第十九話 海賊デーモンとサルバドデス開戦
三回目の船を出した時のことだった。航海二日目にハリトンが見張り台から叫ぶ。
「海賊だ。航路を変えたのにここにも出やがった。俺たちに何か恨みでもあるのか?」
「おいおい、本当に嫌になるぜ」
傭兵団長の髑髏の魔術師が船倉から出てくる。
髑髏の魔術師が不機嫌な顔で訊いてくる。
「戦ったほうがいいか?」
「逃げきれるなら、逃げたほうがいい。海賊は最近、新兵器とか秘密兵器で兵装している」
「有り得るな。海賊の裏に国家がいる、との噂もある」
普通なら振り切れるが注意が必要だった。
「俺の船のほうが速い。逃げ切れるとは思うが、念のためだ。何人か腕の立つのを甲板に上げくれ」
「やる事がなくて、暇にしている奴もいる。運動がてらにちょうどいい」
髑髏の魔術師は六人の傭兵を甲板に上げた。
船が速度を上げて振り切ろうとした時に事件は起きた。水夫スケルトンが船の帆を降ろそうとし始めた。
「おい、何をしている。止めろ!」
キルアが指示を出すが、水夫スケルトンは命令を聞かない。水夫スケルトンが帆の一つを下ろす。急激に船の速度が落ちた。水夫スケルトンはもう一つの帆を降ろそうとする。
キルアは帆を下ろそうとしている水夫スケルトンを『ソウル・ガン』で撃った。
水夫スケルトンが弾け飛ぶ。
髑髏の魔術師が異変を察知して叫ぶ。
「どうした船長」
「水夫スケルトンがおかしい。海賊に操られたかもしれない。全て破壊してくれ」
キルアの指示で傭兵たちが水夫スケルトンを破壊に懸かる。異変を感じて傭兵たちも次々と出てきた。水夫スケルトンは武器を手に、傭兵に襲い掛かった。
傭兵たちと水夫スケルトンが戦っている間に、キルアは船と意識を同調さる。自動で帆を上げ直す。傭兵が反乱を起こした水夫スケルトンを全て破壊する。どうにか、帆を上げ直した時には海賊船はかなり接近していた。
ドンと音がして船が揺れる。海賊船とキルアの船が衝突した。傭兵たちが海に投げ出されそうになる。何とか皆ぎりぎりで堪えて、海には誰も落ちなかった。
キルアの船に海賊が乗り込もうとする。傭兵と海賊の乱戦が開始された。海賊船を引き離したいがうまく行かない。
船に意識を合わせる。衝突の際に舵をやられていた。『船体修理』の効果を舵に働くように注力する。傭兵たちは強く、海賊を各個撃破していく。だが、数は海賊が多い。このままでは押し負ける。
舵が回復して船が動くようになった。『追い風』の効果で船の帆が張られる。海賊船に船体を擦りながらキルアの船は前に進んだ。海賊船とキルアの船の距離が開く。
海賊たちは船への乗り込みを中止した。勢いがついてしまえば、海賊船を引き離すのに苦労はなかった。
バリトンが見張り台から叫ぶ
「船長、もう大丈夫だ。海賊船が見えなくなった。俺たちの逃げ切り勝ちだ」
傭兵たちが緊張を解く。キルアも安堵した。
髑髏の魔術師が厳しい顔で尋ねる。
「こういった海賊の襲撃はよくあるのか」
「戦争の機運が高った頃から増えた。今までにない、あの手、この手で、襲ってくる」
夜が明けて朝になった。見張り台いるバリトンが大声で警告する。
「船長。ここで、ちょっとストップだ。船が近づいてくる」
「港までもう少しのはずだ。こんな近くで海賊か?」
傭兵が武器を持って船倉から出る。バリトンが注意する。
「違う、海賊じゃない。サルバドデスの旗を掲揚している。海軍の臨検だ。おかしな行動を取るな。海賊船と誤認されると沈められる」
バリトンの指示に素直にギルアは従った。キルアは『追い風』のギフトを中止する。錨を下ろして停止した。四十五m級の船が、ぴったりとキルアの船に横に寄せる。
赤い服を着て帽子を被った人間の軍人が顔を出す。軍人が険しい顔で訪ねる。
「そこの船、サルバドデスに何の用だ?」
「何って、サルバドデスのために戦う傭兵を運んできたんだ」
キルアの顧客である、傭兵団長の髑髏の魔術師が出てくる。
髑髏の魔術師が嗄れた声で告げる。
「既に町長のテイラーとは契約してある。ここで停められたら戦場に行けない」
髑髏の魔術師が書類を提示する。軍人は書類を確認する。
「行け」と軍人が厳しい顔で命じた。
キルアは船を進め、港に接岸させた。港に商船は見えなかった。五十五m級の軍艦三隻と四十五m級の帆船が二隻、停まっているだけだった。平時には見られない光景だ。
