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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
第三章『年を経た友』

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31 答えを探る、思い出話



 僕達の住む小屋のキッチンで、レニスの発動した風魔術がキャベツを細かく千切りにする。

 でも余波で切られたキャベツが飛んで行く事も、下のまな板が切れる事もなく、鋭利な刃物を細かく動かして切った様な千切りが出来上がっていた。

 既に完全に物にしていると言って良い。

 だが本人はその成果に満足感を覚えた風も無く、ごく当たり前の作業として調理をこなしながら、ちらりとこっちを振り返ると、

「ねぇ、レプト。一つ聞いても良いかしら?」

 僕に向かって問いかける。


 ん、何だろう。

 今は料理中だが、魔術講座の時間でもあった。

 僕は彼女の先生なので、質問があれば答える事に否やはない。

 今の流れだと魔術以外の質問っぽいが、そもそも料理を教えてる時点で、それも今更な話だ。

「何で御婆ちゃんは、悪魔になるなんて言ったんだと思う?」

 レニスの問い掛けに、僕は少し答えを探して考える。



 魔術協会との決戦、魔術党の発足からおよそ三ヶ月ほど、つまり僕がこの世界に来てから一年と九ヶ月が経過した。

 現状、魔術協会と魔術党の間に、あの時の様な武力衝突は表向き起きてはいない。

 と言うのも魔術党の出した非難により、特にあの決戦に関しては魔術協会が関わった証拠も沢山残っていたので、今は魔術協会が揺れに揺れているからである。

 矢張り同じ魔術師に対して、粛清染みた抹殺を行っていた事等は、魔術協会内に在籍する魔術師にも大きな衝撃を与えた様だ。


 中立的な立ち位置に居た魔術師の中にも、魔術党への合流を表明した者も多い。

 魔術協会には向かい風が、魔術党には追い風が吹いている今、表立った攻撃が自らの首を絞める事位は、魔術協会も理解をしているのだろう。

 もしもう一度大きな衝突があるとすれば、今の状況が落ち着いた時だと予想される。

 けれども魔術師が真に理知的な存在であるならば、状況が落ち着いた時にも戦いでなく対話を持って落としどころを探れると、魔術党はそう考えて居るらしい。


 と言っても散発的な暗闘はまだ続いてるので、決して油断は出来ぬ状態だ。

 魔術党の主導的な立場の魔術師の命を狙い、暗殺特化の使い魔や、暗殺者が送り込まれる事もある。

 しかしそんな時に役立つのがピスカの感知能力で、彼女はもうずっと魔術党の方へ出向しっぱなしの状態であった。

 元妖精らしく飽きっぽい性格のピスカではあるが、魔術党の魔術師には菓子だの何だのを与えられて可愛がられ、何だかんだで楽しくやっていると聞く。


 僕が駆り出される事も極稀だがあって、前回は確か今の魔術協会で強硬派の主導者を追い落とす為の証拠を、あちら側の穏健派の主導者に届けに行った。

 まあ単なるお使いだが、強硬派主導者からの結構な襲撃を結構な規模で受けたので、僕じゃなくて魔術党の魔術師が行ってたら、多分誰が行っても死んでただろう。



 そんな事はさて置き、レニスの話だ。

 彼女はあの戦い以降、自信を持ったのか態度に落ち着きが出て来た。

 繊細な魔術制御の技術、元々持っていた豊富な知識、そして得た自信が相まって、レニスと言う名の花は完全に咲いたと言えるだろう。

 ついでに料理の腕の上達も目覚ましい。

 だがそんな状態だからこそ、レニスも僕とアニーの交わした契約が、果たされつつある事を感じているのだ。


 僕がアニーと交わした契約は、1魔術協会と戦うアニーの手助け、2助けた魔術師を住まわす拠点の用意、3レニスを魔術師として育てる、である。

 そのうち2は魔術党が誕生した事で果たされていて、3もほぼ終わったと言って良い。

 1は今後次第だが、このまま順調に状況が推移すれば果たされる日はそう遠くない筈だった。

 つまりその時がアニーが悪魔となる、レニスとアニーの別れの時なのだ。


「さぁ、ね。僕はアニーじゃないからわからないな。……アニーってあぁ見えて、昔から結構色々と考えて動いてたから」

 商人をやってたせいだろうが、昔からアニーは良く人を見て動いてた。

 だから多分、今回の対価に眷属になると言い出した事も、僕とレニスを見て決めたのだろう。

「ただ、あの時アニーにとって悪魔の知り合いは僕だけだったからね。いやベラもかな。まあ大差ないけど、要するに僕の影響を受けたせいである事は間違いないよ」

 勿論僕だけじゃ無く、レニスの事も考えてだろうが、それは口に出さなくてもレニス自身がわかってる。

