表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/152

1 悪魔の声


 悪魔:悪魔とは悪を象徴する超越的存在で、人を堕落させて神に敵対する者。

 正しき手順に従えば悪魔を人の手で召喚し、其の力を借りる事も可能。

 ただし力を借りる為には相応の対価を必要とし、また悪魔は召喚者の裏をかいて破滅に追い込もうとすると言う。

 悪魔に力を借りる対価としてポピュラーな物は生贄や召喚者の魂や体の一部等……。



「死にたくないなぁ……」

 誰も来ない病院のベッドの上で、僕はぽつりと呟いた。

 もしかしたら呟いた心算なだけで声は出てないかも知れない。

 だって僕の口には呼吸を補助する為のチューブが奥まで繋がれているから、普通に考えたら声なんて出る筈がないのだ。

 まあ別に構わない。

 この場所には僕しかいないのだから、誰かに聞いて欲しかった訳じゃなかった。

 単にそう、死にたくない事を自分自身で再確認しただけだ。

 けれども、

「ほう、では聞かせておくれ。お前さんは何故死にたくない?」

 耳元で誰かの声がする。

 誰も居ない筈の病室なのに、僕以外の誰かの声が。


 ……何故死にたくないかだって?

 そんな事は決まってる。

 死にたくないから死にたくないのだ。

 生きたいと思う事に理由なんて要らないじゃないか。

 確かに僕は、特に将来の夢もないし、成績優秀で将来が約束されてたりもしなかった。

 部活に熱心に打ち込んでいた訳でも無ければ、誰か好きな女の子がいてどうしても告白がしたいなんて心残りも特にはない。

 何も無く漫然と、こんな身体になるまで生きて来たのだ。

 でもだからって死んで構わないと思う訳があるものか。

 寧ろ僕は未だ何もしていないのだからこそ、死にたくはなかった。


「成る程、死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば、存外強い言葉で吠える。……そうか、お前さんは何もなくとも生きたいか。儂とは逆じゃな」

 そう言って耳元に聞こえる言葉、儂さんは自分の事を語り出す。

 その内容はとても荒唐無稽な物だったけど、別にそれはどうでも良い。

 だってもうずっと僕に話し掛けて来る人なんていなかったし、例え此の声が孤独に狂った僕自身の声だとしても、もうそれでも構わなかった。

 声は、儂さんは、自分を悪魔だと言う。

 そう、悪魔だ。あの羽があって尻尾が生えてて、何だか悪い事をするらしいアレだ。

 多分ゲームで敵で出て来てたから悪役で間違いはない。

 石の身体で動くとかだっけ? それとも燃える鞭を持っている?


「……ん、石はガーゴイルで、鞭はバルログかの。大体似たようなもんじゃよ。まぁ知らんなら知らん方が健全でえぇわい」

 そんな風に言う儂さんだけど、その声は少し寂しそうだった。

 でも仕方ないじゃないか。

 学校に在った黒魔術同好会の人達なら何か知ってるのかもしれないけど、……僕はそう言うのにも特に興味がなかったのだから。


「ずっとずっと生きて来た。多くの人間を破滅させ、魂を貪り食って力を付けた。別にそうしたかった訳じゃないが、悪魔とはそういった存在じゃからな」

 儂さんの言葉は今一つピンと来なかったが、でも魂を貪り食うと言うくだりには身体が震える。

 いや、僕の身体は動かないので、ひょっとしたら震えたのは魂だったのかも知れない。

 確かに、儂さんは最初に『死に掛けの魂で小腹でも満たそうと思って来て見れば』と言っていた。

 嫌だ、死にたくないし食べられたくもない。

 何とか逃げようと、動かぬ体でに必死で命じていると、

「待て待て、もう喰う心算はない。寧ろお前さんを救ってやろうと思ってる。別に信じんでもえぇ。儂は悪魔じゃから、信じられても困る。ただ提案を聞いて飲むか飲まんか決めてくれ」

 儂さんは僕の胸に手を置いてそう言った。


 ……。

「儂はもう生きるには飽いた。お前さん、儂の代わりに悪魔として生きてみんか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