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転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?  作者: らる鳥
幕間の章1『悪魔王と派遣召喚』

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20 召喚世界と派遣の悪魔



「そんな、まさかこんな場所に人型の悪魔がいるだなんて……」

 声に絶望感を滲ませて呻くのは、理知的な顔をした眼鏡の少年。

 今やって来た三人組の中では、技量は最も高そうで、発する魔力が安定している。


「人型の悪魔? つまりこの試練の洞窟の様子がおかしいのはコイツの仕業か!」

 僕を悪役と見なしたのか、激しく魔力を昂ぶらせて敵意をぶつけて来るのは、赤髪の少年だ。

 最初はそうでも無かったが、僕を敵とみなしてから放出している魔力は三人の中で最も高い。

 感情で発する力の変わる、技量は低いが出力は高いタイプなのだろう。


「待ってケント、人型の悪魔は知能も力も普通の悪魔より遥かに上だわ。アカデミーの学生でも、一年生の私達じゃ到底勝てない!」

 突っ込んで来そうだった赤髪の少年を止めたのは、三人組の最後の一人、ピンクの髪の少女だった。

 彼女は三人の中で言えば魔力量も技術も平凡そうだが、発する魔力が少し特殊で、光の属性を帯びている。

 ……多分魔力を構成する魔素に、光の魔素が多いのだろう。

 しかし少年二人に少女が一人の組み合わせで、少女の髪がピンクとは……、実に二人の少年が振り回されそうで哀れに思える編成だ。

 もちろん、思いっきり僕の偏見だけれども。


 さて置き、僕を脅威に感じてくれる事は嬉しいが、このまま逃げられてしまっても少々困る。

「ふん、怖気づいたなら家に逃げ帰って震えてなよ。僕も復活したばかりでね、まだ本調子じゃないのさ。子犬の一匹や二匹は慈悲で見逃してあげても良いよ」

 だから僕は敢えて本調子でない事をアピールしつつ、嘲る様に笑う。

 当然ながら僕は封印もされてなければ滅ぼされてもないので、復活したばかりとかではない。

 でも今回はそんな設定なのだ。


 僕の嘲りに顔に怒りを浮かべた赤髪の少年、ケント君だったが、名前がわからないけどその相方の眼鏡君は何かに気付いた顔になる。

「確かに感じる魔力が思ったよりも少ない……。これなら届かなくはない?」

 なんて風に呟く眼鏡君。

 うん、実際には僕が外に漏れる力を抑えて弱く見せてるだけなのだけど、良い流れだった。

「そうだ、戦いもせずに諦めれるもんか。リン、一年生じゃ勝てないって言ったけど、違う。俺達はこの洞窟を突破して、二年生になるんだよ。この程度の相手に負けれるもんか!」

 叫ぶ赤髪のケントに、ピンクの髪の少女、たったいま判明した名前だとリンも頷く。

 楽天的過ぎるケント君の発言に思わず苦笑いが浮かびそうになるが、僕は口元を引き締めて何とか堪える。

 まあ彼としても参謀役の眼鏡君の判断があったからこそ前のめりに行くのだろうし、あの眼鏡君が無理だと判断してたら多分素直に退いてたと今は信じよう。

 今の僕の役割は、ケント君に無謀さを教え諭す事じゃない。


「この程度とは言ってくれるね。良いよ、どうやら死にたくて仕方ないみたいだから、悪魔らしく君達の願いを叶えてあげようか!」

 あー、悪役って楽しい。

 今のセリフは個人的には良かったと思うのだけれど、どうだろうか?

 言葉と共に放つ火炎魔法を、三人組は散開して避ける。


「リンさん、悪魔の弱点は光属性です。貴女のユニコーンが一番ダメージを与えられる! ケント君、悪魔は炎と氷に耐性がある、僕等の召喚獣は肉弾戦を行ってユニコーンを守りましょう。行きますよ!」

 眼鏡君の指示に、ケントとリンが頷き召喚石を翳す。

 僕も忘れてた弱点と耐性の設定を思い出させてくれて、僕の眼鏡君への好感度はうなぎ登りである。

 惜しむらくは、未だに彼の名前だけがわからない事だった。

 因みに他の悪魔は知らないが、僕は別に光に弱くはないし、炎や氷に強くもない。

 どちらも至って普通である。


「「「コール(召喚)」」」

 力ある言葉に、彼等の手に持つ召喚石から契約した召喚獣たちが現れ、僕に向かって攻撃を放つ。



 その後は暫く戦闘したが、彼等の体力が限界近くになったのを見計らい、僕は戦闘を切り上げて撤退する。

 限界近くまで健気に戦った彼等への捨て台詞は、

「クソッ、こんな相手に消耗してちゃ、後から来る教師達を殺せないじゃないか。……いいさ、引き上げよう。今日の所は見逃してあげる。精々もう僕と会わない事を神にでも祈ると良いさ。次に会ったら、その内臓を引き裂いて食ってやる!」

 ……だった。

 少し長すぎたかなぁとも思う。


 本当は彼等に、良く戦ったと褒めてあげたいところだけれど、残念ながらそれも僕の役目じゃない。

 何にせよ実力と勇気を示した彼等は、無事に二年生へと進級出来るだろう。

 試験の最中に、試験会場で起きたアクシデントを自分達の乗り越え、更には復活したてで弱っているとはいえ、難敵である人型の悪魔とも戦い生き延びた経験は、確実に彼等の自信になる。

 ……のかな?

 細かい問題点は多々あれど、そこから先を導くのはアカデミー教師の仕事であった。

 そう、今回僕を、正確には悪魔王グラーゼンの眷属を召喚しようとして、派遣でやって来た僕と契約したのは、王立召喚アカデミーの教師なのだ。


「最高よレプト君。あの子達にもいい経験が出来たと思うわ。……ねぇ、良かったら私と専属契約しない?」

 なんて風に笑うのは、あの三人組の担任である女教師ミッシェルだ。

 この世界では召喚魔術が発達し、召喚術式の簡易化が行われ、更に国内から召喚に適正のある子供を集めて教育するアカデミーが存在する。

 今回僕がやってたのは、アカデミーに所属する一年生の、進級試験の裏ボス役である。

 試験最中にイレギュラーな事態が起きたとしても、冷静に、尚且つ諦めずに対処出来るかを量る目的で、あんな風に設定に応じた悪役をこなしていたのだ。

「うーん、この世界の召喚術式、召喚石に封じて呼び出す簡易召喚でしたっけ? あんまり肌に合わない感じなんですよね。でも学校は楽しそうだし、良い先生も居て彼等が羨ましいかな」

 これは紛れもない僕の本音だった。

 何せ人間だった頃の僕は、途中で学校には行けなくなったし。


「そう、残念だわ。でも確かに貴方が生徒になるのも面白そうね。取り敢えず規定の報酬と、あと次いでにピクシーの召喚石もあげるわ。召喚石が気に食わないなら出して解放するか、正式に契約してあげてね」

 差し出されたミッシェルの手を握り、握手を交わす。

 その際に彼女の力を少し測るが、……流石に教師だけあってあの三人組とは段違いに強い。

 仮に僕がミッシェルの呼ぶ召喚獣達と戦うならば、ケルベロスのベラを呼ばないと勝てないだろう。

 まぁ何にせよ、変な失敗をして悪魔王グラーゼンの評判を下げずに済んだ事に安堵する。

 何せ今の僕は、しがない派遣の悪魔だから。




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