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11 闇夜の救出


 夜の間に村に向かう為、イーシャと一緒に小屋を出る。

 見上げた夜空に輝く月は、……一つだ。

 うん、やっぱり七つもある方がおかしかったのだろう。

 この世界は、あの七つの月の世界に比べれば、満ちる魔力がずっと少ない。

 中位悪魔である僕に傷を負わせれる相手は、恐らくそうはいない筈だ。


 その上でどのような形でイーシャの母を助けるか、大雑把に分けて方法は二つ。

 一つは夜の間に村に忍び込み、密かにイーシャの母を脱出させる。

 二つ目は夜が明けてから、処刑の会場に殴り込んで障害の全てを薙ぎ倒しての救出だ。

 そのどちらを選ぶかで、今後の展開は大きく変わるだろう。


 例えば前者、密かにイーシャの母を脱出させた際のメリットは、追手の数が少なくなるだろう事。

 遠くに逃げて潜んでしまえば、積極的に見付けようとはしないと思われる。

 デメリットは、その新任の司祭とやらに傷付けられたイーシャとその母が、やられっぱなしで逃げねばならない事だ。

 イーシャの母が魔女だとしても、娘を殴り付けて自白させたやり口は少し腹に据えかねた。

 何とか一矢報いてやりたいが、そうなると面子を傷付けられたと考えた教会は、多くの追手を放つかもしれない。


 では後者、処刑の会場に殴り込んだ際のメリットは、僕の気分がスカッとする事と、教会の面子を潰してその権威を引き下げられる。

 ちなみにこちらを選んだ場合はベラを呼んでから殴り込む。

 当然この手を選んだ場合は、教会は何が何でも僕等を討とうとするだろう。

 素直に討たれてやる訳にもいかないし、抵抗に抵抗を重ねてそれが大きくなっていけば、その先は反教会勢力の結成だ。

 イーシャの母の様な魔女達を纏め上げて、教会と対立する事になるかも知れない。

 でもそこまでしてしまっても、果たして良いものだろうか?

 他の虐げられる人々を救うのは、多少の手間が増えたとしても僕は別に構わないが、戦いをするならばきっと大勢の人を殺す事になる。

 その中には教会の教えを信じていただけの、イーシャと同じくらいの、或いはもっと年下の子供を持つ親だっている筈だ。



 …………よし、こっそり助け出す方向で行こう。

 後はその場その場で考えれば良い。

 どうせ教会に喧嘩を売るだけなら、何時だって売れるのだから、最初から全力で突っ走る必要はない気がする。

 考え込んでは百面相をしていた僕の顔を、不思議そうに見上げるイーシャを、僕はひょいと抱え上げた。

 暴行を受け、解放された後に小屋へと戻り僕を呼んだイーシャは、興奮状態で自覚は無い様だが、それでも大分疲れが溜まっている筈。

 少しでも体力を温存させようと、僕はそう考えたのだ。 


 驚いた様子のイーシャだったが、抵抗は無い。

 多分、抵抗しても無駄な事は、僕を召喚してからのやり取りで学んだと思う。

 抱え上げた彼女は本当に軽く、この世界の食糧事情の悪さが察せられた。

 早く彼女の母を助けて遠くへ逃げ、安心出来る状態で一杯食べさせて育てよう。色々と。


 別に欲塗れな発想って訳じゃないけれど、女の子は少し肉があった方が良い。

 前の世界の友であるアニーとかはもう、凄かった。

 沢山動いているから決して太ってはないのだが、そう、出るべきところが自己主張してて、豊かだったのだ。

 多分僕にその手の欲求が強ければ、彼女とは別の形で、もう少し仲を深めていただろうと思う。

 まぁあの時の召喚主のグラモンさんは老衰で死んでしまった程のお爺さんで、当然ながら枯れていたから、僕もその影響を大いに受けていたのだけれども。



 暫く歩くと、僕とイーシャは近くの村へと辿り着く。

 さあ、これからが本番だ。

 僕は抱えたままのイーシャに、声を出さない様に注意して、トンと一つ足を踏み鳴らす。

 周囲の闇が僕等の身体に纏わり付いて、僕等の姿は夜に紛れた。

 目指す先は教会で、その地下にイーシャの母が囚われた牢があるらしい。

 何で教会に牢屋が必要なのかは疑問だが、所在がはっきりしているのはとても助かる。


 教会に踏み込む際、僕は内心ほんの少しだけ怖かったのだが、特に異常は起きなかった。

 以前の世界ではグラモンさんに天使の存在を聞いていたので、この世界の教会に天使の影響があったら厄介だと思っていたのだ。

 足音も立てず、僕等は闇と一体化して教会の中を探す。

 件の新しい司祭とやらもベッドで寝ている所を発見したので、その頭部が禿げるように念じておく。

 魔法を使った訳じゃないけれど、悪魔の念を向けられたのだ。

 きっと頭皮に掛かるストレスは大きい。

 そして地下に降りれば、成る程、鉄格子の向こうに、更に手足を鎖で繋がれた女性、イーシャの母の姿が在った。


 嬲られた様子のある母親の姿に、思わず声を発し掛けたイーシャの口を抑え、僕は牢の中へと入る。

 うん、女性に言う台詞じゃないけど、正直とても臭い。

 彼女、イーシャの母が悪い訳ではないのだが、嬲られた上に繋がれて垂れ流しは本当に酷い仕打ちで、匂いもきつかった。

 戻ったら、母親の方も丸洗いかな……。


 牢の鍵は、鍵穴に突っ込んだ指先を変形させて回せば簡単に開く。

 僕の身体は霊子で出来ているので、その操作が出来ればこの程度の芸当は然して難しくはない。

 牢屋の鍵が空いた音に目を覚まし、驚いた表情をしたイーシャの母。

 僕は闇を解除して、口元に人差し指を当てて静かにする様に伝える。

 抱えたイーシャの姿に目を見開いた彼女だが、それでも意図は察したのだろう、一つだけ頷いた。

 衰弱してるし、混乱もあるだろうに、聡明な人だ。


 手足の鎖も、牢の鍵と同じ方法で問題なく開く。

 後はもう、異世界の友であるアニー直伝、門の魔法で元来た小屋までひとっ飛びである。



「もう、喋って大丈夫ですよ」

 抱えていたイーシャを地に下ろし、彼女と、僕が出した門を見てからずっと呆然としているイーシャの母に声を掛ける。

 僕の言葉と、自分達の住まいである小屋を見、漸く状況を把握した様だ。

 イーシャと彼女の母は、喜びの涙を流しながら硬く互いを強く抱き締め合う。

 感動の再会と言っても決して過言じゃない。

 彼女たちが置かれた状況は、とても過酷だったから。

 僕はそんな二人を助けれた事に満足して笑みを浮かべながら、……匂いと汚れの移ったイーシャも母親と一緒にもう一度丸洗いする事を決めた。




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