表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

第二十九話 冒険は次の舞台へ

 キルアは金属の筒を持って《漁火亭》に顔を出す。まずはエルモアに文句を付ける。言うことはしっかり言わないと、舐められる。さらに悪ければ使いぱっしりされる。


 テーブルをバント叩いて抗議する。


「なんだ、あのアスミナ奴は最悪だぞ! 自分の都合でサルバドデスで船を降りちまいやがった。責任感がなさすぎる。よくあんなのを推薦できたな」


 キルアに苦情は言われたエルモアだが涼しい顔だった。

「きっとなにか外せない用事ができたのね。残念だわ」


「何が副船長として乗ってやるだ。もう金輪際お断りだね。もっとマシなのを紹介してくれ。そうでないと信用なくすぜ、エルモアさんよ」


 エルモアがキルアの持つ金属の筒に興味を示した。

「面白い物を持っているわね。それをどこで?」


「アスミナが違約金代わりに置いていった。なんでも、エルモアが高く買ってくれるんだと。本当か?」

「いいわよ。買うわよ。それでいくら?」


 いくらと尋ねられても、価値がわからない。サルバドデスから運んできたのなら、金貨十枚はほしい。キルアはふっかけて発言した。


「役に立たないアスミナを俺に紹介したからな。詫び料込みで金貨二十枚だ。これ以上はまけられない」

「わかったわ、金貨二十枚ね。これでこの件はおしまいよ」


 金貨二十枚を即決でエルモアが払ってくれた。わけのわからない金属の筒を金貨二十枚で買うとは、金銭感覚がいかれている。エルモアは金属の筒の中を見ていない。


 もしかしたら、中身はキルアが抜いて空かもしれないのに、だ。金貨二十枚をポンと払う理由がわからない。かといって、下手に中を知ろうとするとまた危険なことに首を突っ込む。


 しばらく働かなくていいだけの金はできた。食事をして一杯飲んでから宿屋に帰った。


 宿屋に帰るとラーシャが来ていた。

「なんだ、レベル・アップの金なら貯まってないぞ」


「今日は仕事を持ってきたわ。成功報酬で金貨百枚よ」


 タイミングも報酬もだが、作為的なものを感じる。だからといって、ラーシャと敵対するのは馬鹿のすることだ。最低でも話は聞かなきゃならない。


「いいぜ、どこからどこまで何を運ぶんだ? 船はいま修理中だ、すぐには出せない。」

「海とはしばらくおさばね。キルアにやってほしい仕事は東大陸での争乱の画策よ」


 話の規模がでかくなってきた。

「頭の悪い俺にもわかるように説明してくれ」


「人間の国王はサルバドデスの次に、中立都市のノースルデスを狙ってくるわ」

「そうらしいな。知り合いのロイエンタールも予想していた」


「ノースルデスの近郊にはアーチ候爵領、デニス伯爵領、フレイザー男爵領があるわ。この三つを戦わせてほしいのよ」


 やってほしい仕事はわかったが、あまり気が進まなかった。


「国内で内乱を起こして、中立都市攻略どころではない状態にするわけか。止めとくよ。俺は彷徨える海賊デーモンだ。陸じゃたいして役に立たない。謀略系の悪魔のほうが上手だろう」


 ラーシャが真剣な顔でピシャリと告げる。

「残念だけど、拒否権はないわ。これは悪魔王様、直々の依頼よ」


 不思議な話じゃない。悪魔王は戦争への介入を決めた。キルアは人間の王様とは敵対できる。だが、悪魔王とは敵対できない。上を目指すなら悪魔王と上手くやる必要がある。


「悪魔王様の依頼ね。でも、俺一人じゃ無理だな。何人かほしい」

「作戦のメインはキルアじゃないわ。キルアはサポート役よ。難しい交渉は彼女がやるわ」


 ラーシャがキルアの部屋のドアを開けると、アスミナが立っていた。

「軍師デーモンのアスミナよ。彼女の指示で動いて」


 アスミナはにこやかな顔で挨拶する。

「よろしく船長。品物の運搬ご苦労様。あれでだいぶ助かったわ」


「お前、やっぱり船乗りじゃなかったな」


 アスミナは悪びれることなく言い放つ。

「役には立ったし、金になる仕事も回したでしょう。損はさせてないわよ」


「帰りに帆船二隻と海賊船に追いもまわされたのもお前のせいか?」


 アスミナは曖昧に微笑む。

「それはどうでしょう。詳しく知りたければ帆船か海賊船を拿捕しないと」


 内紛を起こす材料をアスミナは手にした。エルモアの手に渡った金属の筒の中身がそうだろう。だが、キルアが運んだものが本物とは限らない。


 軽い感じでラーシャがキルアに命令する。

「キルアはアスミナのサポート役を頼むわ。あとはアスミナが内乱を引き起こしてくれるわ。じゃあ、頼むわよ」


 ラーシャはキルアの返事を聞かないでその場で消えた。

「悪魔王様の直々の依頼なら断らない。だが、アスミナはどういう策を考えているんだ」


 アスミナはにこにこした顔で教えてくれた。

「王の甥であるアーチ侯爵は、王が自分の命を狙っていると疑っているわ」


「権力者同士の身内への疑心か。よくありそうな話だな」

「デニス伯爵には領土的野心があり、フレイザー男爵領を欲している」


「そっちもよくある貴族同士の領土争いか」

「フレイザー男爵はアーチ公爵と表面的には仲良しだけど、実は恨みを抱いているのよ」


「三者三様に事情があった。皆、平時は動きを見せていなかった。戦争が始まって状況が変わってきた。そこで三人の心の闇を突いて国王側を混乱させるのか」


 アスミナが自信を滲ませて語る。


「三人の貴族の間で争いを起こさせ、国王を介入させる。人間内の争いをもって、サルバドデスの包囲網を解かせるのよ。それが策の全体像よ」


 勝算のない作戦ではないだろうが、話はそう簡単に行かない気がする。それでも勝算があるというのなら、アスミナはキルアに教えていないカードが何枚かまだある。


「言うだけなら簡単だ、そんなに上手くいくのかね? 人間も馬鹿じゃない」


 アスミナが邪悪な笑みを浮かべる。

「油は撒いた。後は火を付けるだけ。その火を付けに行くのが私たちよ」


「戦争を煽るようで、あまり気の進まない仕事だな。下手したら人間も悪魔も大火傷しそうだ」

「このままサルバドデスが落ちると、残りの沿岸中立都市も落ちて、商売ができなくなるわよ」


「それも困るな、自由な海を守るために人間同士で戦ってもらいますか」


 戦乱が悪魔を呼ぶのか、悪魔が戦乱を呼ぶのかわからない。だが、これから東の地が騒がしくなるのは確実だった。


【了】©2018 Gin Kanekure

2025.9.28 ここら辺でキリが良いので終了します。お付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