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第七話 死の下僕の進化

 椅子に腰掛ける。向かいの椅子にピンクの煙が立ち上り、ラーシャが現れる。


 ラーシャが機嫌もよく褒めた。

「今回はまた早く、銀貨を貯めたわね。もっと掛かるかと思った」


 金の装飾品を外して、真珠も差し出す。


 ラーシャが金の装飾品と真珠を鑑定して告げる。

「なんとか銀貨二千枚分ぐらいの価値はあるわね」


「作戦が上手くいった。さっそく、レベル・アップを頼む」


 キルアの体が火照って暑くなる。暑さは二十秒ほどで過ぎた。

 背中がむずむずする。羽がさらに一段、大きくなった気がした。


 ラーシャが微笑んで告知する。

「これでレベル四よ。次のレベルに上がりたければ、銀貨四千枚よ」


 キルアは大きくなった背中の羽に意識を向けた。羽がゆっくり動き、浮遊感を感じた。


 ラーシャが澄ました顔で警告した。


「キルアの羽は魔力で空を飛べるわ。背中にしまうこともできる。でも、長時間の飛行は無理よ。連続で二時間も飛べば、くたびれるわ」


 腕や脚を見る。体表は黒くなり、腕や脚は太くなっていた。

「身体能力は着実に上がっているんだな」


 ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。

 四枚のカードには、簡単な説明が書いてあった。


レッサー・デーモン……悪魔の下位種。身体能力は、並の人間を凌駕(りょうが)する。


囁きデーモン……他人を惑わす悪の囁きができるデーモン。


ギャザラー・デーモン……生産系悪魔。採取活動が得意。


死の手先……死の下僕の進化系。人間に死を振りまき、死を呼ぶ悪魔。


 消去法で考える。まず、ギャザラー・デーモンに目が行く。


「どこかの村でスローライフの悪魔生を送るなら、ギャザラー・デーモンもありだろう。銀の採掘も、効率化できるかもしれない。だが、時間制限があってこの島から出なければいけない今の俺には、無意味の選択だ」

 ギャザラー・デーモンのカードが消える。次に、囁きデーモンのカードに視線が行く。

「囁きデーモンの悪の囁きって、人間以外にも効果があるのか?」


 ラーシャが、つんとした顔で教えてくれた。


「相手に動物並み以上の知能があることが必須ね。かつ、言葉が理解できると効果があるわよ。もっとも、キルアが囁ける状態なら、だけど」


「無理だな。キャプテン・スケルトンは財宝を持ち出されて、相当に怒っているはずだ。囁ける状態にはない。シオマネキに囁いても意味がない」


 机の上から囁きデーモンが消える。次にレッサー・デーモンに目が行く。

「レッサー・デーモンの戦闘能力って、どれくらい?」


 ラーシャが素っ気ない態度で教えてくれた。

「強いわよ。田舎騎士ぐらいなら、苦戦するわ」


「キャプテン・スケルトンと比べたら、どう?」


 ラーシャが少しだけ考える顔をして、評価を語る。

「力で勝って、速度で劣る、ってとこかしら」


「迷うけど、なしだな。相手のレベルは五。下手に速度で負ければ、一撃も当てられず負けるかもしれん」

 レッサー・デーモンのカードが消えて、死の手先のカードが残る


「となると残るのは、こいつか。死の手先も、レッサー・デーモンと同じくらいの強さなのか?」

「死の手先は謀略系の悪魔だから、戦闘系の悪魔であるレッサー・デーモンより、戦闘能力は劣るわよ」


「まともな手段では、キャプテン・スケルトンに勝ち目がないのか。でも、レッサー・デーモンを選んで飛べるようになっても無意味だ。連続二時間の飛行では島から出ていけない。となると、ギフト頼みか」


 運任せにはしたくなかった。でも、どうしてもレッサー・デーモンでは決め手に欠く気がした。

「わかった。『死の手先』に進化する」


 体が黒く輝くと、体が痩せた。肋骨が浮き出て、肌に艶が出て黒くなった。顔の犬の頭蓋骨が縮んだので触ってみると、人間の骸骨になっていた。


「なんか、あまり強くなった感じがないな」


 ラーシャが当然の顔で簡潔に告げる。

「レベル四の謀略系だからね。そんなものよ」


「今回は、どんなギフトが選べるんだ」


 ラーシャが澄ました顔で教える。

「一つ目は『水夫スケルトンの創造』よ。レベル二の水夫スケルトンを、レベルの二倍まで支配ないし、創造できるわ」


「水夫スケルトンが創造できるようになるギフトか。あまり強力なギフトではないな」


 ラーシャが澄まし顔のまま同意した。

「そうね。これは、戦闘用のギフトではなく、船を動かすためのギフトね」


「もう一つは『ソウル・ガン』。装填数が二発で、ダメージを与える銃を作り出せるわ」


「おっと、来たね。これは、期待できそうな名前のギフトだ。凄そうなギフトだな。それで威力は、どれほど?」


 ラーシャが淡々とした顔で告知する。

「『ソウル・ガン』の威力は、レベルによるわ。ただし、どんなにレベルが上がっても、装填数は、二発よ」


「キャプテン・スケルトンを、二発で仕留められるか?」


 ラーシャが投げやりな態度で、軽く語る。

「使かった経験がないから、わからないわ。けど、行けるんじゃないの? 当てられたらね」


「決めた。貰うギフトは『ソウル・ガン』だ」

 涼しい風が吹き抜ける。キルアの体がほんのり温かくなり、ギフトが宿った気がした。


 ラーシャはレベル・アップを終えたので消えた。

 洞窟から出たところで、『ソウル・ガン』を試してみた。


 全長三十㎝の緑色の光る銃が手の中に現れる。銃は薬莢室に一発、弾倉に一発が込められる銃だった。

『ソウル・ガン』は、念じれば、すぐに手の中に現れる。


 放り投げても、念じれば前の『ソウル・ガン』が消えて、次の『ソウル・ガン』が出現する。


 さっそく試し撃ちをするために、シオマネキの住処に行く。傷ついたシオマネキが二体、残っていた。近づくと、シオマネキの一体が(はさみ)を振り上げ、十五mまで近づいてくる。


『ソウル・ガン』を出す。ゆっくり狙いをつけて、引き金を引く。ドンの音がして、外れて砂が弾け飛ぶ。

「狙いを付けるのは思ったより難しいな」


 シオマネキを八mまで引きつけて、狙った。銃声がしてシオマネキの体に穴が空いた。シオマネキはドサリと倒れて動かなくなった。


『ソウル・ガン』は狙いを付けるのが難しい。だが、威力は高い。怪我をしていたとはいえ、固い殻を持つシオマネキが一撃で仕留められる。確実に当てるなら、射程は五mと判断した。

種族   死の手先 レベル四

ギフト  『スケルトンの創造』『死者の支配』『ソウル・ガン』


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