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第二話 ベビー・デーモンと危険な島

 息を整えてフタフラと歩き出した。目の前に蜜柑箱(みかんばこ)くらいの木箱があった。


 木箱の横には立て札があり「生存おめでとう」と書いてあった。明らかに人の書いた文字と立て札だった。


 辺りを見回すが人影はない。正面を見れば、密林に覆われた高さ三百mほどの山があるだけだった。


「誰かいるのか?」と大きな声を出す。だが、波の音のみが聞こえる。木箱を開けると、長さ八十㎝ほどの棍棒が入っていた。


「貰ってもいんだろうけど、なぜ、棍棒なんだ? ナイフとかのほうが役に立つだろう」

 疑問に思ったが、ありがたく頂いた。未知の島を肌一貫で歩きたくはなかった。


 右周りに五分ほど歩くと、たわわに実ったナツメヤシの木が見えた。何も食べていない状況も思い出す。

ナツメヤシの木に向って行くと、ナツメヤシの木の下に人間の骸骨があった。キルアの危険感知センサーが働く。


 人が死んでいる状況は、何か危険な物があった証拠だ。ナツメヤシの木は罠なのだろうか?


 周囲に気を配る。危険なものは見当たらなかった。空腹感が、ナツメヤシの実を早く腹に収めたいと騒ぐ。


 ゆっくりとナツメヤシの木に近づいて行くと、骸骨が動いた。骸骨はモンスターだった。人の形に組み上がったスケルトンが短剣を手に、斬りかかってくる。


 棍棒で一撃を受けて、殴り返す。


 スケルトンは器用に上半身を反そらして避けた。そのあと、十合ほどスケルトンと打ち合うが、決め手を欠いた。


 スケルトンが砂を蹴り上げた。砂が顔に飛んできたので、思わず目を瞑った。

 危ないと思い、一か八かスケルトンのいた方向に棍棒を投げ付けた。


 骨が砕ける音がした。そのまま、距離をとって目を開けると、顔を半分ほど割られたスケルトンが立っていた。スケルトンはヨロヨロしていた。


「あともう少しで、勝てる」


 棍棒はスケルトンの足元にあり、取りに行くのは危険だった。キルアはじりじりとスケルトンとの距離を詰める。スケルトンは短剣を片手にタイミングを計っていた。


 再びスケルトンが、砂を蹴り上げようとした。キルアは、軸足になっているほうに飛びついた。


 スケルトンは後方に倒れた。すぐにキルアは立ち上がる。ジャンプしてスケルトンの頭を踏みつけた。バキッと音がして、スケルトンの頭蓋骨が砕ける。スケルトンはなんとか立ち上がろうとした。


 すぐさま棍棒を拾って滅多打ちにする。スケルトンはバラバラになり、遂に動かなくなった。空腹と疲労感が襲ってくる。キルアはよろよろと、ナツメヤシの木に近づいた。


 木登りはできるが面倒だったので棍棒で幹を叩く。熟れたナツメヤシの実が落ちてきた。

 急いで拾い、(むさぼ)るように食べた。少し歩くと水がちょろちょろ流れる音がした。


 密林から小さな小川が海に流れていた。小川の水を(すく)って飲むと、心地よい水の感覚が喉を通り過ぎる。生きている実感が持てた。


 立て札があったので、島に誰かがいるのは、確実だった。文面から、キルアがこの島に到達する未来を見越していたと思われた。


 誰かは知らないが、会えれば、助けてもらえるかもと、淡い期待を抱いた。

 海岸沿いに島を歩いて行く。二十分ほどで、浜に大きな物体が漂着している光景が見えた。


「何だ? 船だろうか?」


 駆け出しそうになるが、躊躇(ためら)う。船が悪魔のものとは限らない。人間のものなら危険だ。

 ゆっくり歩いて行くと、水夫らしき人間が大勢、浜辺にいるのがわかった。背格好から人間に見えた。


 用心して身を(かが)める。水夫たちは上陸の準備をしているのかと思った。それにしては動きがおかしかった。水夫たちは何をするわけでもなく、ウロウロとしている。


「何をしているんだ? 動きが変だぞ」

 キルアは密林に移動した。密林の中で姿勢を低くして、船にゆっくりと近づいていく。


 船から五十mほどのところに来て、わかった。水夫は人間ではなかった。スケルトンだった。


 浜辺には、四十以上のスケルトンの水夫がいた。水夫のスケルトンを見て、ピンと来た。

「こいつら知っている。水夫スケルトンだ」


 水夫スケルトンは強い魔物ではない。だが、ベビー・デーモンよりは格上だった。なぜ、水夫スケルトンがスケルトンより強く、ベビー・デーモンより格上の情報を知っているのか、不思議だった。


