第二十六話 海賊デーモンの進化
キルアは悪魔神殿を訪ねた。椅子と机しかないいつもの小部屋に通された。
ラーシャが機嫌のよい顔で待っていた。
「うまく稼いだようね。レベル七、おめでとう。戦争って儲かるでしょ」
「死にそうな目にも遭うがな。俺は引きがいい。良縁で信頼できる奴が近くにいた。さっそくだがレベル・アップを頼む」
机の上に金貨の詰まった袋を置く。ラーシャが手を翳すと虚空に金貨が吸い込まれる。
「たしかに百六十枚いただいたわ。これで、キルアはレベル七よ」
キルアの体を涼しい風が吹きぬけた。身が引き締まる思いがする。体の内側にぎゅっと力が凝集された感覚を覚えた。力が内側にたまった感じだ。体の中の骨格が強化されたのがわかる。
ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。
四枚のカードには簡単な説明が書いてあった。
トレジャー・ハンター・デーモン……宝探しが得意。過酷な環境でも活動できる。
彷徨える海賊デーモン……短時間だか幽霊化でき、物理法則を無視して活動できる。
呪われし海賊デーモン……人間に呪いを振りまく。自身は呪いに対して耐性を持つ。
大海賊デーモン……複数の船を支配下に起き、海戦で力を発揮するデーモン。
「今回は面白そうなのが四枚出たな。海賊系が三つもある」
「そういう時もあるわよ。でも、能力は皆、違うから」
トレジャー・ハンター・デーモンのカードに目が行く。
「宝探しには興味がある。宝探しをやるなら分け前をあきらかにして複数人でやったほうがいい。そうすると、マネジメントが面倒だな」
トレジャー・ハンター・デーモンのカードがテーブルから消える。
次に彷徨える海賊デーモンのカードに目が行く。
「物理法則無視ってあるが、これは壁や船を通り抜けられるって意味か」
「一般的な物なら透過できるわよ。普通の武器や魔法では傷付けられなくなるわ。だけど、特殊な武器や魔法ではダメージを受けるから無敵って訳ではないわ」
「こっちからの攻撃はどうなんだ」
「幽霊化した悪魔からの魔法や攻撃は普通に当たるわよ。ただし、一部の魔法とギフトを除いて、ダメージは低くなるわ」
一方的攻撃できる時間ができるのは魅力だ。
「幽霊化できる時間はどれくらいなんだ?」
「レベル七なら七分ね。一度使用すると、次に使うには最低十五分の休息時間が必要ね。使える回数は日に二回までよ。ギフトや魔法には幽霊化状態を解除するものがあるから注意ね」
「能力的には面白そうだけど保留かな」
呪われし海賊デーモンのカード見る。
「別に人間に呪いを振りまいても面白くもなんともない。呪いの対する耐性だって、それほど興味を惹くものではない」
テーブルの上から呪われし海賊デーモンの姿が消えた。
大海賊デーモンの説明が気になる。
「複数の船を支配下に、ってのはサモン・シップで船を何隻も出せるのか?」
「操船系の魔法を複数覚えられるようになるわ。使用する魔法容量も小さくて済む特典があるわ」
「サモン・シップを三つ覚えれば三隻で船団を組めるわけか」
ラーシャが表情を曇らせて忠告する。
「理屈の上ではね。乗員と船は自前で揃える必要があるから、お金がかかるわ」
「三隻ちゃんとした船を揃えるとなると、金貨が数百枚いく。軍艦ならいくらかかるか、まるでわからん」
ラーシャが冴えない顔で教えてくれた。
「海賊業がうまく行けば、稼いで元が取れるわ。海賊行為が下手だとすぐに赤字よ」
船団組める力は魅力だが、海賊行為にそれほど執着する気はなかった。
「俺の次の行き先は彷徨える海賊デーモンだ」
