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竜人戦記~故郷への旅路~  作者: りゅうちゃんDX
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第四話



◇◇


 

 俺は今草原を歩いている。


 人の往来と馬車の轍によって踏み固められて草が生えていない街道を、竜人族の体に合わせて作られた全身鎧に大盾と大剣を背負い、見る人にまるで重さを感じていないように思わせる軽やかな歩みで進んでいる。


 ……脇にオーシャンを抱えながら。



◇◇



 握手してから様々な質問をした。


 どうやらあの村、エルバ村は盗賊の装いの者達によって襲われたらしい。


 最近大きな戦があり、その逃亡兵や敗残兵が野党の真似事をして、周囲の村でも被害が拡大していたようだ。


 エルバ村はさほど戦場から近くないため備えをしておらず、結果としてあのようなことになったそうだ。奇襲であったためにろくな反撃もできず斬殺されていったのだろう。


 オーシャンが生き残っていた理由はというと、冬場に備えるための床下食糧庫へと両親によって押し込められたということらしい。死と孤独の恐怖に怯えながらそのまま眠ってしまったらしく、火葬しているときに起きたのだ。


 家には血の痕が残っていたため両親はおそらく亡くなったようだ。ゴーレムたちが死体を回収したんだろう。


 夜であるために焚火を囲みながら話を聞いていたのだが、その炎を見て火葬を連想させたのか、気丈に振舞っていたオーシャンはグスグスと泣いてしまった。しかし、俺は慰めを言うつもりはない。こういうときには泣くのが一番だし、他人が口出しすることでもない。


 そしてそのまま会話は終わり、地面に一人と一匹が横になって一晩過ごした。


 翌朝になって『異次元収納』から取り出した食料と水を口に運びながら、旅に出ることにした。


 このままここに残っていても一人と一匹ではどうしても限界がある。状況から言えば妥当な判断だと思う。


 そして俺たちは手始めに資金集めとして、村中を探し回ってお金を集めた。盗賊のようで少し気が引けたが、(オーシャンが)生きるためにはしかたないだろう。ただ、ここを襲ったのが盗賊だとしてなぜ金を持って行かなかったのかというのが気になった。


 それよりももとは人間であったとはいえ、別の種族である俺でさえ少し気が引けているのに、嬉々として村を荒らしまわっているこいつはどうしたものだろうか……まあ、無理やり明るく振舞っている、ということにしておこう。


 結果として銀貨四〇枚と銅貨六四枚が見つかった。オーシャン曰く、銀貨一枚、つまり銅貨百枚で三人家族が一週間暮らせるとのことなのでそこそこ集まったと考えるべきだろう。


 ちなみにゲームの共通貨幣である金貨をオーシャンに見せたところ、これでもかというほどに鼻の穴を広げて興奮し、寄越せと迫ってきたので睨みつけたらすぐに静かになった。しかし、それでもなお「俺がリーダーだから俺が金を管理すべきなんだ……」とブツブツ言っていたがすべて無視だ、無視。


 それと、体の刻印について質問を受けて初めて隠すための装備をしていなかったと気づき、鋼鉄製の全身鎧に大盾と大剣を背負った。ゲームではステータス画面から装備を選択すると、一瞬で装備できたのでやろうとすると、装備の部分が消えていた。仕方なく自らの手で装備しようとすると、自然と手が動いて装備することができた。


 刻印は魔法の使用のためだと説明すると、目をキラキラと輝かせていた。


 魔法が使えないのかと聞くと、残念そうな顔をしながら魔法学院でしか学べないんだと言っていた。


 魔法学院という言葉に興味をひかれたので機会があれば行ってみたいと思う。


 それとオーシャンがちょっとかわいそうだったのでたまに教えてやると言うと大はしゃぎしていた。……魔法を少し勉強したほうが良さそうだ。


 オーシャンの服は移動に適していないので、『異次元収納』の肥やしとなっていた人間用の初心者装備一式を与えるとまるでクリスマスプレゼントをもらった子どものように喜んでいた。【可変】の効果が付与されているので、子どもでも装備者にとって最適な大きさに変わるのだ。


 さらに、どこから道具を取り出しているのかも質問されたがそれについては黙殺しておいた。というか『異次元収納』がどういう仕組みになっているのか俺にもわからなかったので説明のしようがなかった。


