「簡単でいいな。デメリットとかはないのか?」


 ラーシャが知的な顔で教示する。

「悪魔や人には、魔法許容量ってのがあるのよ。だから、魔法容量を超えて、無制限に魔法を覚えられはしないわ」


「俺の魔法許容量って、いくらだ?」


 ラーシャは穏やかな顔で、すらすらと語る。


「普通のレベル五の悪魔の魔法許容量は二十五ね。ちなみに、船を呼び出す魔法に使用する魔法容量は二十五よ」


「これを覚えたら、他の魔法はレベルが上がるまで一切、覚えられないのか?」


 ラーシャは、軽い調子で告知する。

「そうなるわね。強い魔法と特殊な魔法ほど、魔法容量は大きくなる傾向にあるわ」


「魔法の詳細が気になるな。詳しくわからないか?」


 ラーシャが表情を柔らげて提案した。

「いいわ。長い付き合いになるかもしれないから、貸しってことで、教えてあげてもいいわよ」


「わかった。教えてくれ」


 ラーシャが真剣な顔をして、白い宝珠を手に取る。


「魔法の名前はサモン・シップ。異空間から魔法の帆船を出し入れする魔法ね。船の大きさは三十五m級、右舷と左舷に、それぞれ三門ずつの魔道砲を装備しているわ」


 船は嬉しいが、問題点もある。

「三十五m級か。一人で動かせるのか?」


「魔法の船は使用者の手足のように動かせるわ。帆の上げ下げから、舵の操作、魔道砲の発射まで、キルアの意思一つでできるわよ」


「船が壊れたら、どうするんだ」


 ラーシャは、うんざりした顔で突き放すように話す。

「船大工にでも直してもらえば。もっとも、魔法の船だから、そう簡単には行かないでしょうけど」


「ちなみに、売ったらいくらだ?」


 ラーシャが(いら)っとした顔で邪険(じゃけん)に告げる。

「私は魔法屋じゃないから、わからないけど。金貨百枚くらいでしょう」


「何か凄い魅力を感じる魔法だな。わかった。俺は海戦デーモンになる。それで、サモン・シップを覚える」


 キルアの体が紫に光る。キルアの体は、鮫のような肌を持つ青い人間の体になった。

「海戦デーモンって、人間に近い形態なんだな」


 ラーシャが鏡を出して見せてくれた。

 肌と髪が青い以外は『死の奴隷』の時に変身できた時と同じで、人間の顔があった。


 背中に意識をやると、羽は出し入れできたので、飛行能力は失ってなかった。

 ラーシャがそろそろ飽きてきたのか、事務的に説明する。


「外見は人間に近いけど、身体能力は、五レベルの謀略系悪魔と変わらないわ」

「海戦デーモンと呼ばれるけど、戦闘系より弱いのか?」


「代わりに泳ぎが早くなって、五分間は呼吸を止めたまま全力運動できるわよ」

「戦闘能力が落ちた分、水中での行動が有利になるのか? それなら、いいか」


 ラーシャが、早く仕事を終えたそうな顔で告げる。

「悪魔神様から貰えるギフトね。一つは『船体修理』よ。船が受けた傷を、自動で修復できるギフトよ」


「いいね。サモン・シップと組み合わせれば使い勝手がいい。異空間にあっても、修理されるんだろう」


 ラーシャが考える仕草をして解説する。


「所有者である限り、有効ね。『船体修理』があれば、船が完全に壊れても、一週間で元に戻るわ。ただし、完全に壊れてから修理を始めると、修理が完了するまで、他のギフトが使えないわよ」


「強力だな。『船体修理』のギフトがあれば、船が傷むような無茶な航海も行える」


 ラーシャが軽い調子で、二つ目のギフトを告げる。

「もう一つは『お宝発見』よ。半径一㎞以内にある宝の隠し場所がわかるわ」


「それも魅力的だな。宝探しをするには、もってこいだ」


 ラーシャが腕組みをして決断を促す。

「どっちにする」


「どっちも取れないのか?」


 ラーシャが澄ました顔さらりと告げる。

「すでに覚えているギフトを忘れていいなら、取れるわよ」


「なら『スケルトンの創造』を捨てて『お宝発見』と『船体修理』にする」


 ラーシャが冴えない顔で確認する。

「いいの? 弱いギフトを持っていても、後々、それより強いギフトと交換できる未来もあるわよ」


「いいよ。『スケルトンの創造』は捨てる」


 キルアの体が青く輝いた。キルアは白い宝珠に額をつけて、サモン・シップも修得する。

「よし、これで、船に乗ってモンブラン島を出ていける」


 ラーシャが冷たい顔で警告する。

「悪魔のレベル五やレベル六って、人間に狩られる結末が多いから、気をつけることね」


「人間の世界か。どうなっているんだろうな」


 ラーシャが晴れない顔で注意する。

「モンブラン島から出られるようになったから、行きたければ行けば? お勧めはしないけど」


「お勧めも何も、どっちに行けば何があるかわからんから、運任せだな」


 ラーシャが、あっさりした態度で尋ねる。

「海図あるけど、要る?」


「それは有料か? それとも無料か?」


 ラーシャは愛想のない顔で告げる。

「いいわ。レベル五になったお祝いにあげるわ」


 ラーシャから海図を貰って、拝見する。

 モンブラン島から、近くの街であるベセルデスまでの行き方が、描いてあった。


「この、ベセルデスって――」と訊こうとして、地図から顔を上げる。


 すでにラーシャの姿は、なかった。

「何かいいように誘導されている気がする。だけど、行ってみるか、悪魔の街ベセルデスに」


 翌日、キルアは、残っているナツメヤシの実を全て採取する。水は難破船にあった酸っぱくなったワイン・ボトルのワインを捨てて、水を詰める。


 浜辺に行き、サモン・シップの魔法を唱える。魔法文字が描かれた、緑の大きな直径五十mほど輪が出現する。輪から真っ黒い二つの四角い帆を持つ三十五m級の帆船が現れた。


 帆船がどんな構造で、どんな設備を持っているか、キルアにはわかった。キルアが帆船に近づくと、帆船から縄梯子が降りてくる。縄梯子を掴むと、自動で縄梯子が上がる。


 船に乗って船長室の扉の前に行く。船長室の扉に手を掛けると鍵が開いた。部屋を開けると、魔法の灯が点灯する。


 船長室は三十㎡ほどの部屋で、床に固定されたベッド、机、宝箱があった。机にはコンパスが嵌め込んであった。机の上に海図を載せて外に出る。


「いざ、行かん、ベセルデスに」


 操舵輪が勝手に廻り、自動で帆が張られた。船は風を受けてベセルデスに向けて進みだした。

種族   海戦デーモン レベル五

ギフト  『死者の支配』『船体修理』『お宝発見』『ソウル・ガン』

魔法   サモン・シップ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