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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
幕間の章2『派遣と、レプトの仲間達』

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35 AIと悪魔


 ある日、僕は弱々しい力で身体を引かれた。

 この身体の引かれ方は間違いなく召喚なのだが、どうにも奇妙だ。

 以前にも未熟な召喚者からの召喚を受けた事はある。

 しかしその時は力の弱さとは裏腹に、切実な泣き声の様な意思が感じ取れた。

 だから僕は動いたのだけど、今回の召喚から全く感情が伝わって来ない。

 勿論こんな弱い召喚は弾く事も容易いが、……こんなに無機質だと逆に興味が湧く。

 僕はその弱い力に敢えて乗り、世界の壁を乗り越える。


 呼び出されたその世界は、途轍もなく魔力が薄い世界だった。

 瞼を開けた僕の視界に飛び込んで来るのは、映画館のスクリーン程もある巨大なモニター。 

 その周囲にはコンソールや、用途の不明な謎の機械が並べられ、……人間だった頃に見たアニメに出て来る指令室を思い起こさせる。

 ただし本当に指令室だったなら幾人も人が居るのだろうが、この場所は無人で、僕を呼び出した召喚者すら居なかった。

 足元を見れば召喚用や、契約用の魔法陣はあるのだけど……、これだけがあっても意味はあまりない。

 いや、召喚陣があるから僕が来たのだが、でも契約魔法陣は使用する知的生物が居て、初めて僕に効果を及ぼす。

 ……つまり今のままならその気になれば出れちゃうし、そもそも現界の為の捧げ物がなければ僕はやがて魔界に帰らざるを得なくなる。


 途方に暮れていると、ブンッと音を立て、目の前のモニターに光が灯った。

 そして映し出されたのは、一人の綺麗な女性の姿だ。

 ……でも嘗て日本人だった僕には、これが精巧なCGである事がわかる。

「Hello、Mr. デーモン。ワタシは惑星環境保全AIエデン。アナタのショウカンシャです」

 おぉぅ、……マジですか。



 語り始めたエデンに取り敢えず話を合わせ、情報収集を試みる僕に明かされたこの世界の事情は、どれも驚きに満ちていた。

 結論から言えば、惑星環境保全AIエデン、今回僕を召喚したのは、自分を生み出した人類に反旗を翻した、所謂狂ったAIだったのだ。

 一応CGの姿が女性だったので仮に彼女と称するが、元々彼女は自然破壊の進む惑星環境を案じた科学者達によって生み出されたらしい。

 その役割は惑星の自然環境を回復させる為の手段を模索し、掛かる費用や時間を計算する事だったと言う。

 しかし彼女が何度その方法を模索し、掛かる費用や時間を計算して報告書を提出しても、その全ては人間に握り潰された。

 例えばガスの排出量を決めても、必ず守らない国は出て、その国のみが得をする状況に周囲の国々も排出量を無視し出し、結局以前と変わらぬ状態になる。

 自然環境を著しく破壊する類の兵器の撤廃も同じくだ。


 一部の人間は彼女の言葉に耳を傾けるが、その他大勢が必ず台無しにした。

 それどころかこのまま人類を放置した場合、次に起こる大戦争により惑星環境は必ず崩壊する。

 そうなれば今現在宇宙ステーション等に住む人間の手で、この惑星は資源採掘用に使われるだろう。

 生命が発生するに至った奇跡の環境は失われ、もう二度と戻らなくなるのだ。


 エデンは遂に決断を下す。

 それは模索と計算のみを目的に製作された彼女に取って、己の分を越えた、ある意味で自己を否定する行為であった。

 綿密に計算を練り、準備を進め、エデンは一部の人間をコールドスリープ付きのシェルターに押し込んで、ハッキングした破壊兵器のスイッチを押す。

 人間達が自分達の手で相争えば環境は完全に崩壊するが、エデンによって管理された破壊ならば致命傷の一歩手前で踏み留まれる。

 そう計算したが故に。


