92 スキルの正体
「Mr.遊馬に発現した『悪魔召喚』のスキルは、付与された原型である異世界の神性の加護が個体適性に応じて変化した物です」
ヴィラの解析により、漸く最大の疑問が解消される。
成る程、個人に合わせて変化した異能の類だからこそ、付与した異世界の神性にとっても大きく不都合を招きかねない、悪魔や天使の召喚と言ったスキルになったのか。
無論あんな程度のスキルでの召喚に、まさか悪魔王が応じようとは思っても無かったのだろうけれども。
そう考えればあの討ち取られた女性型の高位天使も、イレギュラーな物好きの類だろう。
今更ながらに、あの天使に対して少しばかりの親近感が湧く。
しかし当然、異世界の神性が無意味に此方の世界の人間に加護を与える筈もない。
「Yes。恐らく異世界の神性は、此方の人間に加護を与える事で縁を紡ぎ、此の世界へと神性として侵攻する口実、或いは足掛かりとしたいのでしょう」
魔物を倒せる力であるスキルに頼るのは、それ即ち異世界の神性に対して頼る事と同義だ。
勿論魔物が此の世界に生み出されたのは、その異世界の神性と契約した悪魔王の仕業だろうから、マッチポンプも良い所である。
だがそんな事を知らない人間達は、生きる為にスキルの力に頼るだろう。
そしてスキルを得た人間がもっと増え、もしくはスキルがもっと成長すれば、自分の加護を受けた人間達が頼るからと異世界の神性が此の世界に降臨するのだ。
人間の世界でも、自分と同じ民族が他国で苦しんでるって名目で侵攻軍を派遣するなんてのは、別に珍しい話じゃ無い。
けれども仕組みさえわかってしまえば、相手の思惑を崩す事だって可能であった。
遊馬と、漸く目覚めた葉月に、此処までに判明した状況と、此れからの展開を説明する。
状況の悪さを噛み砕いて説明すれば、二人の表情は見る見る間に悪くなって行く。
侵略の為に自分達の生活を破壊し、更にスキルを与えて利用しようとする異世界の神性への怒りよりも、そんな事が出来てしまう相手の強大さに怖れを抱いたのだろう。
でも縋る様な遊馬の視線の中に在る、確かな信頼に、僕は頷いた。
此れからの展開の説明に移れば、葉月の表情にはそんな事が可能なのかとの疑いが、遊馬には見えた希望への喜びがそれぞれ現れる。
しかし直後に、其れが成された場合の僕への対価の額を想像したのか、遊馬の表情はサッと蒼褪めた。
その変化が面白くて、僕は思わず笑ってしまう。
遊馬の様子に心配した葉月が、僕への対価の話を聞き出し、半分を背負うなんて言い出したが、……まぁそれ程大層な額にする心算は無い。
何せその代わりになるモノを、遊馬には捧げて貰う事になるのだから。
空の穴を守る高位悪魔達に見つからぬ様に、僕と、僕の配下達は動き始めた。
先ず最初に行ったのは、此の世界の神性への接触だ。
彼等の意向の確認と、僕等が今回の件を解決した際の対価を要求する為である。
何と言っても僕等は悪魔なので、取れる相手からは対価を取っておきたい。
壁の向こうへは、アニスを呼べば、移動は簡単に行えた。
次に、異世界の神性を呼び出す鍵となってしまう、生き残った人間達の確保だ。
ヴィラが大まかに生き残った人間達の居場所をサーチし、グレイとイリスが確保に向かう。
グレイとイリスは此の世界と近しい世界で人間として過ごした経験を持つので、説得役には適している。
最後にベラとピスカは、空の悪魔達が動いた時に備えていた。
生き残りの人間達を集めて僕等が何をするのかと言えば、スキル、もう少し正確に言えば異世界の神性からの加護の取り上げだ。
まあ勿論取り上げと言っても、無理矢理収奪する訳じゃ無い。
僕達が悪魔である事は上手く誤魔化すが、異世界の神性の目的と、スキルの正体をマッチポンプぶりを非難しながら教え、自主的にスキルを捧げて貰う。
単純に引き剥がすのは難しくとも、異世界の神性の加護であると正しく知った上で、『この場から助かる為の対価』として捧げて貰えば、僕等への移譲が可能なのだ。
そしてスキルを捧げてくれた人間と、そもそもスキルを得ていない人間もついでに、アニスの出した門を通して此の世界の神性が待つ場所へと移動、避難をさせて行く。
元より此方の世界の神性も、隔離は本意では無く、世界を守る為のやむを得ない措置だった。
中の人間を気にしてはいたらしいので、避難した人間達を悪いようにはしないだろう。
尚、全ての人間がスキルを手放した訳では無く、自分が得た力は手放したくないと主張する人間も当然いる。
そんな彼等には、スキルを持つ以上は此の世界に居場所が無い事を説明し、マッチポンプを行った神性が支配する世界に行くか、或いは他に受け入れてくれそうな世界へ移動するかを問う。
後者の場合は一度僕の魔界の実験区域に移動させ、その後に受け入れ世界を探し、受け入れ先の言語を教えてから移動させる心算だ。
勿論ごねた人も居たが、その場合は強制的に、スキルを与えた神性の世界へと移動させるだけの事。
異能の力を得た事ではしゃぐ気持ちは理解出来なくも無いけれど、僕に彼等の気持ちを汲んでやる義理は無い。
遊馬の『悪魔召喚』のスキルも、この時に捧げられた。
召喚主は居なくとも、契約は既に交わしているから、このスキルはもう用なしである。
遊馬と葉月、二人以外の人間を直接助けたのは、殆どが僕以外の悪魔なので、此れ以外に金銭で支払われる対価の額は僅か。
アルバイトであっても、二人掛かりなら一週間程で稼げるだろう。
幸い逸れていた家族等も無事に生存していたので、避難した先で身寄り無く生きる訳でも無い。
「じゃあ遊馬、元気でね。後の事は任せて、君はちゃんと葉月を守るんだよ」
遊馬が、召喚した僕に押し付けるような形になった事を気に病んでる風なのは、見ればわかる。
だが今回の事態には、彼だって巻き込まれた被害者なのだ。
頑張って生き延びて、助かる機会が巡って来たのだから、堂々と助かればそれで良い。
あまり話せなかったけれど、遊馬が勇気ある少年である事は、もう十分知っていた。
何か言いたげに、言葉に迷う遊馬に、僕は首を横に振る。
「君の戦いは此れからだよ。直ぐに元の生活に戻れる訳じゃ無いんだから、しっかりね」
そう告げて、僕は彼の胸を押し、アニスの開いた門の方へと、一歩分押す。
別れを惜しむ程の関係を構築する時間は無かったし、そして与えられもしない。
空の穴を守っていた悪魔達が動き出した。
そりゃまあ、スキル、異世界の神性の加護を受けた人間が次々と減って行けば、異常事態である事は直ぐに知れる。
けれども動き出した四人の高位悪魔の前を、僕の配下の悪魔達が一人ずつ塞ぐ。




