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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第五章『約束の人』

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60 遥か昔の約束



 悪魔王グラーゼンから大きな仕事を続けて二回請け負ったが、当たり前だがあんな大きな案件は滅多に無い。

 かと言って中級悪魔が引き受ける程度の召喚に僕を派遣する訳にも行かないと言う事なので、最近僕は暇を持て余している。

 二回の仕事で得た莫大な対価は僕の取り分だけでもかなり大きく、ベラ、アニス、ピスカ、ヴィラ達を高位悪魔へと昇格させても未だ余る。

 グラーゼン曰く、僕はもっと下級悪魔の配下を大量に生み出すべきらしいのだが……。

 どうにも気が進まなかった。

 先ず第一に、悪魔をやってて言うのもなんだが、僕は性質的には少し内向気味だ。

 悪魔として呼び出された相手と接したり、信頼関係の持てた相手と仲良くするのは問題無いが、雑多に生み出した大量の悪魔に傅かれながら己の魔界で過ごすのは、多分きっと居心地が悪いだろう。

 魔界内にベラ、アニス、ピスカ、ヴィラ達の領域を創り、其処に生み出した配下を分配して過ごさせれば良いのだが、そうすると今度は周囲に彼女達が居なくて少し寂しい。


 其れに配下を増やすと言う事は、完全にグラーゼンの様に管理側に回ると言う事で、其れも多分性に合わないのだ。

 別に些細な案件でも構わないけど、出来れば僕は自分が召喚されて動きたかった。


 ……単なる我儘なのはわかっているが、必要性を強く感じるまでは、気の合った相手や、巡り合わせの妙があった魂のみを悪魔化し、配下に加える今の方針で行く心算である。

 差し当たって欲しい悪魔も、職人系位しか思いつかない。

 現状は其方も錬金術を会得したヴィラがカバーしてくれているが、彼女は既存の量産品を作り出すのは得意だが、新しい物や情熱を込めた逸品は生み出せないのだ。

 まあ其れも配下を増やすなら装備も欲しいなって程度なので、決して急ぎでも無いけれど。



 さて僕が、新しい召喚に身を引かれたのは丁度そんな事を考えて居る時だった。

 でも其の召喚は、今までの物とは比較にならないほど強い力で、僕はまるで心臓を鷲掴みにされて引っ張られたかのような衝撃を味わう。

 衝撃に顔を歪めた僕に、配下の皆が驚きの表情を此方に向ける。

 だが僕は彼女達に何も答える事も出来ずに、強い力に引かれるままに世界を越えた。


 そして目を開けば、其処は祭壇も魔法陣も無い中空。

 以前、長い年月を生きた超ベテランと言って良い魔族の魔術師に召喚された時でさえも、あんな強い力では引かれなかった。

 なのに今回は、祭壇や魔法陣も無い。 

 本来なら疑問に首をひねるべき所だろうが、僕はこの状況に心当たりがあった。

 だからこそ、急がねばならない。


 すぐさま感知範囲を広げて其れを探す。

 普段はピスカやヴィラのサポートに頼りがちだが、僕とて感知を使えない訳では無いのだ。

 即座に発見したのは、眼下を流れる川を、遥か下流に流されつつある一人の子供。

 僕は川の水の動きを全て止め、魔法で子供を手元に引き寄せる。

 身体は冷たく、何より呼吸が止まっていた。

 けれども幸い、魂は未だ其の身体に留まっており、死んではいない。


「偉い、強い子だ。流石は……」

 僕は笑みを浮かべると、指先を胸に当て、動けと念じる。

 子供は身体をびくりと動かすと、口からごぼりと水を吐く。

 大丈夫、間に合った。

 意識はまだ戻って無いが、危機的状況は脱したと言える。


 気付けば、どうやら今は夜で、悪魔である僕にはあまり関係ないが、結構寒い。

 つまりは冬だ。

 僕は腕の中の子供に視線を落とし、……顔を顰めた。

 其れは可愛らしい五歳位の男児だったが、問題は其処では無く、その子の容姿と服装である。

 黒髪に、化繊で出来た子供服を身に纏うその子の姿が物語るのは……、

「拙いなぁ……、此処って、現代社会の、其れも日本に似た世界か」

 此の世界が僕と非常に相性が悪いだろう事だった。



 でも多分、初動の素早さこそが重要だと直感が囁くので、僕は男児の身体と服の水分を飛ばし、治癒魔法を施しながら広範囲に感知を広げていく。

 どう考えても、冬の夜に子供が川に流されてる状況は事件性がある。

 此処が日本に近い文化の世界なら尚更だ。

 ……日本その物では無いと確信出来るのは、僕が悪魔に変じてから数百年の時が流れているが故に。

 だがその事に感傷を感じている暇など無い。

 僕は感知に引っかかった、川の上流から離れて行く誰か、恐らくはこの子を突き落としたのだろう犯人の元に、門を開いて飛ぶ。


 どうせろくでもない理由なのは理解していた。

 だからって、僕は今更そんな事に怒りを覚えたりはしないだろう。

 善き人間も居れば悪しき人間も居て、その二つは時に引っ繰り返りもする。

 悪魔として長く其れを見て来た僕は、人間なんてそんな物だと理解しているのだ。

 期待も、絶望も、見ず知らずの人間には抱かない。


 けれどもその上で、僕は今回此の子供を殺そうとした犯人を許さないだろう。

 事件に至った背景を聞き出し、その上で、肉片一片たりとも此の世界には残さずに消す。

 何故なら其の犯人が殺そうとした此の男児は、僕の大切な、恩人であるグラモンさんの生まれ変わりなのだから。


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