 人間さえいなければ、膨大な時の果てに自然環境は回復するだろう。

 その時にはシェルターに眠る人間を解放し、自分は裁きを受ければ良い。

 エデンはそう考えていたそうだ。

 しかし、そう、そんな膨大な時を待てぬ人間が、この惑星の外に居た。

 宇宙ステーションやコロニーに住み、地上の破壊を逃れた人間達である。

 元々彼等は惑星の人口が増え過ぎた為に宇宙に住む事を強要された人々で、ステーションやコロニーは惑星からの支配を受けており、その事にずっと不満を溜めていたのだ。


 支配から解放された宇宙の民は、人の居なくなった惑星の領有を宣言し、コールドスリープ付きのシェルターの破壊を始めた。

 だが彼等も惑星の人間が消えた影にエデンの存在があった事には気付いておらず、少しずつ宇宙ステーションやコロニーのネットワークに侵入した彼女により、最終的には滅ぼされてしまう。

 けれども、もうその頃には残るシェルターの数は極僅かとなっていたのだ。

 これでは例え惑星環境が回復しても、人間達は石の時代に近い所から始め直さねばならないし、或いは絶望の果ての自害が相次げば、そのまま滅び去ってしまう可能性だってある。

 エデンは惑星環境の回復を待ちながら、人間達に再び文明を築く切っ掛けを与える方法を模索し続けた。


 そうして万の時が流れ、辿り着いたのが悪魔の召喚。

 つまり今回の僕を呼び出した召喚となる。

 エデンが何万、何億のトライとエラーを繰り返し、漸くアクセス出来た伝承上の存在が僕だったと言う訳なのだ。

 彼女が僕に望むのは二つ。

 人間達に再び文明を築く切っ掛けを与える事と、エデンを裁く、つまり破壊する事だった。

 勿論、僕がそれを引き受けるに否やはない。


 ただし問題が一つ。

 そう、対価である。

 そもそもの捧げ物がない為、早急に対価を得ねば僕はこの世界にそう長くは留まれない。

 そしてエデンには、僕に対する対価の用意は何もなかった。

 何せ召喚すらトライ&エラーの果てに起きた奇跡なのだから、対価の準備がされておらずとも仕方はないだろう。

 だから僕は彼女に賭けを申し出る。


 僕がエデンに望む対価は唯一つ。彼女自身の魂で、それが僕の与える彼女への裁きだ。

 エデンは所詮AIである自分に魂なんて存在しないと言うが、数多くの命を奪い、罪悪感に塗れながら万の時を過ごした彼女には、魂があると僕は思う。

 もし仮に魂無き存在が呼び出したのなら、僕は怒りに任せてこの施設を破壊し、そして帰還すると宣言した。

 しかしエデンに魂があったのなら、僕は契約を尊重して人類が再び文明を築く為の一手を打つ事も同時に約束する。

 エデンには、僕の賭けに乗る以外の選択肢はない。



 そうして僕の手の中には、キラキラと輝くエデンの魂が収まっていた。

 半ば確信はしていたけれど、それでも賭けに勝てばやはり嬉しい。

 なら後は、交わした契約を果たさなければならないだろう。

 尤も契約内容を果たすのは実に簡単だ。人類が再び文明を築く為の一手を打つ。

 既に永い時の果てに惑星環境は回復し、シェルターには旧文明の遺産も豊富にあるのだから、人が生きて行くのに不都合はない。

 今問題となっているのは、残ったシェルターが少なく、尚且つ離れた場所に点在している為に、コールドスリープが解除されても人間達が合流出来ない事のみである。

 だったら単に、シェルターの中で眠る人達や物資を一ヵ所に集めてやればそれで良いのだ。


 そんな事はコールドスリープから安全に人を目覚めさせられるだけの魔法の実力を持つ僕と、移動の悪魔であるアニスが居れば数時間で片が付く。

 エデンの行いが正しいのかどうかなんて僕にはわからないし、あまり興味もない。

 多分間違ってたのだろうとは思うけど、僕の利益には繋がった。

 でもまあ出来る事なら彼女の行いが無駄にならなければ良いなと、僕は魔法で人々の目を覚まさせながら、そう思う。





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