体がひんやりとする。手を見ると、肌の形状は海賊デーモンと同じ鮫の肌なのだが、半透明に近い透き通るような肌になっていた。
自らに新たな力が宿るのがわかった。幽霊化を試みる。体がほのかに青白く輝いた。着ていた衣服やサーベルも一緒に半透明になって青白くなった。机を触ると、手は机をすり抜ける。
試しにキャプテン・ハットを脱いで机の上に置く。キャプテン・ハットは机をすり抜けた。
だが、キルアの体から離れると、元のキャプテン・ハットに戻った。キャプテン・ハットは床の上に実体化して止まった。
もう一度、キャプテン・ハットを拾うとキャプテン・ハットは半透明になる。
「所持品や身に付けている品は一緒に幽霊化される。でも、これだとサーベルも相手の体をすり抜けるから攻撃が当たっても意味がないぞ」
ラーシャは澄ました顔で教えてくれた。
「幽霊は意志の力で攻撃するのよ。相手を傷付ける気で剣を振れば、すり抜けた時に体内を損傷させるわ」
「幽霊状態の攻撃は武器で受けられないのか」
「基本は避けるしかないわね。強い人間は意志の力で剣を振るって幽霊の剣を止めるから要注意ね」
弱い奴には強いが、より強い奴にはそれほど有効ではない。
「強い奴は対抗手段があるのか。あとは色々工夫してみるよ」
「ギフトの授与に移るわ。まず、一つ目は『ソウル・ライフル』ね。『ソウル・ガン』より、当て易い。『ソウル・ガン』射程が長い攻撃ができるわ。装弾数三発」
「デメリットはないのか」
「『ソウル・ライフル』は『ソウル・ガン』の進化系だから覚えれば『ソウル・ガン』を忘れることになるわ」
どこでも出せて、命中精度が高い。それでいて装弾数も増えるのなら魅力だ。
「なかなかに強力なギフトだな。もう一つはなんだ」
「『幽霊船』よ。所持している船を自分が幽霊化すると同時に幽霊化させるギフトよ」
「面白いギフトだな。積荷や積んでいる悪魔はどうなる」
「キルアの所持品だった場合は一緒に幽霊化するわ。他人の荷物なら幽霊化時に船をすり抜けて海に落ちるわ」
注意が必要なギフトだ。効果によっては大惨事や大損を招く。
「船に乗っていた悪魔や人間はどうなる」
「当然にキルアの所持品じゃないから海に落ちるわね」
「乗員も海に落ちるのか?」
ラーシャが利発な顔で付け加える。
「そうね。キルアが直接支配している水夫スケルトンは物扱いだから一緒に幽霊化するわよ」
キルアは疑問に思った内容を尋ねた。
「幽霊なら物をすり抜ける。とすると。もしかして『追い風』と併用すれば船で陸を進めるのか?」
ラーシャがサバサバした表情で意見する。
「そうなるわね、七分後に実体を持った時に船底が壊れて動けない。物体と重なっていれば全損扱いになるわよ」
幽霊側からの攻撃は当たるなら、幽霊船ではどうか。
「四インチ魔道砲はどうなる。撃てるのか?」
「撃てるわよ。幽霊船になっても機能は失われないわ。威力はグッと落ちるけど」
「幽霊船の重さはどうなる。幽霊だからゼロに近いのか? たとえば、帆の向きを変えて、『追い風』のギフトを上方向に受ければ、幽霊船は空を飛ぶのか?」
ラーシャが澄ました顔で認めた。
「空を飛ぶでしょうね。どういう風に動くかわからないけど。実体化して落下した時には完全にバラバラでしょうけど」
「『幽霊船』凄いギフトだな。強いな、彷徨える海賊デーモン」
ラーシャは素っ気ない態度で注意した。
「キルアがなんらかの事情で幽霊化したとする。その時に船を出していれば、『幽霊船』は無条件で発動するわよ。幽霊化したときにサモン・シップを唱えても同じ」
「それぐらいの難点は目を瞑ろう。よし、『幽霊船』のギフトをくれ」