 翼が邪魔だなと思っていると若干の痛みとともにゴキゴキという音を響かせながら体の中へと消えていった。べつに背中が膨らんでいるということもない。不思議だな。


 すべての準備が終わり、オーシャンを先頭に旅へと出発した。


 そして話は冒頭へと戻る。



◇◇



「お、オッズ……下ろしてくれ。俺は……俺はまだ歩けるぞ」


 俺の腕にだらんと垂れ下がっているオーシャンはそんなことを繰り返し言っている。しかし、口から出てくる言葉と声の張りが合っていない。


「ダメダ、オ前ニ合ワセテ歩イテイタラ日ガ暮レル。今日ニハ【メッケル】ニツイテオキタイ」


 メッケルとはエルバ村にもっとも近い城塞都市であり、ここら一帯を治めるメッケル男爵の拠点、つまり領都ある。領都ともなればそれなりの軍事力を有しているはず。盗賊のことを報告して警戒を促す、というのがオーシャンの提案であった。馬鹿ではあるが、賢くないわけではないんだなと感心してしまった。


 そして意気揚々と出発したはいいが、二時間ほどでオーシャンの足は棒のようになってしまい、進行速度が極端に落ちたのだ。普通に歩いて六時間ほどとのことなのでまだまだ先は長いのだが、このままでは夜中になっても着かない可能性があるため現在の状況になっている。


 飛んで行こうかとも考えたが、やはり目立つのは避けたい。ただでさえこんな姿なのだ。警告も無しに攻撃がとんでくることも考えられる。


 全く難儀なものだなあと考え、風景を楽しんでいると、常時発動させていた『生命力探知』と『魔力探知』に今までにない反応があった。


 立ち止まったことを不思議に思ったオーシャンが「どうかしたのか?」と問いかけてくるが、俺はそれには答えず振り返り目を凝らす。


 そこには俺たちが先ほど越えた丘があるだけで何も見えない、しかし、俺にはわかる、何かが迫ってきているのが。


 更なる情報を集めるために『聞き耳』を使って聴力を何倍にも引き上げる。すると、大型の動物が二頭にガラガラと転がって音を立てるもの、おそらく馬車の音が聞こえてくる。さらにはその後ろを追いかけるようにして一八体の動物がいるのもわかった。


 予測としては二頭立ての馬車が魔獣の群れに追われているという状況だ。移動する速さが尋常ではない。ことからも察せられる。


 相当な距離を走ってきたためか、馬の息はかなり荒くなっており、命は風前の灯火となっている。潰れてしまうのも時間の問題だろう。


 ここに達するまでに少しだけ時間がある。それまでにどうするか決めなければ。


「オイ、大丈夫カ」


 腕を動かして抱えているオーシャンを揺する。俺一人ならばさっさと面倒ごとからは逃げるのだが、ここにはオーシャンがいる。それに建前とはいえこいつはパーティーのリーダーだ。判断を仰ぐのは当然だ。


「大丈夫……なわけがあるかッ! 揺するのをやめろ! ただでさえ疲れてるのに気分が悪くなったらどうしてくれるんだ!」


 怒鳴るだけの元気があるならもう大丈夫だろう。地面へと放って乱暴に下ろす。


 急に下ろされたことに驚いた声をあげ、次は尻餅をついたことに不満の声をあげている。まったく、忙しいやつだ。


「リーダー、後ロカラ何カガ来テイル」


「何ッ!?」


「オソラク馬車ダ。何カニ追ワレテコッチニ向カッテ来テイルゾ」


 再び驚きの表情を浮かべたオーシャンはそれを聞いて真っ赤にしていた顔を一瞬で青白くしていた。


「ドウスル? 逃ゲルカ? ソレトモ助ケルカ?」


 数秒神妙な顔つきで考えて結論を出した。


「……助ける。放ってはおけないからな」


 俺としては自分の身すら危ういやつが人の心配をするなど傲慢だと思ってしまうがそれは言わない。こいつの選択がどういう結末を生み出すのか見てみたい。


「ワカッタ、デハココデ迎エウトウ」



◇◇



 それから一分と経たないうちに丘の向こうから馬車が現れた。


 御者は無精髭を生やした中年の男で、顔から汗を滴らせながら必死に馬へと鞭を打ち、たまに何かを恐れるように後ろを振り返っている。


 また、馬車は帆付きのものであり、いくつもの木箱が積載されている。


 さしずめ男の正体は行商人だろう。村かどこかで商品を仕入れてその帰りというところだろう。


 そしてその行商人と思われる者が必死に追いつかれまいと逃げていたものが現れた。


 それは狼というにはあまりにも大きかった。


 普通の狼よりも体格だけでなく凶悪な鋭い牙を持ち、足の筋肉がはちきれんばかりに発達している。


 こいつはゲームの中にも存在した魔獣、フィールドウルフだ。


 主に草原に生息しており、見た通り走ることに特化している。その凄まじいまでの持久力は一度獲物と見なされた場合、殺すか殺されるかしない限り永遠と続く鬼ごっこを生み出すのだ。


