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第十六話 海戦デーモンの進化

 五日後に《漁火亭》に行くと、エルモアが約束の金貨十五枚を払ってくれた。

 手元に残った金貨は八十一枚。完全な赤字だった。


 船の装備を調えて海に出る資金はある。だが、乗員と荷主を見捨てて逃げ帰った。そんな船に乗る船員が果たして何人いるのか、わからない。


 バリトンも他の船に乗ったらしく見当たらない。海運業はしばらく無理に思えた。

「金があるうちに、レベル・アップをするか」


 街にある悪魔神殿に行く。悪魔神殿は周囲が百mほどしかない黒塗りの長方形の建物だった。受付でレベル・アップに来た用件を伝える。


 一辺が五mの部屋に通された。椅子には既に、ラーシャが座って待っていた。


 ラーシャが冷たい顔で告げる。

「噂は聞いたわよ。事業で失敗したんだって?」


「でも、金は残った。レベル・アップを頼む」


 ラーシャが鼻で笑って、傲慢に発言する。

「別にいいわよ。私たちはお金さえあれば文句はないわ」


 机の上に金貨を出す。ラーシャが手を翳すと、金貨は一枚を残して消えた。

「銀貨換算で八千枚、確かに頂いたわ」


 体が仄かに青く輝く。暑さは感じなかった。

「強くなった気がしないな」


 ラーシャが素っ気ない態度で告げる

「でも、着実に強くなったわよ」


 ラーシャが机に手を翳すと、四枚のカードが現れた。

 四枚のカードには、簡単な説明が書いてあった。


 ガラパス……海中に住む中位悪魔。水中での戦闘が得意。


 卑怯デーモン……卑劣なことが得意。人間の心が読める。


 商人デーモン……悪魔の商人。物の価値がわかる査定ができる。


 海賊デーモン……船を操り海上で戦うことに長けた海のデーモン。


 視線が卑怯デーモンのカードに目が行く。


「人の心が読めるとは面白そうだ。能力の使い方によっては、大儲けもできるだろう。だが、何か、ネーミングが嫌だ。それにあまり魅力を感じない」


 卑怯デーモンのカードが机から消え、ガラパスのカードに目が行く。

「このガラパスって、のはどんな悪魔なんだ?」


 ラーシャがつんとした顔で説明する。

「水中で生活ができる悪魔よ。水中での戦闘が得意ね。魔法も少しは使えるわ」


「ガラパシャにも勝てるのか?」

 ラーシャは馬鹿にしたような態度で言い放つ。


「五十人もいれば、勝てるんじゃないかしら。ただ、ガラパシャ相手に、そこまでの大集団で行動するのは、悪魔王様の命令が下る時ぐらいよ」


「これも、なくていいか。ガラパシャ相手に戦いを挑むなんて、レベル六なら無謀だ」


 ガラパスのカードが机の上から消え、次に商人デーモンに目が行く。

「こいつは、生活系悪魔だな。それで、査定の能力はどこまでわかるんだ?」


 ラーシャが素っ気ない態度で軽い調子で語る。


「査定ができれば、いつ、どこで、どんな値段になるか大まかにわかるわ。要は損しないための能力ね。もっとも、ギフトでどんなのが当るのかによって、変わるけどね」


 「商売はする気がない。価格がわかっても、コネや(つて)がないと商品を(さば)けない可能性がある。つまり、俺向きじゃない」


 最後に残った海賊デーモンに目が行く。


「順当に行くなら、ここだな。海賊家業はするかどうかわからない。でも、せっかくの魔法の船を無駄にしたくない。操船が上手ければ、もっと役に立てるかもしれない」


「おれは海賊デーモンに進化する」


 体が青く光るが、外見上は変化がない。

「レベル五から六の進化って、地味だな」


 ラーシャは気軽に言ってのける。


「着実に強くなっているわよ。海賊デーモンは少しだけど水圧適応能力が付くわよ。水中でも海戦デーモンより自由に動けるわ」


「水中でより戦えるようになるのか。海上戦だけでなく水中戦もできる、と」


 ラーシャが素っ気ない態度で付け加える。

「ここまで来る悪魔は大勢いるけど、ここから先が大変よ」


「わかった。じゃあ、ギフトのほうを頼む」


 ラーシャが難しい顔をして語る。


「一つ目は『追い風』ね。天候状態や風の状態に関わらず、船を所有していれば、帆に追い風が吹いているかのごとく、船が影響を受けるわ」


 船がないやつには無意味なギフトだが、キルアにとっては事情が違う。

「帆船を所持していれば、かなり強力だな。凪の状態でも、すいすい進めるってことだろう?」


「逃げる時にも、便利ね。直線速度なら、かなりスピードが出るわ」

「ほとんど決まりだけど、もう一つのギフトは、何だ?」


 ラーシャが澄ました顔で教えてくれた。

「『水夫スケルトンの召喚』よ。レベルの二倍以下の数の水夫スケルトンを直接支配で召喚できるわ。レベル六なら、十二体ね」


「前に同じようなギフトがあったろう?」

「以前のギフトは『水夫スケルトンの創造』よ」


「どう、違うんだ?」


 ラーシャが慣れた調子で説明する。


「『水夫スケルトンの創造』は、水夫スケルトンを作るのに死体が必要だったけど。『水夫スケルトンの召喚』には死体は必要ないわ。呼べば異空間から出てくるわ」


 こっちも、魅力的なギフトだった。

「つまり、そいつがあれば、船を実質的に一人で動かせるんだな?」


 ラーシャが何食わぬ顔で注意する。


「買い物は難しいから、補佐役が一人か二人は要るでしょうけどね。あと、水夫スケルトンは船上での作業ができるけど、レベル二だから強くはないわよ」


「わかった。『死者の支配』を忘れるから『追い風』と『水夫スケルトンの召喚』をくれ」


 キルアの体が金色に輝く。

 ラーシャが穏やかな顔で、やんわりと警告する。


「キルアは人間の新米冒険者を全滅させられるほどに強くなったわ。でも、力を過信しないことね。ここからのレベル・アップは難しいから」


「ちなみに次のレベル・アップに必要な銀貨は、金貨換算で百六十枚か」

 仕事は終わったとばかりに、興味のない顔で、ラーシャがさらりと発言する。


「そうよ。頑張ってね」

「いわれなくても、頑張るよ。その前に休息だな」


 キルアは次なる冒険に向けてしばし、休息を摂る。

種族   海賊デーモン レベル六


能力   暗視 人間化(戦闘能力八割) 飛行(連続二十時間)

     水泳速度アップ 無呼吸行動五分間  水圧耐性(小) 水中行動ボーナス


ギフト  『水夫スケルトンの召喚』『追い風』『船体修理』

     『お宝発見』『ソウル・ガン』


魔法   サモン・シップ


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