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第十一話 海戦デーモンと奇跡の石

 キルアは三日後、奇跡の石を掘りに行くために港にいた。

 荷運びの仕事は年中ある。奇跡の石を掘る仕事は年に一回。この機を逃すと一年間は機会がない。


 船は四十五m級の帆船五隻で行く。帆船には右舷と左舷に四インチ魔道砲が八門ずつ備え付けられていた。


 船には操船と砲撃要員として十名の水夫スケルトンが乗っていた。採掘要員は船毎に二十名が乗っており、採掘要員にはピッケルと背負い籠が支給された。


 キルアが乗った船は三番艦だった。船が出ると風が良い具合に出ていた。船は順調に進んだ。予定通りに七日目になる。


 島が見えてきた。島の一部が白く光っていた。

「なんか光ってやがる。不思議な島だな」


 隣のデーモン・ゴブリンが神妙な顔で教えてくれた。

「あの光っている場所に奇跡の石が湧き出すのさ。光具合からして、今日中には湧くぞ」


 船長の声が響く。

「人間の船が来たぞ! 戦闘用意!」


 水夫スケルトンが魔道砲の砲身に魔力の籠もったカートリッジを装填して、発射準備をする。


 キルアは他の悪魔たちと一緒に船倉に避難した。

 デーモン・ゴブリンが緊張した顔で告げる。


「いよいよ始まるぞ。人間との競争だ」

「俺たちは黙ってここにいるだけでいいのか?」


 デーモン・ゴブリンは険しい表情で語る。

「いいや。砲手の水夫スケルトンが死んだら魔道砲を操って砲撃だ」


「砲撃って、簡単にできるのか?」

「砲撃は簡単だ。カートリッジを挿し込む。角度を調整して発射レバーを引く。それだけだ」


「それくらいならできそうだな」

 水夫の服を着た、牡羊の顔を持つ悪魔がいた。レッサー・デーモンと呼ばれる悪魔だ。


 レッサー・デーモンは、デーモン・ゴブリンとは別の内容を叫ぶ。

「砲手に加わる事態は考えるな。俺たちの役目は奇跡の石を掘って帰ることだけだ」


「どちらが正しいってわけじゃない。どうするかは臨機応変に対処せよ、ってことか」

 ボン、と音がして砲撃が始まった。ドボンと音がして、船が揺れ始める。


 砲撃の音が激しく響く。バンと船が破損する音がする。バンバンバンと音がして船の右側面が大きく揺れる。


 船の右側面の板が弾け飛んで、穴が空いた。


 レッサー・デーモンが怖い顔をして叫ぶ。

「まずい、船が沈むぞ」


 乗員は籠を背負ってピッケルを片手に我先へと甲板上がって行く。敵の攻撃が命中して右側面に穴が空いていく。


 甲板に上がった時には、船は右側の魔道砲が全て破壊されて、人間側から一方的に攻撃を受けていた。

 マストが折れ、船が右に傾いた。キルアは他の乗員と一緒に船から飛び降りた。


 船が大きく軋む音を立てると、沈んで行く。

 辺りを見回すと島までは百m。泳いで行けない距離ではなかった。


 島に泳いで行く。先に上陸した悪魔たちに、人間の船から白く光る魔法の砲弾が飛ぶ。


 砲弾が破裂すると、悪魔を吹き飛ばした。

「下手に上陸すると、砲弾の餌食だ。上陸のタイミングを間違ったら終わりだ」


 状況を確認すると、人間側の船も沈んでいる。残っている船は悪魔側二隻、人間側が三隻と不利だった。人間側の船に近くにいた悪魔は船上からの魔法攻撃を受ける。次々と海中に没していく。