 そして、ウルフ系の魔獣がその力の真価を発揮するのは集団戦だ。五から二〇匹ほどの群れをなして行動し、まるで一つの生き物であるかのように流動的に動くのだ。


 この群れは一八匹で構成されており、群れの中心にはリーダーだと思われる、他よりも一際大きい個体がいる。それはおそらく上位個体のハイフィールドウルフだ。体中に刻まれている傷跡の多寡でその経験の多さを予測することができる。戦うことになれば一筋縄ではいかないだろう。


 そう、俺でなければ。


 俺は大剣と大盾を握りしめ、オーシャンは俺が与えた初心者用の剣と盾を持って臨戦態勢に入っている。


 オーシャンは汗を滝のように流して緊張しているようだ。まあこれが実質的に初の戦闘となるからだろう。俺との戦闘……あれはなかったことにしよう、うん、そうだな。ちゃっちゃと片づけてオーシャンの援護に回ってやろうと思う。


 道を境に二手に分かれた俺たちの間を馬車が駆けていく。すれ違う時に「逃げろ」という警告が聞こえたが無視する。俺もこの世界に来てから初めての本格的な戦闘なので少し昂ってしまっているのだ。


 馬車が通り過ぎてから一〇秒も経たないうちにウルフたちと接敵する。


 俺は馬車を追っていたスピードのまま突っ込んできたウルフを危な気なく横に避けて右手の大剣を振り下ろして上半身と下半身がお別れする。


 間断なく攻めてきたウルフ四匹を同じように処理する。そこに焦燥感というものはない。例えるならば流れ作業のような感じだ。感情なく淡々とこなしていく。


 ちらりとオーシャンに目を向けると一匹となんとか互角に戦っている。基本的に逃げ腰ではあるがそれが功を奏して盾をうまく使っている。オーシャンには盾の素養があるかもしれない。俺が他を片づけるまでもたせてもらえればそれでいい。


 ハイフィールドウルフは一瞬で仲間がやられたことに危機を抱いたのか、遠吠えを使って仲間の攻め方を変える。


 オーシャンを相手するウルフ以外のやつらは俺を囲み駆け回っている。ハイフィールドウルフだけは外でずっとこちらを睨みつけている。隙あらば躍り出て俺を仕留めようという腹積もりなんだろう。


 だが、俺がそんなことに付き合ってやる義理はない。


「食ラエ」


 刻印に魔力を流し込んで第一位階土属性魔法の《石矢》を放つ。移動中に魔力を動かす練習をしていたためずいぶんと流暢になったものだ。量の調節もだいぶうまくなったものだ。


 四〇本の石製の矢が俺の周囲に出現し、同時に飛び出していった。はずれたものもあるが、突然の予期しない攻撃で回避することができず、囲い込んでいたウルフはすべて死に絶えてしまった。少なくとも一匹に対して日本は刺さっている。


「意外ト脆イモノダナ」


 そう言ってハイフィールドウルフへと視線を移すと額に石矢をはやして立ったまま死んでいた。


まだ調整の練習が足りないようだ。


「や、やったああァァァァァ!!!!」


 後ろから歓声が聞こえてくる。もちろんオーシャンだ。どうやら一人で倒し切ったらしい。


「どうだ!? 見ろオッズ!!! 俺が倒したんだ、お前は……」


 語尾になっていくにつれて声が小さくなっていき、最後に至っては何も聞こえなかった。しまった。またやりすぎてしまっただろうか。


「オ、オーシャン。アノナ」


「いや、何でもない。忘れてくれ」


 ……うん、そうしよっか。


 若干気まずい空気のまま、死体をすべて収納する。オーシャン曰く、魔獣は素材として広く使われているので金になるだろうとのこと。外貨を得る手段として魔獣を狩るのもなかなかいいな。


そんなことを考えていると、先ほどの馬車がこちらへと戻ってきている。オーシャンも気づいたのか、向こうへ向かって手を大きく振っている。


 しかし、俺としてはなかなか複雑な心境だ。


 まるでトレインで集めた魔獣を押し付けられたような気分である。オーシャンは気にしていないようだがどうしたものやら。


 それに、それをした当人がどう釈明するのか、なかなか見物じゃないか。

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