 レニスが自分で自身と、アニーと自分の関係を振り返り、答えを見付けなきゃ意味が無い。

 僕を見る、レニスの料理の手が止まってた。

「だからまあ、僕はアニーの考えはわからないけど、彼女と出会った頃の昔話は出来るよ。……料理の手が止まらないならね」

 慌てて料理を再開したレニスに、僕は思わず笑みを浮かべて、何から話すべきかを考える。

 一つずつだ。そう、一つずつ。


 僕が最初にアニー・ミットと出会ったのは、グラモンさんの塔に住み始めて数日の頃だ。

 まあ彼女は週に一度やって来る出入りの商人だったので当たり前である。

 初めて顔を合した時、アニーは見知らぬ僕の姿に大層驚いていた。

 何せあの頃の僕は自分の角も消せなかったのだから当然だろう。


 でもアニーは僕が成り立ての悪魔だと知っても、否、成り立ての悪魔だからこそ不安だろうと近しい態度で接してくれたのだ。

 ……だが当初の僕は妙に親しい態度で接して来る商人、しかもどう見ても商人と呼ぶには不釣り合いな少女、が何を企んでるのかわからずに、少し退いた態度で接していた様に思う。

 そうそう、出会ったばかりのアニーは未だ少女と呼べる年齢だった。

 まさか老齢に達したアニーと再会するなんて、本当に縁とは奇妙な物である。


 さて話は戻るが、けれどもアニーはそんな僕にも態度を変えず、ずっと親し気に接してくれた。

 そしてグラモンさんも、今思えば僕に他の人間との接点を増やそうとしてくれたのだろうけど、購入する物資の決定から実際の購入までの全てを僕の担当にしたのだ。

 そうなれば当然週に一度は、アニーと必ず話す事になる。

 出入りの商人、御用聞きなんて存在の居ない時代で育った僕に、棚に並んだ品物を手に取ってレジに運ぶ以外の買い物の仕方はとても斬新な物だった。

 だってアニーはグラモンさんの好物まで把握していて、あれこれと購入する物のアドバイスまでしてくれる。

 例えば粉状の塩を求める僕に、ソルトミルは塔に在るから岩塩を塊で購入した方が安くなると教えてくれたり等々だ。


 そんな状況で接するうちに、僕は次第にアニーと打ち解けて行く。

 何時しかアニーが塔に商品を運んでくる日は、僕にとって一週間に一度の楽しみになった。

 あぁ一度だが、少女から女性に変化したアニーに、

「レプト君が羨ましいな。年も取らないし、私が知ってるよりずっと多くの世界が見れて」

 と言われた事がある。

 アニーは門魔術で世界中を飛び回っていたが、足の長い彼女にとっては、この世界だけじゃ狭いのかも知れない。

 

 ……僕はアニーと友人関係を築いたけれど、でも別れは突然だった。

 グラモンさんが倒れた時に僕はアニーを頼り、彼女はすぐさま駆け付けて診断してくれたのだ。

 その時のアニーの見立てでは未だ少し、何らかの対策を打つ時間はあると判断し、グラモンさんの意思を確認したら頼って欲しいと僕に告げて塔を後にする。

 しかしその日の内にグラモンさんは残った命と魔力を僕に託して死を選び、僕はこの世界から退去してしまう。

 アニーには手紙を一枚残せただけだった。

 次にアニーがこの場所を訪れた時、塔すら残らぬ此処を見て、果たしてどんな気持ちになっただろう?

 それは僕にはわからないけれども、兎に角これで昔話は終わりである。



 僕の話を聞き終えて、レニスは少し言葉に迷った様で、

「そう、……ありがとう、話してくれて。何と言うかその、レプトが御婆ちゃんを、それに輪をかけてマスター・グラモンを、大好きだってのはわかったわ」

 そんな風に言う。

 うん、僕はその先のアニーを、この僕が再び世界にやって来るまでの彼女を、一切知らない。

 なんでだろうか、あまり触れるべきでないと思ったのだ。

「御婆ちゃんと、もう一度話してみるね」

 レニスの言葉に、僕は頷く。


 見れば台の上には調理の終わった料理が並んでいる。

 そろそろ夕食を食べに、皆がやって来る頃だろう。

 でも最後に、此れだけは、僕はレニスに言わねばならない。

「あのね、レニス。僕は悪魔で、交わした契約に従って対価を貰わないといけない。勿論融通を利かせて代わりの物でも受け付けるけど、それは召喚主がそう望めばだ」

 ……本来なら、一度決まった対価を別の物に差し替える事もルール違反だ。

 でも僕とアニーは友達で、僕は自分の意思で無理を通せる立場にある。

 派遣召喚中は無理だけど、今の僕は自身の派閥のTOPとしてこの場所に居るが故に。


「でもね、僕の師匠、グラモンさんは、常に弟子である僕の味方になって心を砕いてくれた。レニス、今の君は僕の生徒だから、僕もそんな風にしようと思う。例えどんな形になるとしても、君とアニーの繋がりは保つよ」



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