 キルアは自分の船を出すかどうか、迷った。

「まだ俺の船を出す時ではない。下手に船を出せば、的にされて沈められる」


 人間の船から泳いで距離をとる。島からは二十mの距離を保った。人間の三隻目の船が沈み、海戦は二対二になった。


 海面が揺れた。島の中央が白く輝くと、直径高さ五mの幅の広い柱が立ち上った。


 島にいた悪魔たちは我先にと柱に群がり、ピッケルを振るう。キルアも急いで島に上陸する。百mほど走って、柱に近づきピッケルを振るった。


 柱は脆い。ピッケルの一撃でボロボロと崩れる。崩れた奇跡の石を背負い籠に入れる。


 悪魔の船が二隻、接岸してきた。

「急げ、急いで掘って、船に乗るんだ。ゼナがやって来るぞ」


 どこまで掘って、どこまで籠に詰めるか迷った。多く持ち帰らねば金にならない。だが、あまりもたもたしていると、船に乗り遅れる。


 焦りながら奇跡の石を採掘する。籠に七割ほど詰めたところでピッケルを捨てた。船に向かって走った。奇跡の石は、それほど重くはなかった。


 船から十五mの地点で船が走り出した。キルアは船に乗ろうとしたが置いていかれた。

 空が急に明るくなった。全長三十mの真っ白い鳥が空に現れた。


 鳥が口を開けると、白い光の線が船を打った。バンと音がして次に出ようとした船の一隻が真っ二つに割れた。乗員が海に投げ出される。


 誰かが叫ぶ声がする

「ゼナだ! ゼナが出たぞ! 海だ。海に避難だ」


 ゼナが口を開くと、今度は直径二mの光る弾を吐く。


 光る弾に当たった悪魔は跡形もなく消え去る。ゼナは島に残っている悪魔を邪魔に思ったのか、次々と光の弾を吐き、悪魔たちを葬っていく。


 キルアは海に逃げた。籠を背負って海を泳いだ。海には船を破壊されて行き場を失った悪魔が多数、浮かんでいた。先に出た一隻目の船は、戻って来る様子はなかった。


 海から島を見る。ゼナは邪魔な悪魔を追い払って満足していたのか、残った奇跡の石を食べていた。逃げるなら今しかないと思った。


 サモン・シップの魔法を唱えると、異空間より三十五m帆船が現れる。


 キルアは船から下りる縄梯子を掴む。キルアが縄梯子を上がると、船に悪魔が泳いで寄って来る。キルアに続いて次々に悪魔がキルアの船に乗り込む。 


 キルアは船長室に奇跡の石が入った籠を入れて、操舵輪を握る。


 船に乗っている悪魔が叫ぶ。

「おい、人間の船がこっちに来るぞ。奪いに来やがった」


 船には十名の悪魔が乗っている。だが、海にはまだ三十以上の悪魔が残っていた。


 船の上の悪魔が急かす。

「船長、早く船を出してくれ! このままじゃ捕まる」


 海上の悪魔が、悲痛な声で嘆願する。

「待て! 待ってくれ! 置いていかないでくれ!」


 キルアはどこまで待つか、難しい判断を迫られた。キルアとしても多くの悪魔を救いたいが、時間が経てば経つほど人間の船は近づいて来る。


「行け!」「待て!」の怒号が辺りに木霊する。


 ドンと近くの海に人間側の魔道砲の弾が着水した。敵の射程距離に入ると思ったので、帆を上げる。風を受けて、船が進み出した。


「待ってくれー」と怒鳴るような声が聞こえるが、もう待てなかった。

 ドン、船の左舷に敵の砲弾が命中する。船の左舷から木片が弾けとぶ。


 弾を撃ち返そうとした悪魔が叫ぶ。

「おい! この船弾がないぞ」


 余分な金がないので魔道砲のカートリッジは積んでいない。事前に船があると申請していれば弾を分けてもらえたかもしれないが、もう後の祭りである。


 船は風を受け、徐々に速度を上げて行く。


 人間たちの船が迫ってきていた。敵の砲弾も降り注ぐ。二発目の砲弾が命中する。船が木片を上げ弾けて飛ぶ。


 付近の海には外れた砲弾が降り注ぎ水飛沫(みずしぶき)を上げていた。三発目の砲弾が命中する、船の船首に穴が空く。


 悪魔の悲壮な声が響く。

「船長、どうにかしてくれ! このままじゃ、沈められる」


 心の中でキルアは悪態をついた。

「どうにかしてくれって頼まれても。どうにもできねえよ」


 帆が風を受けて速度を上げる。砲弾が降り注ぐが、船の後方に着水する。

 船がそのまま速度を上げて進むと、砲弾の攻撃範囲を脱した。


 デーモン・ゴブリンが、後ろを見ながら語る。

「人間の奴ら、海に取り残された悪魔を狩って、奇跡の石を奪ってやがる」


 船に運よく乗れたレッサー・デーモンが、心配そうな顔をする。

「人間の奴ら、追って来ないかな?」


 デーモン・ゴブリンが厳しい顔で告げる。


「追っては来られないだろう。こっちの船のほうが小さいから速い。ただ、他の人間が先で待ち伏せして襲って来る可能性はある」


 待ち伏せされ襲撃されれば、弾がない船で戦えるとは思えなかった。

 待ち伏せされたら終わりだ。だが、他にも問題があった。


 キルアは正直に申告した。

「他にも問題があるぞ。街まで七日は掛かるが、この船には水と食糧がない」


 キルアの言葉に船がシーンとなった。

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