サルバドデスは海上封鎖に近い状況にある。海側から街に攻め込まれないための軍艦の配置だ。船が着くと、荷物を持った傭兵団の悪魔たちは下りて行った。
「街をちょっとばかし散歩してから、帰りたいんだがいいか?」
バリトンは、苦々しく発言した。
「俺はすぐにも帰りたいぜ。おそらく、もう戦争が始まっている。ここからじゃ城壁の外はわからねえ。だが、いつ敵が海側から来てもおかしくはねえ」
「街を見て飯を喰ってくるだけだ。土産話にはなるだろう」
「冥土の土産にならなきゃ、いいんだがな」
バリトンを置いて、大通りを歩いて行く。
《陸の海豚亭》が開いていたので入るが客はほとんどいなかった。
ロイエンタールも逃げたのかいなかった。店にいた中年の女性給仕に尋ねる。
「客足がぱったりだね。みんな、どこに行っちまったんだい」
給仕は苦い表情で語った。
「今頃は城壁の上か、墓の中さ。この街は国王派によって攻められているんだよ」
「なるほど、男たちは戦争中か。それで、街は落ちそうなのか?」
給仕はむっとした顔で言い返す。
「この街の壁は厚い。金もある。傭兵も充分にいる。今日明日中に陥落って事態には、ならないよ」
「そいつはいい。なら、一杯だけ飲んでいこう。エールをくれ。あと、ソーセージがあれば、適当に」
給仕は怖い顔でキルアを睨む。
「見たところ、あんたは街のために戦いにきた傭兵じゃないね。サルバドデスに何の用さ?」
「俺の仕事は傭兵じゃない。傭兵をサルバドデスに運ぶのが仕事さ。つまりは味方だ」
女性給仕は不機嫌な顔のまま、注文の品を持ってきた。
エールを飲み、ソーセージを喰らう。
店を出て、城壁のほうに歩いて行く。人々の怒号と魔法が飛び交う音が聞こえてきた。
キルアは羽を広げる。近くの高い建物の屋根から、戦場を観察する。戦いは攻城側が防衛側の三倍以上はいそうだった。
給仕の話していた通りに城壁は厚い。門も頑丈だった。サルバドデスはすぐには落ちそうに見えなかった。
「お前、ここで何をしている」
いつの間にか、背後を取られていた。振り返ると、羽を生やした悪魔が三人いた。うち一人は見知った顔だった。鉄壁傭兵団のレーガだった。レーガは怖い顔をしていた。
キルアは弁解した。
「レーガさんだったか。ちょっと、戦場を見物に来た」
レーガが武器を納める。
「戦場は見世物じゃない。とっとと帰ってもっと傭兵団を運んで来い」
「この戦いサルバドデスに勝ち目はあるのか?」
レーガが苛っとした顔で言い放つ。
「勝たせるために、我々は雇われている」
「そうだった。邪魔したな。なら、帰るわ。ライバルがいないから、運送業は繁盛しそうだ」
キルアは大通りに下り立つと、小走りに港に戻った。
バリトンが冴えない面で訊いてくる。
「それで何か、収穫はあったのか?」
「サルバドデスは今日明日中には落ちないが、このままじゃ危険だ。現時点で敵は三倍だ」
バリトンが息を吐くと、頼む。
「敵は三倍か。ならとっとと出て行こうぜ。夜に出れば人間には発見されづらい」
夜中二船を出して、帰路に就く。二日目になると、見張り台のバリトンが大声を上げる。
「船長、まずい。人間の軍艦だ。八十五m級が八隻もいやがる」
キルアは大きく船を迂回させる『追い風』を使用して速度を増す。軍艦は別の目的があるのか、キルアの船を追ってこなかった。国王派による海側からのサルバドデス攻略の準備は整った。大規模な海戦が行われる。
©2018 Gin Kanekure
【更新停止のお知らせ】
「ベビー・デーモンからのスタートだが、それがどうした。俺はもっと強くなる【キルア編】」の更新を停止させていただきます。この話をもって完結になります。
【ユウタ編】よりは読者に受け入れられたのですが、まだ、実力が及びませんでした。
PVも数日で最盛期の約20%まで落ち込み、大多数の読者は去りました。
今日まで応援してくれた読者の方には感謝しております。
悲しいですが、それでは、また次の作品でお会いしましょう。
2018.7.26 まだ、読み足りない方は新作の 『あくまで悪魔デス。いけるとこまで金の力でレベル・アップ~【キルア&ユウタ】編~』をお勧めします。