「俺はこの世界の情報を名前以外は何も知らないと思っていた。でも、違うのか? 俺は何かを忘れているのか? でも、何だ? 何を忘れている?」


 考えるが、答えは出なかった。観察すると、水夫スケルトンはボロボロだが、武器を所持していた。


「スケルトンより格上の水夫スケルトン。それも、武器を持ったのが四十以上か。これは、見つかったら、命がないな」


 船に目をやると、四十m級の帆船で、砂浜で座礁していた。船の甲板の上にも水夫スケルトンがいるので、船内には、まだモンスターがいそうだった。


「これはあれだな。船が座礁して、乗員全員が死んだ。それで、宝に対する執着が強くて、アンデッド・モンスターになったケースか」


 再度、気が付く、生まれたばかりなら知っているはずのない知識を覚えていた。


「俺はベビー・デーモンではないのか? でも、この格好は『ベビー・デーモン』そのものだ。俺は、いったい何者なんだ?」


 どんなに頑張(がんば)っても、知りたい内容は思い出せず、答えも出なかった。

「俺が何者かを知るためにも、まず、この島を出ないとダメだな」


 船長の姿を探すが、船長らしきスケルトンの姿は見えない。水夫スケルトンが、どこかに勝手に行かず、船を守るように配備されている。さらに強い船長クラスのスケルトンが船内にいると予想できた。


「この手の奴は近づいたり、宝に手を出したりしないと、襲ってこない。財宝がちょっと気になるところではあるが、命あっての物種だな」


 知るはずのない知識がすらすらと出てきた。段々と、自分がベビー・デーモンなのか、本当に生まれたてなのか、怪しくなってきた。


「そもそも何で、生まれたてのベビー・デーモンが漁船で漂流していたんだ?」


 知りたい重要な答えだけは覚えていなかった。あまりの頭の悪さに少々苛々した。

 答えの出ない問いを考えても、しかたない。いつか、思い出す。生きていれば、ではあるが。


 希望的な観測に過ぎない。誰かが答を知っているのかもしれない。されど、正解へ至る道はまだ遠い。


 来た道を戻り、砂浜に戻る。スケルトンが浜側にしか配備されていなかったので、船の海側の警備が気になった。


 海に入ると、海水の中に身を隠して慎重に泳いでいく。海中には水夫スケルトンはいなかった。海面から顔を出すと、船の側面から縄梯子が掛かっていた形跡があった。


 縄梯子は落ちており、船の窓も全て閉まっているので、海側からの侵入は無理そうだった。


「船の財宝をこっそり手に入れるのは無理か。少し惜しい気もするが、水夫スケルトンがうじゃうじゃいるなら、ここは無人島だ。財宝を手に入れても無価値だ」


 帰ろうとして海に潜ると、キラキラと光る何かを見つけた。

 近づいて拾うと、金の鎖が付いた、直径五㎝ほどの金メダルだった。


「あの船の宝の一部が、海中に落下したものだな」

 キルアは金のメダルを首から提げると、浜に戻った。


「俺が流れ着いた反対側に難破船がいて、浜辺に水夫スケルトンが、うようよいた。危険は、それだけであってほしい。でも、そうはいかないんだろうな」


 難破船と反対側に砂浜を歩いて行くと、動く大きな物体が見えた。すかさず密林に隠れた。


 密林に隠れて、そろそろと移動する。動く物体から三十mの距離に来る。動く物体大きなシオマネキだった。シオマネキは身長と幅が一m四十㎝あった。シオマネキが六体ほど、海辺で何かを食べていた。


 良く目を凝らすと、人骨のようなものが散乱していた。


「こっちも、格上モンスターの住処か。ここに流れ着いた人を食べて生きているのか。シオマネキの殻は固そうだから、棍棒で挑むのは無謀だな」


 地面が揺れた。地震だった。地震はすぐに収まったが、山の頂上からは煙が上がっていた。

「何だ? この島の山は活火山なのか?」


 いい気分はしないが、今すぐ噴火はないだろうと思い込む。そうでも思わないと、精神衛生的に、やっていられない。

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